愛欲の海



                                      もりつぐ さん 


(1)



「愛欲の海は波が高い。用心しないと、流され、沈没する。相方の

爺さんが言いました。目指す目的地も定かではない。辛くても我慢

して進むしかないのだ。爺さんの顔を見ながら、そう思いました。」

 

             ――――――

 

若い頃から初老のおじいさんに憧れました。ちょっと渋めの中肉中背のお

じいさん。タイプでした。なぜ初老の人に惹かれるのか。理由はもやもや

した霧の中。ずっと分かりませんでした。

 

先生に出会ってから、分かるようになりました。先生とは、愛したおじい

さんのことです。大事な相方です。嫌なこと、辛いこと、嬉しいことも聞

いてくれます。助平なことも、何でも話せる私の伴侶でした。一緒にいる

とずいぶん楽しい人です。

 

わたしは身長165cm、75キロのちょっと太めのおじさん50歳です。秋山

憲造は、身長160cm、体重50キロの、小柄な人で、私の先生です。剣道を

やっていたので、腕力は相当なものです。筋肉は引き締まっています。プ

ロの絵描きで、若い時は洋画家、今は日本画を書いています。

 

なれそめの話です。評判のいいスナック浅草にありました。シニアがよく

行くスナックです。店主は平泉出身の、素朴で誠実な人です。その店に普

段は見かけない小柄な客がやってきました。何気なくこっちを見ています。

まだ現役ですから、私は週二回ほどしか通えません。日頃のストレスを開

放するためです。

 

その爺さんは、たまにはやって来るようになりました。郊外のどこかに住

んでいるのです。ビールを注いだり注がれたり、世間話もするようになり

ました。いつも一人です。相手はいないのか。気になりました。私の理想

は、中肉中是、腹の出ていない人です。確かに理想に近いかも知れないと

いうのが私の印象でした。好きというほどのことはありません。

 

マスターがやってきます。「ターさん。あのお年寄りが、君と飲みに行き

たいと言っている。どうだ。付き合ってみないか。悪い人ではないと思う

。」

マスターの紹介です。一緒に出掛けることになりしました。6か月後のこと

です。

 

当時、私は、一緒に飲み歩く爺様を亡くしました。しばらく一人の時でし

た。何となく、侘(わび)しい気持ちで一杯でした。新たな恋の道行も悪

くないと思っていました。ふけを愛して、愛する気持ちにおぼれてみたか

ったのです。私は若いのはだめです。

 

若者は好きという感情にすぐおぼれてしまいます。それを見るのには、抵

抗がありました。だから避けたいのです。少し離れて自分を見つめる冷静

な目がほしいと思いました。愛欲に溺れるのは若い証拠です。でも私はも

う50歳です。それでは駄目だと思いました。そんな時、秋山さんという

理想のおやじちゃんに出会ったのです。

 

先生は、剣道の達人です。画家でもあります。50歳の時連れ合いを亡くし、

後添いも貰えずに一人でした。知り合いが紹介する後添いは山ほどありま

す。でも二人の息子が、後添いの話を次々に壊してしまいます。独り身は

すでに10年になりました。

 

爺さんは、当時70歳。出会ったのは不思議な縁なのです。炭鉱の街、飯塚

市の出身で、高齢の祖父に育てられたと聞きました。顔も身体も小さい、

可愛い日本画家でした。

 

同居していた同郷のシニアをあっさり捨てて、相方になってくれた人です。

それまでいた人には、可哀想でした。でも仕方がない。恋愛は自由意志が

基本です。自己責任で決めるのものです。相手も選び、自分も選ばれる相

互的な世界です。双方の合意の結果、カップルができる。だから誰にも文

句はいわれません。

 

紆余曲折はありました。簡単に一緒になれたわけではありません。若い時

から、年寄り好きの私です。50歳の遅い出会い。本格的な人生の出会いだ

ったのです。初老の紳士で、分別もあり、色気もある人です。初めて家族

の一員として認めてくれた爺さんです。

 

ちゃらんぽらんに生きて来た男が、これからどう生きるか。波乱万丈のお

話です。みなさん、聞いてくださいね。コメントを待っています。




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