愛欲の海



                                      もりつぐ さん 


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 身の丈に合った暮らし

 

沖縄人(うちなんちゅう)と親しくなれたのは、おやじさんの力でした。

飲み屋でも友人がいて、誰が何をしているか聞かなくてもわかっている人

でした。性格も地位も違う人と上手に付き合えるのは、大変なことです。

多様な人間関係には驚かされました。

 

「どこまで伸びるか分からない。だから面倒を見たのだ」といいました。

正常と異常を分けない点も、人には珍しいことです。ホームレスも、お金

持も、同一視です。万人平等が原則です。人は外形では判断してはダメだ

と、本人の行動を見て、よく分かりました。

 

経済は、経世済民のこと。世を治(おさ)め、民をすくうことです。政治

の目的は、社会の資源を使って、人々の暮らしの豊かさを実現することで

す。家計の原則も同じで、笑顔でみんなが暮らせることが、目的なのです。

 

おやじさんは、金に恬淡(てんたん)な人です。あれば使うが、なければ

倹約する。身の丈に合った暮らしが一番という生き方でした。仕事は画家

で、定期的な収入はもちろんない。旅行のために、知り合いの肖像画をせ

っせと描いていた姿が印象的でした。

 

旅行の時、予定地を変更し、短縮しようと提案しました。資金不足からで

す。「なんくるないさ」といいました。「何とかなるさ」の沖縄方言です。

そのうちに、どこかからお金が届きました。放縦なようで、収支を合わせ

ること。それがおやじさんの流儀でした。

 

 深層の男性志向

 

内面の底の方にある、男性志向は深刻でした。それと向き合っての暮らし

は、きつかったようです。ずいぶん苦労してきた人生のはずです。仏教も

山伏の修行も、何の役に立たない。だから、「お前とここにいるのだ」と

苦笑いです。

 

「男が好き」という性質は宿命的で、生半可(なまはんか)な修行では克

服出来ない。骨身にしみていたのです。還暦を過ぎ、なんとか処理できる

ようになったと笑いました。「同じ病にかかっている。お前も哀れだなと」

と言いました。

 

どうしようもなく身がうずく時があります。画家だから特に強かったので

しょう。その時どうしたのか、と聞きました。「各地にあるサウナか、健

康センターにいって、よさそうなやつを見つけて、出してもらえばいいの

さ。」、「さらり」と言ってのけました。

 

 愛欲の第一歩

 

話は前後しますが、会って最初の頃のことです。はじめて泊めてもらった

晩のことです。疲れていたので、すぐに寝付きました。おやじさんは、寝

付きの悪い人です。そばに好きなのがいれば、よけい寝られない性格です。

悶々(もんもん)としています。

 

大雑把な性格の私は、相手がいようがいまいが、関係なく寝てしまいます。

ふと気づくと、おやじさんの手がそろそろ伸びてきて、身体に触(さわ)

ます。最初は顔に触れ、首から方にさわり、胸から腹へ、そして腰へと、

ゆっくりと動いていきます。

 

眼で見たものを確かめるような触り方です。大事にゆっくりとです。触ら

れた私は、指先や手の温かさを感じ出します。仰向けに寝ている股間の茂

みに手が触れ、マラが立ち上がる。もちろん、あっという間の出来事です。

鰓の張った亀頭に、おちょぼ口が当たります。

 

咥(くわ)えた亀頭を、するっと飲み込みます。さすがの私も、状況を把

握(はあく)します。声も出さずに、最初の愛撫を受け止めます。亀頭の

張ったマラの先で、舌の愛撫を受け止めます。そして、おちょぼ口が離れ

た瞬間、今度は相手の口を塞(ふさ)ぎます。

 

長い口づけ、舌を絡ませた本格的な接吻は、はじめての事です。愛欲の最

初の交換でした。何もかも忘れて、おやじさんと私は一つになりました。

身体全部で好きだと互いに主張したのだと思います。愛情などという次元

の高いものではなく、激しい愛欲の交換でした。

 

助平な中年とシニアの画家が、物欲をぶつけ合った瞬間です。もちろん、

人に見せられるようなものではありません。でもこの交換は、二人にとっ

て生理的満足でした。さっぱりしたおやじさんは、裸のまま台所に行き、

温(ぬる)めの緑茶を淹(い)れてくれました。

 

もちろん、二人の仲はごく自然にうまくいきました。ただ見ているだけで

なく、身体に触れあう大切さが、身に染(し)みた瞬間でした。身体の隅

々まで手で触り、舌で触ったのは事実です。記憶にもしっかり書き込みま

した。不思議な一体感に包まれました。

 

「存在の合一」という言葉があります。男同士の一体感は、愛欲の土台な

のです。愛を形成するための、大切な第一歩です。唇を重(かさ)ねてみ

て、唇の裏側の状態、つまりビロードのような滑らかさに触れてみて、そ

の人の良さが分かり、相手が好きになるのです。




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