ぼくの恋人はおじいさん




                                         花栗 さん 



() 受持の先生



 「ハンカチ持ったかえ」

「うん。」

 誘いに来た近所の小学校からの同級生と歩いて入学式へ向かった。

「今日から中学生だ!」

口には出さないけど、友だちもそんな思いだったろう。

弾む気持ちと、ちょっぴり不安な気持ちの足取りで、まだ舗装のされてい

ない道を歩いて向かった。

背中に羽が生えたような、足が地に着いてないような、そんな気持ちを互

いに落ち着かせるように何か話しかけて歩いて行った。

 正門をくぐるとすぐに大きな桜の木が両サイドにあり、まだ少し咲き残

っていた。

前を行く真新しい制服の、今日から友になる肩に帽子に花びらがこぼれて

いた。

 初めての詰襟は、カラーが首に慣れるまで少々時間がかかった。

同じ思いをしてる子もいて、外してる子もいた。まだ詰襟でなく折襟の子

もいたから当時は大目に見ていたのだろう。家庭の事情もあったことだろ

うし。僕の家も父を早くに亡くし、母が隣町にあるパン工場と、隣のおじ

さんのビニールハウスや畑の野菜作りを手伝って収入を得ていたから楽な

暮らしではなかった。

 受持ちの先生は四十代の男の先生で、少し離れた村の住職でもあった。

国語担任の面白い先生で、男子には一番人気があったかも知れない。女生

徒は、スラリと背の高い体育の先生に夢中だった。

当時は背の高い先生は少なく、より目立ってカッコよく思えたのだろう。

そしてまたスポーツマンと来ていれば。

背が高いと言っても、180センチは無かったと思う。今は中学生でもい

るかも知れない。僕の田舎は当時、周りの大人を見ても170センチあっ

た人は数えるくらいだったろう。だから先生も高学年の生徒と同じか、中

一の僕らとあまり変わらない先生がほとんどだった。受持ちになった先生

も。

 先生の名は、「遠藤文行」と黒板に自ら書いて自己紹介をした。ケガで

もしたのか、鼻の下に小さな絆創膏を貼っていた。

その当時、160センチなかったぼくと変わらなかったから、小柄な先生

だった。豆タンクみたいな先生が何人かいたっけ。

鼻がいつも詰まってるわけではないだろうけど、クセなのか、「くんっ」

といった音を話の最中にさせた。

ツルツルに近い坊主頭を、住職であることを説明しながら、身体をかがめ

て良く見えるように、クルリと回ってみんなを笑わせた。

「頭もピカピカ一年生。」

みんなの心が一気に解れて、クラスが笑いにつつまれた。

「昨日、床屋に行ってきたとこやでぇ。」

と、また笑わせた。

 僕はそんな仕草の先生を見ながら、『三軒あるうちの、どこに行ったん

だろう…』と、ツルツル頭をぼんやり見つめていた。

すると、先生が言った内容で、それがわかった。

真ん前の机の子が尋ねた。

「顔のここ、気になるんか?

「切ったんですか?

「そうや。もう、おじいさんの散髪屋やきぃな。手がふるうんじゃ。」

「ほじゃけんど、頭切られんじ良かったわ」

みんながまたどっと笑った。

 『昨日、僕が行ったあの、おじいさんの散髪屋だ!』

先生は一人笑わず見つめてる僕に気づいた。

『この子はどうしたのかな?』と言う顔をして僕を見た。

目をパチパチさせ、そして、まじまじと目を見開くようにして…。

 帰り道、新しい教科書の詰まった重いカバンを下げて僕は文房具屋さん

へ寄る口実を作り、一緒に帰っていた友と別れた。

どうしても、おじいさんをガラス越しにでも覗いて見たくなった。

僕の心の中に、もう既に淡い恋心が生まれていたのかも知れない。

そして、先生の僕をまじまじと見た顔が気になっていた。



                                                     つづく 



[編集局注]

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