「晩秋の薔薇」  .

(スーさんと山ちゃんの世界)  .



                                         N爺さん 


(6)  .



 翌々日まで、スーさんからは何も音沙汰が無かったので、高志は待ちき

れずにメールをすると

“尿道の奥のほうに違和感を感じ、少し痛みがあるのだけれど医者へいっ

たほうが良いだろうか ”

 という返信が来た。

 高志は脳天を打たれたようなシックを覚えた。もしかしたら、自分の口

の雑菌がスーさんの尿道を侵したのかも知れないと思ったからだ。

 そう言えば、高志は義歯が合わず、歯茎に傷が出来ていた事を思い出し

た。

“歯茎の傷の雑菌が入ったのかも知れませんから、すぐに泌尿器科に診て

もらって下さい。お盆に入ると医者は休みに成ると思いますから、早いほ

うが良いでしょう ”

と返信を送った。 翌日、

“矢張り雑菌かウィルスが尿道に入ったので、セックスは駄目と言われま

した。女性とのセックスも駄目。山ちゃんとも駄目。しばらく時間を下さ

い ”

 と言うメールが届き、高志は目の前が暗くなったような気がした。

 大好きなスーさんにとんでもない事をしてしまった。申し訳ないと思う

気持ちでどうして良いかわからなかった。   

 もうスーさんとのことは諦めるしかない…そう思っても、頭の中はスー

さんのことばかりだった。

 高志は、前立腺肥大で、K市では大きな病院で二ヶ月に一度、尿検査を

しており、毎回

「糖も細菌もなく、きれいなおしっこです」

 と告げられており、四年前には、エイズの血液検査もしており、そちら

も感染はしていないと告げられている。

 スーさんが忘れられず、追い討ちを掛けるように

“スーさんさんの気持ちが鎮まるまで私は待ちます。でも五~六年先まで

待つのだったらその頃私は認知症になっているでしょう ”

 半分脅迫がましいメールを送って、高志は自分を恥じた。

 自分で迷惑を掛けながら、何を言っているのだろうと思った。

 恐らくスーさんは自分に嫌悪感を抱いたに違いない、もうこれで終りか

も知れない。

 そう思った高志は毎日暗い気持ちで過ごした。それでも時間だけは過ぎ

て行った。

 八月も終わろうとしている三十日に

“明日、妻の用事でそちらへ行きますが…十二時から十七時まで空いてい

ます。どうしますか???? ”

 思いがけず、スーさんからメールが届いた。

“こんなメールが来るのを今か今かと待っていました。勿論逢いたい ”

その返信を待たず、矢継ぎ早に

“△△△で十三時に待っています。顔を見るだけでもいいけど、矢張り抱

かれたい… ”

“明日△△△に十三時、解かりました。病気は駄目よ!宜しく ”

 その返信を見て、高志は思った。もしスーさんがまた尿道に炎症をおこ

したらどうしょう…そうだ今度はコンドームを付けてもらって尺八をしよ

う。そんな事を考えながら、明日が待ち遠しい高志だった。

 翌日、時間ぴったりにスーさんは△△△へ白い車でやって来た。今度は

「どちら様ですか」

とは言わずに、黙って車のドアを開け眼鏡の奥のスーさんの目が微笑んだ。

 車は、再び前のモーテルへ向った。

矢張り、日曜日だったので運転をしているスーさんは、空室を探すのに苦

労している様子だった。

 どうにか一個の空室を見つけて入ることが出来た。

 部屋に入ると、慣れた様子で風呂の蛇口を捻って、お湯を満たした。

 そして、スーさんは高志を抱き寄せ、接吻をした。

「山ちゃん、今度から俺に会うときは二時間前から煙草を吸わないで」

「ごめん、煙草臭かった?」

「最初だけね」

 ヘビースモーカーの高志は、二時間の禁煙は辛いと思ったが、スーさん

に嫌われたくないから、今度は三時間前から禁煙しようと思った、

いつもながら、年下のスーさんがリードする形になって、高志は自分がず

っと年下に思えてならなかった。

 それはスーさんには、円熟した男の魅力があるのと、スーさんが高志を

「山ちゃん」

 と、ちゃん付けで呼ぶせいもあるのだろうと思った。

「山ちゃんは本当に子供なんだから…メールをしないと、嫌われたのでは

ないかとすぐ言ってくるんだから…」

「スーさんが大人で、甘えたくなってしまうのだから仕方が無いでしょう」

「構わないよ、今度頭をゴツンとしてやろう」

「スーさん…好き~」

二人は抱き合いながらベットへ向った。

互いの気持ちを確かめ合うように、激しく抱き合った。

 スーさんはゴルフで体を鍛えているので、硬く締まった体をしていたが、

肌はやさしい感触だと高志は思った。

「コンドームを付けて」

と高志か言うと

「駄目、生でやって欲しい。又病気になったら泌尿器科に行けばいい」

「知らないよ」

 高志は、スーさんの気持ちが嬉しかった。普通なら、病気を移された相

手には二度と会えたくない筈なのに、一ヶ月も経たない内に、又逢ってく

れて、しかも又病気を移されてもいい、などと言ってくれる人は世界中探

しても居ない。

 高志は、もうこの人を絶対離したくないと思った。

 前にも増して、高志はスーさんを愛おしく思い、激しく性戯に耽った。

 お互いに射精を確かめ、風呂に入ってモーテルを出たのが、十五時三十

分頃だった。スーさんは十七時まで時間を持て余すだろうと思い、

「これから、カラオケにでも行きましょうか?」

「カラオケもいいね」

 高志は行きつけのカラオケ店があるので、そこへ案内するこしにした。

 そこは店内が清潔なので、高志は妻と時々利用する店だった。

 日曜日とあって、店内は高校生がいっぱい居て、受付に時間がかかった。

ようやく受付をしたら、

「二十分ほどお待ちいただけますか」

 とのことだった。

 こんな場所で二十分も待たされたのでは、誰に会うか解からないので、

「又にします」と言ってその店を出て、近所のカラオケ店へ向った。

 そこは受付をしてすぐに部屋へ案内してくれた。高志はスーさんに聞い

て欲しい歌があった。それは、高山厳の歌う「心凍らせて」であった。

 

 心凍らせて 夢を凍らせて  

   涙の終りにならないように

 

 という一節があるからだった。

スーさんとの関係を涙の終りになって欲しくないと思い、高志は心を込め

て歌った。

 上手でも下手でもないが高志は歌が好きで、特にムード歌謡曲を好んで

歌う。

 高志の歌を黙って聴いていたスーさんは、自分でも機器を操作して予約

を入れて歌った。

 主に、演歌で最後に氷川きよしの歌をメドレーで歌った。

「スーさんの歌声はソフトなので、氷川きよしよりムード歌謡のほうが合

ってるかも知れないよ」

「今度、五木ひろしの〝桜貝〟を練習して歌うよ」

 スーさんは五木ひろしの公演を聴いてきたばかりだと言う。

「是非、今度聞かせて」

 一時間ほどカラオケ店で楽しく過ごして、高志は今日待ち合わせた場所

まで送ってもらい別れた。

 三時間半の逢瀬であったが、高志は最高に幸せだと思った。

“今日は大変お世話になりました。お疲れ様でした。途中夕食を食べて今

着きました ”とメールが届いたのは、十七時三十分頃だった。

 次の日、高志は心配で、

“尿道に違和感はありませんか ”

 とメールを送った。

“アソコの違和感はあります。いつもおとなしくしているアソコを約一時

間も舐めたり、しごかれたりするのですから午前中違和感はありました。

でも前回の違和感とは違います。こすられ、尺八をされた違和感です。そ

の内収まります。心配ない、心配ない、心配ないですよ~心配していただ

いて有難うございます ”

 なんとやさしい人だろうと高志は思った。高志を思い遣る心がひしひし

と伝わるメールだった。

“少し安心しました。スーさんとのことは、これっきりにしたくありませ

ん。会う会わないは別にして、時々メールを下さい。待っています ”

 と高志はすぐに返信をした。

それから二日経ってもスーさんから何の連絡も無かったので、高志は心配

になりメールを打った。

“あれから間もなく一週間。音信がないので心配です。何が心配なのか…

一つは、また泌尿器科のお世話になったのではないか。もう一つは、私の

ことはもう忘れてしまったのではないか…と言うことです。どちらも私の

取越し苦労ですよね ”

 メールを心待ちにしていた高志の携帯に着信音が鳴った。メールではな

くそれは電話だった。

「忘れる訳が無いでしょう。山ちゃんは本当に子供なんだから」

「スーさんを兄貴みたいに思っているのだから仕方が無いでしょう」

「実は、矢張り尿道の痛みが取れなくて、夜眠れないから、医者へ行った

よ」

「うそ…」 

後に続く高志の声が詰まって、何も言えなくなってしまった。

 前回は、自分の配慮の足りなさで、スーさんに迷惑を掛けたのだから、

今度は十分気をつけようと思い、家を出る前に、爪を切ったり、歯を磨き、

お湯でペニスとお尻の穴まで綺麗に洗い、万全に備えたつもりだった。

 それに、高志は歯茎の傷も治って、今度は殺菌・消毒のできる、うがい

薬を持参して、スーさんと一緒にモーテルに入ってからと、出るときにそ

の薬でうがいをしたのに、何故だろう…

「山ちゃんにきっと何か悪い菌が棲み付いていると思うから、診てもらっ

たほうがいいよ」

「………」

「今度逢ったら、もう一度生で尺八をしてもらうよ、それで又病気になっ

たら間違いなく山ちゃんは病原菌持ちと分かるから」

 高志は信じられなかった。自分の体を実験台にしてでも高志を思う気持

ちが涙が出るほど嬉しかった。

 一度ならずも、二度までも迷惑をかけいしまい、もうこれ以上は、スー

さんに迷惑を掛けられないと思った。

「今月は二十八日に会おう」

「二十八日は私に大事な会合があることを前にスーさんに言ってあるでし

ょう」

 スーさんは、それを解かっていて、二十八日を指定したのは、高志が困

るので、その困惑する様子を楽しみたかったのだろう。

「九月は、祭日が二回あるから休みが一杯あるでしょう」

「それじゃ二十一日か二十三日にするか」 

 そこまで話した時、スーさんに来客があったため

「又あとで」

 電話が切れてから、高志は途方に暮れてしまった。

 高志は妻に自分がホモであることを、カミングアウトしてから絶対その

道には走らないと、家族に誓いながら、それを破って、性懲りも無くこの

五年間は男漁りに明け暮れた。

 映画館や公園でどれだけの人と接触しただろう?

 二~三十人は越えただろう。不特定多数の人と、不純な関係を持てば、

病原菌を保持しても可笑しくは無い。きっと神様が高志に罰を与えたので

はないだろうか。そんなことを高志は思った。

 電話が切れて、少し経ってからメールが届いた。

“十九時頃電話下さい ”

十九時を待って高志は電話を入れた。

「ごめんなさい」

「何が…私もいい思いをしたのだから仕方が無いよ」

「それにしても申し訳ない。もう私のことは嫌いになったでしょう」

「嫌いなわけは無いでしょう。嫌いになったらメールもしないし、五木ひ

ろしの〝桜貝〟など練習していないよ」

「嘘でも良いから、好きだと言って欲しい」

「……好きだよ、愛しているよ~」

「あ、言った言った、確かに聞きました。ありがとう」

 高志は初めて、スーさんから好きだ…と言う言葉を聞いた。 

それから話が続き、一時間も喋っていることに気がつき、高志は携帯のバ

ッテリーが切れることを恐れて

「携帯のバッテリーが切れるかも知れません」

「そうだね、それじゃまた…」

 スーさんは独りで、晩酌をやっている所だった。

 素面では「好きだ」などと言えない

照れ屋さんなので、晩酌の力を借りて「好きだ、愛しているよ~」と言っ

たのだと分かっても、高志は嬉しかった。

 両刀使いのスーさんは、女性8、男性2の割合が気持ちの中にあるそう

だが、女なら何人居ても嫉妬する事はないと高志は思った。

 今の所、男は山ちゃんだけだ…いうスーさんの言葉を信じ切っている高

志だった。

 それにしても、次に逢った時どう接すれば良いのだろう。

 自分が病原菌の保有者だとすれば、次に生で尺八をすれば、きっと又発

病するだろう。二度あることは三度あるという言葉があるので、高志はど

うして良いか分からなかった。

 兎に角、この次はスーさんの言う通りにしよう。そしても三度目の正直

が起こらないように祈る高志だった。



                                             続 く 










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