愛欲の海



                                      もりつぐ さん 


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 好奇心の強い爺さん

付き合い始めた爺さんは、年に似合わず、新しいことが好きでした。好奇

心の強い人です。だから、金があっても無くても、旅行には行きました。

国内はもちろん、海外にもです。旅には、出会いがあるからです。自然も

違うし、人間も、言葉も、文化も違うからです。

旅は何より相手の事がよく分かる機会です。新たな出来事に対処する姿を

見れば、経歴や、人柄も分かるからです。ハワイはもちろん、西海岸にも

出かけました。ゲイが半分という町まである
L A (ロス・アンジェルス)

です。彼らは、ゆったりと暮らしていました。

ハンドルネームZENさんという人がいました。60代半ばのひとです。米国

ABM社の、副社長を務めた人です。スタンフォードのMBA出身で、米国

に在住しています。もちろんパートナーもいます。日本人やアジア人だけ

でなく、白人とも交流するグローバルな人です。

ZENさんとは、ずいぶん交流しました。一度来てみろというので、応じま

した。
70の爺さんと50代の日本人のカップルです。宿はどうする。どこに

行って誰と会えばいいのか。プランがうまくいけば、満足できるのですが、

プランを立てるのは難しいのです。

前に書いたとおり、爺さんは画家で、決まった収入がない。安いホテルか。

ホームステイかで随分悩みました。日本と違って、食事、宿泊、運賃、何

にでも、お金がかかります。爺さんには金がない。蓄えもない人です。海

外に行くには金が必要です。だから困った。

結局、着いた日は、SF(サン・フランシスコ)の中ぐらいのホテルに宿泊。

翌日からはホームステイです。現地の日本人は、きわめて友好的で、われ

われを歓待しようという合意が出来上がっているようでした。本当に助か

りました。

 

 アメリカの年中行事

アメリカ社会の年中行事は、日本よりも多いのが普通です。出かけたのは

10月中旬です。サンクス・ギビングやハロウイーンがある頃です。その

行事にことかけて、日本人達は、パーティーを開きます。もちろん家族の

いない白人の友人も、招かれます。

ウエルカム・パーティーは、歓迎会のことです。家族的な小規模なもので

した。すべて、
ZENさんが調整してくれました。中肉中背の彼は、薄い頭

髪に手入れのいい口ひげを蓄えた典礼的なおじいさんです。小柄な白髪が

相方で、二人とも和服で過ごしていました。

日本から70代と50代のゲイのカップルがやって来る。初めての事だが歓迎

しよう。われわれも日本に行くことがあるかもしれない。その時は世話に

なるのだから。英語と日本語で歓迎のスピーチがありました。参加者の持

ち寄った品を並べた家族的な歓迎会でした。

爺さんは持参した羽織袴を身に付けています。私は紺の三つ揃です。短い

のも、少し長いのも、いろいろですが、全員がスピーチしました。爺さん

は日本の高名な画家であると紹介されました。お世辞でも褒められれば嬉

しいのです。

「作品は持参したのか」と聞かれました。日本画は、海外では人気です。

風景や人物は、綺麗なのが、外人には特に好まれます。京の街並み、芸子

さんにも人気がありました。希望があれば、実際に描いても上げてもいい

と、爺さんが直接、日本語で話しました。

持参したのは、田舎の藁葺(わらぶ)き屋根と、京の舞妓さんの作品でし

た。実は数点、別に作品がありました。見たければ見せてもいいといいま

した。一つは真っ黒に日焼けした子供の姿。もう一つは、若い人のふんど

し姿。どちらも
40号にも満たない小作品です

すぐに質問がとびました。「記念に描いてもらいたい。私たちのところ来

てもらえるか。」画家は私の方を見ながら答えました。

「ではあなた方の家に出向いて、絵を描きましょう。ゆっくり食事でもし

て、書くことにしたいが、どうですか。」

翌日、迎えの車に乗りました。30分ほど走って着いたのが、郊外の広い一

軒家でした。手入れの行き届いた日本庭園は印象的でした。注文は二点で

した。爺様の和服姿と洋装の二人の姿です。何かあったときの記念にする

のだといいました。

 カップルの裸体画像

絵が描き終わるのには、時間がかかります。持参した小品を見たいと主人

が言います。年齢は
70代後半の人で、相方は60代後半でした。日焼けした

子供の絵も、褌の絵も売れそうにない。それを買い上げてくれるというの

です。好意からの申し出でした。

爺さんは、欲のない人です。「どうしようか」と考えています。「では、

全部で
100万でどうですか。ただ条件があります。洋装はやめて、裸にして

はどうですか。他人に見せるためのものではなく、二人だけの記念のため

です。写真にとって、後で仕上げて送ってあげましょう。」

 

日本人のカップルが裸の絵を描いてもらうことになりました。年かさの爺

様は、和服を脱ぎ、ふんどしの紐を外します。
60代の爺さんに声をかけま

す。「お前も裸になれ。」その爺様も着物を脱ぎにかかります。洋服の下

は真っ白な六尺ふんどし。強い照明に裸体が浮かび上がります。

 

するとそのカプルのうち、70後半の年かさの爺さんが言いました。

 

「もしもの事を考えて、君たちの裸体も、人質に取らせてもらおう。その

写真は、優秀なアメリカのカメラマンに、すでに頼(たの)んである。」

 

お返しに、私たちも裸体を曝しました。爺さまは真っ白な越中、私は、真

っ赤な六尺ふんどしです。目立ちますが、相手の爺さんは大よろこびです。

こんなことは考えても見なかったと。年かさの爺様は、
100万円を現金で

ポン。爺さまに渡しました。爺様はもちろん大喜びです。

 

旅費の心配がなくなったからです。その日、ZENさんの好意で、かれらの

屋敷の離れに泊まりました。その晩は、立派な和食が準備されて、日本人

の仲間が集まって、一緒に夕食でした。その家の女中さんも男衆も、みな

日本人です。多分、人助けの一環なのでしょう。

 

彼らは仲間でパーティーを開くのが好きだといいます。異国で肩を寄せ合

う日本の人々。胸が熱くなりました。その晩、われわれのためにパーティ

ーが開かれました。楽しい一時(ひととき)です。忘れられない夜になり

ました。




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