「晩秋の薔薇」  .

(スーさんと山ちゃんの世界)  .



                                         N爺さん 


(12)  .



 高志は同人誌の主宰者であり、二ヶ月に一度、三十ページ前後の同人

誌を発行している。

 その本の校正をしている時、高志の携帯に着信音が鳴った。

誰だろうと、携帯の表示を見ると、非通知とあり、名前も番号も表示さ

れていなかった。

 不審に思いながらも、

「もしもし山野辺ですが…」

「どちらの山野辺さんですか? もしかしてK市の山野辺さんですか?」

「はい、そうです」

「新潟の高村です。今、退院してきたところですが、お世話になった人

にお礼をと思い、いろいろ電話をしていたのですが…携帯に山野辺と有

ったのですが、何処の山野辺さんか解からなかったので電話をしてみま

した」

 なんと、失礼な…解からずに掛けてきたとは、それも忘れた頃に掛け

てくるところまで、スーさんとそっくりだと高志は思った。

「すっかり良くなったのですか?」

「今度入院するような事になれば、余命は一年と医師に言われました」

「ヘルスメーカーをつけている人は長生きすると聞きましたよ」

「前の時は余命二年と言われました」

 高村氏との最後の電話は、丁度五年前になるはずである。高志は、恐

らく高村氏は亡くなられただろうと思っていた。

 周りに人が居たので、差し障りのない会話にしょうと、高志は気を使

った。それを察して

「気が向いたら、何時でも電話を下さい」

 と言って高村氏は話を切った。

 この前、カラオケ店で、スーさんが『新潟ブルース』を歌ったばかり

なので、何か不思議な感じがした。

 次の日、妻の留守を見計らって、高志は高村氏に電話をした。

「もしもし、高村さんですか」

「違いますよ」

 〈 違いますよ 〉と言う答えは、周りに人が居た場合の合言葉だった。

 暫くして、高村氏から電話がきた。

「何か急な用件でも有ったの?」

「そうじゃなくて、今私は自叙伝を書いていて、高村さんのことも書い

たので、その部分を読んでみようかと思って…少し読んでみます。」

 高志は、原稿の高村氏の部分を読み始めた。じっと聞いていた高村氏

だったが

『今でも勃起するし、この前なんかはほんの少しだけど射精もしたよ』

 という部分まで読んだとき

「今、妻と展覧会に来ていて、トイレに行くと言って出てきたので、そ

ろそろ行ってみるよ」

「はい、解かりました」

 高志はもう少し読みたかったが、照れ屋さんの高村氏の気持ちを汲ん

で電話を切った。

 高村氏の奥さんは、癌であり闘病中だという事を、五年前の電話で聞

いて、二人とも重病を抱えて大変だろうと高志は思った。

 恐らく、高村氏は忘れているだろうが、彼には二男、一女の子供さん

があり、真ん中の女の子に高志の字をもじって[隆子]と付けたはずで

ある。

 高志も自分の下の息子に高村氏の名前の一字を貰って[忠義]と付け

た。

そんな昔もあったのだと、懐かしく当時を思い出した。

 多分、高村氏とは、この先も会うことはないだろうと高志は思ってい

る。

 お互い、独身で自由の身であれば、車で三時間の距離なので会うこと

は出来るが、往復六時間ともなれば、家族に出掛ける口実が見つからな

い。

 それに、想い出は、綺麗なままで残しておきたいと思う高志だった。

 

 磐梯山に初冠雪のニュースが流れ、何時しか季節は晩秋を迎へ、高志

の家の庭先では、妖しくも美しく精一杯、二輪の薔薇が咲き続けていた。

 

                           (おわり)












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