ぼくの恋人はおじいさん




                                         花栗 さん 



() 先生の越中姿



 家に帰ってからも僕はずっと、おじいさんに抱きしめられた余韻に浸っ

ていた。

カーディガン越しではあるけれど、おじいさんのお腹の動きを感じ、胸の

鼓動を聴き、おじいさんの息に顔が触れたこと…。

 そのときの感触を寝床に入ってからも胸の宝箱から取り出すように一つ

一つ思い出した。

布団の感触におじいさんを重ね、潜っては浸り、顔を出しては浸りと、な

かなか眠れないほどだった。

寝返りを繰り返し、枕の感触を頬に、おじいさんのお腹と重ねながらよう

やく眠りに就いただろう。

 

 翌日は雨だった。藁葺き屋根から庭の土に落ちる雨だれの音も楽しい気

分だった。

出来てはすぐに消えるあぶくにも、「おはよう」と声をかけたいほどに。

朝食のとき、平静を装っていても、そんな僕に気づいたのだろう。よそっ

たご飯を手渡しながら僕を見て言った。

「何か学校であったんか。ボーッとしちょん。」

僕は「ドキリ」としたが、すぐにごまかした。

「うん。まだ慣れんき。」

と、疲れてるんだというふうに、口に入れたご飯の湯気を「ほー」と吐い

た。

「そうじゃろ。顔に締まりがねえごたん。」

 

 『母からはそんなふうな顔に見えてるんだ』

と、バレなくてホッとしたが、自分では気がつかず、母から見れば鼻の下

が伸びた顔になっていたのだろう。

少し引き締めた顔を意識して出かけた。

 貧乏はともかく、母との暮らしは他人から見れば、ごく当たり前の母と

子に見えたろう。

けれど、いつの頃からだろう。母に、母の愛の薄さを感じ始めたのは。

それを冷静に見つめられるには、もっと大人になってからでなければわか

らなかったし、まだ考えてみることもなかった。

祖母が生きてる頃はまだ祖母の愛で満たされていたが、祖母が亡くなって

から、心にはいつもさびしい風が吹くようになっていた。

それを埋めてくれたのが、散髪屋のおじいさんとおばさんだった。

毎日逢いに行きたい思いだった。けど、やはり他人だ。自重というより、

子供心に遠慮があったのだろう。

「土曜日だけ、学校帰りに逢いに行こう。」と、学校まで歩く道々、がま

んすることに決めた。

 

 クラブには強制的ではないが、スポーツクラブか文化クラブへ入るよう

に、その日の授業で言われた。

僕は当時、柔道に憧れていた。近所の子と遊ぶときも空想とごっちゃにし

て真似事してただろう。

漫画やテレビで人気だったし、そして歌も柔道の歌がヒットしていて、す

ぐに覚えて歌っていたっけ。まだ子供だから、近所の子たちと遊ぶときも

「来い!」「おう!」と、なりきっていた。

 だが、柔道部はなかった。水泳と相撲もなかった。後はあったと思う。

けど、野球に入るにしても、グローブは揃えなければならないことなど考

えると、家の事情を思って諦めた。

もともと走るのも遅かったし、鉄棒の逆上がりがどうにか出来てたくらい

の運動オンチだったから。

それと、監督の先生、顧問の先生の顔をチェックしてたはずだ。

 結局は、先生の中で一番歳の、教頭先生が指導してくれる美術クラブに

入ることに決めた。

イーゼルはクラブにあるし、初めはベニヤ板にクリップで画用紙を止めれ

ばいいだろうと思ったから。

 

 その、クラブのアンケートの時だったと思う。

ガリ版刷のプリントが配られて、各自記入していたときの事だ。

ふと前を見たら、先生が教壇の陰で後ろ向きになり、ベルトを締め直して

いた。

端の机の僕から丸見えで、ズボンが落ちないように足を踏ん張るように開

いて、カッターシャツの入れ直しをしていた。

その、緩めたベルトを下げて足を開いてる腰の辺りが見えたとき、越中の

紐がクッキリ見えた!

『ドキッ』として鉛筆を持ったまま顔を隠すようにして見続けていると、

越中の位置を直す仕草をした。突っ込んだ片手で金玉の位置を整えるよう

に、「グイ」と…。

 坊さんだから当然、越中だったろう。坊さんでなくても、遠藤先生やお

じいさんのようにまだ越中ふんどしの人は村の大人の多方だった。年配者、

お爺さんはほぼ越中だった。僕の村に二人居た学校の先生もそうだった。

夏の日にときどき見かけた光景と共に覚えている。

 他にも技術家庭の先生でも、同じ光景を廊下の端で見かけたことがある。

女子が通りがかっても気にもとめない。行儀の悪い先生と見られただろう

が、ふつうのことだった。女子の方が顔を赤らめて下向いて通っていた。

PTAで問題になることもなかった。今の時代では考えられないことかも知

れないが。

夏は越中一つで過ごす光景も、村ではふつうのことだったから女子も見慣

れてはいたのだ。

 その遠藤先生の越中ふんどし一つになってるところを見たことがある。

幼い頃に父を見てるとは言え、あまりにも強烈な刺激だった。その、雷が

走るほどの衝撃と驚きの興奮で、「ドキドキ」はしばらく残り続けた。

 

 学校帰りにそのまま、友だちになったクラスの子の家に遊びに行ったと

きのことだ。

その友だちと兄さんと近所の子たちと、庭で三角ベースをしていた。

兄さんが打ったホームランが小屋の屋根を越えて、僕がボールを探しに裏

に行ったときだ。

 シャガの花の茂みを探していて、ひょいと顔を上げたら、若葉の大きく

なり始めた柿の木の向こうに、先生が越中姿で立ってるのが、若葉の茂り

始めた枝の中に見えた!

井戸の傍に仁王立ちのように立って背中をタオルでこすっていた。

縁側の向こうの畳に無造作に袈裟が脱いで置かれてあるのが見えた。

どこかの法事か何かで行って帰って来たところだったのだろうか。

汗を井戸水で拭っていたのだろう。一生懸命に背中をこすると、顎の下か

ら首周り、お腹を脇の下をと、ブリキのバケツに手を入れてタオルを揉ん

では絞って、と繰り返し拭っていた。

その少し出てる腹をせり出すようにして脇の下を拭ってるのを、僕はソロ

リと、横向きの姿のよく見える場所へと、シャガの葉を掻き分けて一歩近

づいた。

ドキドキがもう抑えられないままに、手足は体はふるえていただろうが好

奇心でいっぱいだった。

 緩んでるふんどしが、タオルで濡れたのか、お尻に貼り付いて少し透け

ている。

と、「あっ!」と声を立てそうになって思わず頭を伏せた。そしてそっと

また顔を上げた。

 その骨盤の下まで緩んで濡れてる越中の前が、まさにテントを張ってい

た!

まらが、息苦しさから逃げるように、グンと赤黒い色をしてそびえるよう

に突き上げていたのだ…!

濡れてる前垂れを払い、カリを透かして!

そして、モクモクと両脇から湧き出たような陰毛を濡らしつつ、窮屈そう

にふんどしを摘むと、その突っ張りを引くようにした。

「ぶるん」と音をさせるように先生の大きなまらが躍り出た!

それはまるで窮屈さから開放されたかのように、伸びやかに隆々と天を向

いて息づいていた。

蠢くような金玉を脇に膨らませては丁寧に拭い、棹の根元から、青紫色し

て折れ曲がったミミズが浮き出てるような真ん中を手荒く拭う。

その度にまらがバネじかけのように弾む!

ピンと大きくエラの張った亀頭は、拭かれてピカピカと輝いている。

柿の若葉が映るほどに!

 

 友だちが呼ぶ声が小屋の横から聞こえて、僕は膝を着いたまま滑るよう

に、慌てて後ずさりした。

そしてこっちに来るまでに大急ぎで庭へと出て行った。

見つけたボールを汗まみれにして。



                                                     つづく 



[編集局注]

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