KAKERU

【翔】の章




                                         圭堂 さん 


第 2 話 昔日(19)



数日後、鬼塚代議士の選挙事務所に斎藤恵次の姿があった。

「どうだ、斎藤、例の件は?」

「岩倉の件ですね、先生」

「そうだ、岩倉の件だ」

事務所の応接で、鬼塚代議士と斎藤が密談をしていた。

「首尾は上々です。先生」

「そうか、ご苦労だったな。岩倉の奴が俺を裏切り、対抗馬の応援に回ると

いう噂を聞いたからには放っておけん」

「大丈夫です、先生。岩倉はもう完全に私の言いなりです」

「岩倉の資金と人脈は魅力だからな。俺の後援会を抜けることなど絶対に許

さん」

「そのとおりです、先生。次の選挙には絶対に岩倉の協力が必要です。でも

ご安心ください。私が骨抜きにしましたから」

「ほぉ、一体どうやって骨抜きにしたんだ、斎藤」

「例の淫薬を飲ませました。毎日少しずつ口移しで飲ませてやったら、効果

てき面でした」

「ほぉ、それで」

「薬の効果は絶大です。もう完全に操り人形同然です」

「操り人形か、そりゃいい。しかし岩倉は最強のタチと聞いているが?」

「いえいえ、今や完全に女です。尻に入れてくれ、入れてくれと泣いてせが

みますから。まぁ淫薬を軟膏にして、尻の穴の中にもたっぷり塗りたくって

やりましたから。あの薬は強力です。どんな男でも尻穴に塗られたらイチコ

ロです。尻が疼いて女になります」

「そうか、女か。そりゃ楽しみだ。しかしその薬、大丈夫だろうな、ヤバイ

代物じゃないだろうな、斎藤」

「ご安心ください。先生にご迷惑を掛けることは絶対にございません。薬物

ではなく、れっきとした医薬品です。ま、もっとも認可はまだされていない

薬ですが、ははっ」

「悪魔のような男だな、お前は」

「滅相もございません。鬼塚先生にはとても敵いません」

「馬鹿野郎、俺はいつでも善人じゃないか、はははっ。ところで斎藤、今の

岩倉は操り人形だと言ったな」

「はい、先生」

「今度岩倉を俺の所に連れて来い。徹底的に尻を掘ってやる。前から一度あ

の男を抱いてやりたいと思っていた」

「かしこまりました、先生。すぐに手配いたします」

「そうだな、場所はここではなく別荘だ。あそこなら思いっ切り奴を犯せる

からな」

「承知しました、先生」

「斎藤、お前が徹底的に尻を掘ったから、もう尻穴がガバガバということは

ないだろうな」

「大丈夫です、先生。ほとんど処女穴ですから。それに抱き甲斐があります

よ、岩倉は。魔羅は特大ですし、びっくりするほどの絶倫です。おもしろい

ように射精しますよ。三回連続くらいは楽勝です。射精する時は尻穴がキュ

ッと締まりますから最高です」

「そりゃあ、楽しみだ。女も良いが、締まり具合の点では男の尻穴が一番だ。

男の尻の味を知ったら、もう止められんな。俺は以前から岩倉のように大柄

で男前の尻を掘ってみたかったんだ。すぐに奴を連れて来い、いいな、斎藤」

「はい、先生」

 

その頃、服部文雄は甲斐甲斐しく岩倉康太郎の世話をしていた。

「大丈夫ですか、康さん」

「すまんなぁ、文さん。何だか頭がボーッとして…。一体俺はどうしたんだ

?」

「心配しないで、康さん。仕事は若い人達に任せましたから。しばらく休ん

でいれば治りますよ」

岩倉は自分の身に起きたことをほとんど覚えていなかった。斎藤に激しく尻

を犯され、何度も射精させられたことも全く記憶していなかった。

斎藤と岩倉の絡みを見せ付けられた時、服部は大きな違和感を覚えたが、そ

の感覚は間違いではなかった。目の前の岩倉は薬の副作用のような症状を訴

えていたのである。

最愛の服部にさえ尻穴に触れさせることを許さなかった岩倉が、斎藤の前で

尻を突き出し、尻穴を犯されてよがり泣くなど信じられない光景であった。

ただ岩倉の様子を見て、服部は確信した。岩倉がウケとして凌辱されたのは、

岩倉自身が望んだものではなく、外的要因によってもたらされたものだと確

信し、斎藤を遠ざけるようにした。

岩倉はおとなしく服部の言うことを聞き入れ、徐々に体調も回復していった。

だが時々尻が疼いてくることだけは服部に黙っていた。

 

数日後の土曜日の朝、ふたりが食事をしている時のことであった。

「文さん、食事を終えたらちょっと出掛けてくる」

「えっ? まだ無理ですよ、康さん。まだ完全に治り切っていないじゃない

ですか」

「いやもう大丈夫だよ、文さん。心配掛けてすまんな」

「無理しないでください、康さん。それに一体何処へ?」

「今朝な、国分の爺さんから電話があったんだ。ちょっと話がしたいという

電話がな」

「国分先生?」

服部は怪訝な顔をする。

国分誠司(こくぶ・せいじ)、73歳。163センチ・65キロ。元代議士

で地元有数の実業家であり資産家である。70歳の時に政界を引退し、以降

は地場優良企業の会長職にある。政治家時代も悪い噂は一切なく、政界引退

後の今でも最高権力者であるが、偉ぶる所は全くなく、清廉潔白・頭脳明晰、

いつも穏やかで何よりも目を見張るほど美しい老人であった。

岩倉と国分は同じ実業家として以前から交流があった。国分の政治家時代は

岩倉が後援会会長の立場で応援し、それが縁で服部とも交流があった。政治

家引退後、国分は鬼塚正一を後継者に指名して自分は後援会の会長となり、

岩倉は国分に乞われて副会長の職に就いたのである。

国分を訪ねるという岩倉の言葉を聞いた時、服部は違和感を持った。何故な

ら、国分から岩倉宛の連絡は、服部が仲介することがほとんどだったからで

ある。

「国分先生の所であれば、私も一緒に行きますよ、康さん。やっぱり心配で

すから」

服部がそう言うと、岩倉は席を立って服部に近づきギュッと抱き締める。

「ありがとう、文さん。俺がだらしなくて…。でもな、やっぱり一人で行く

よ。そろそろ俺も元に戻らんといかんし。ここ数日は文さんに迷惑を掛けっ

放しだから少し休んでもらわんとな。大丈夫だよ、すぐ話は終わるから。昼

前には戻ってくるから」

「でも…」

「文さん。俺には文さんだけだよ。文さんだけを愛しているよ。これ以上文

さんに迷惑は掛けられん。文さんに倒れられたら俺はもう生きていくことが

できん。だから安心してくれ。一人で行ってくるよ。なっ、文さん」

「そこまで言うのであれば…」

服部は不安であったが、岩倉の申出に首を縦に振った。そして半時間後、岩

倉は国分の元に向かった。

 

しかし、昼になっても岩倉が家に戻ることはなかった。

僅かな不安を抱きながら、服部はじっと岩倉の帰りを待っていた。しかし予

定の昼前を過ぎ、正午を過ぎ、一時になっても岩倉が戻ってくることはなか

った。

服部は胸騒ぎがした。そして電話の受話器を手にしていた。

「私、岩倉産業の服部と申します。国分先生はおいででしょうか」

心配した服部は国分誠司に電話をした。やや間を置き受話器の向こうから声

がした。

「はい、国分です。おやっ、服部専務。どうかされましたか?」

受話器越しの国分の声はいつものように穏やかであった。

「あ、いえ。うちの岩倉がおじゃましているのではないかと思いまして」

「岩倉会長? いえ、お見えではありませんが…」

「えっ?」

服部は言葉を詰まらせた。嫌な予感が的中したのである。

「岩倉会長がどうかされたんですか? 服部専務」

「あ、いえ、その…」

「何かあったんですね。どうしました、服部さん」

穏やかだった国分の声のトーンが変わる。

「あっ、岩倉が国分先生の所にお伺いすると言っていたものですから。いえ、

私の聞き間違いだったかもしれません…」

服部は咄嗟にその場を取り繕う。

「その声は何か問題が発生したのではありませんか、服部さん」

国分は電話口の服部の異変に気付く。

「いえ、そんなことは…」

「私にできることであれば、協力しますよ、服部さん。遠慮は無用です」

「あ、はい。もし何かあればその時は。変な電話で申し訳ございません、先

生。では…」

受話器を置いて斎藤は口走る。

「しまった、斎藤だ」

服部の脳裏に斎藤の姿がよぎった。岩倉は国分の元を訪ねると言って家を出

たが、斎藤に呼び出されたに違いないと確信した。

その時、玄関のチャイムが鳴った。

「え?」

慌てて玄関に走り、ドアを開けると、そこには鬼塚代議士の選挙参謀役であ

る斎藤恵次が立っていた。



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