ぼくの恋人はおじいさん




                                         花栗 さん 



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 「しょうちゃん!」

奥の部屋でいきなりおばさんに抱きしめられた。

「!おばさん、僕だよ。かおるだよ。」

「わかってる…」

 

 やがて、「ありがとう。」と、僕を胸から離したその目は涙ぐんでいた。

「この間、お父さんがかおる君を抱きしめたでしょ。わたしもかおる君を

抱きしめたかったの。」

「しょうちゃんとして?

「そう。ちょっと夢をもらったのね。かおる君に。ごねんね。」

「かまわないよ。おばさんの胸、いい匂いがするね。」

「かおる君、おばさんのおっぱい触っていいのよ。」

「ええっ!?そ、そんなつもりはありません!」

「うふふ。しょうちゃんは小学生に上がっても触りに来たのよ。」

 

 僕は顔が火照る恥ずかしさを、用意してくれていたテーブルのおやつに

顔を埋めるようにして食べた。

味わうことなく口いっぱいにして、喉に詰まりそうになったのを、紅茶で

流し込んだ。

「かおる君、腰掛けてみて。」

見ると、襖を開けた隣の部屋で、おばさんが手招きしていた。

行ってみると、そこが「しょうちゃんの部屋」だった。

『へー。ここが、しょうちゃんの部屋か…』

 おばさんが毎日きれいに掃除しているのだろう。カーテンを開けた窓ガ

ラスも、ピカピカに磨かれていた。

ガラス越しに、中庭に植えられてるチューリップが、明るい日差しにくっ

たりしてて、見てる僕の影と重なった。

僕は、おばさんから言われた通り、引いてる椅子に少し緊張しながら腰掛

けてみた。

絨毯も椅子も机も古かったけれど、近所の同級生の部屋とよく似た感じだ

った。

「わあ。何だか、しょうちゃんが今ここに座ってるみたい…!」

背中から僕の顔を覗き込むようにして言ったその顔は、声を詰まらせて泣

いていた。

僕は顔を机に戻すと、指先で地球儀を回して、クルクル回るのをただ見つ

めていた。

ふと、目の前の教科書の立てかけてある本箱から上の方を見ると、親子三

人で写ってる写真の額が飾られてあった。

『この場所はどこだろう。』

と、三人の後ろに写ってる見たことのないけど、どこか日本の建物に似て

いるのを、じっと見てるとおじいさんがやって来た。

「ほんとだ。そうしてそこにいると正一にそっくりだよ。」

振り向くと、慰めるようにおばさんの肩に手を置いて、おじいさんが僕を

懐かしそうな目をして見つめるのだった。

 

「さっきのお客さんはもう済んだの?」

「ああ。今終わって帰ったよ。」

僕は前に母と姉と、町の映画館で見た水戸黄門の映画を思い浮かべた。

「あのお爺さん、ほんとに水戸黄門に似ているね。」

「うん。あの目元の涼しい歌舞伎役者みたいだ。」

 歌舞伎は全く知らなかったから思い浮かべることも出来なかったが、後

にテレビで晩年の中村鴈治郎
(二世)を見て『ああ、この人とよく似ていた

んだ…。』と思った。

「遊びにおいでと言ってたねえ。」

「近くなの?」

「すぐそこだよ。駅へ行く角の、ずっと塀の続いてる古い屋敷に一人で住

んでる。お手伝さんがいるようだけど、お婆さんが亡くなって淋しいんだ

ろ。」

「日曜日に、かおる君も一緒にお風呂に連れてってもらうといいわね。」

涙目を笑顔にかえて、おばさんが口を添えた。

「温泉の好きなお爺さんなのよ。」

「温泉にいつも行ってるの?」

「汽車ですぐよ。隣の別府の駅前にある温泉に行ってるそうよ。たまに浜

脇やあちこち行くらしいわ」

「ふーん。それで温泉の匂いがしちょったんか。」

そう言って僕は、覗いた股を思い浮かべて少し慌てた。そして、おじいさ

んの目を、ちらっと確かめるように見た。

すると僕の心を見抜いてるように、目元がふくらんで笑っていた。

 店の入り口で「夕刊です。」と声が聞こえ、柱時計を見るともう四時半

だった。

「僕、もう帰ります。宿題と、用事もあるので。」

「明日も寄ってね。そうだ、明日は土曜日ね。泊まって行くといいわ。こ

の机で宿題しなさいよ。疲れたらそこのベッドで寝なさい。」

おじいさんの顔を見ると、おばさんの言うことに「うん、うん。」と頷い

ていた。

 

 日に日に親しくなって、おじいさんの家にどんどん入って行く。

夢のような嬉しさ。二人の間にいる満ち足りた時間。

「…泊まって行くといいわ。」と言ったおばさんの弾んだ声と、にこやか

にしてたおじいさんの顔を思い出しながら、泊まることの嘘を母に何と言

おうかと思案しつつ家路を急いだ。

だが、意外な繋がりで、僕の願いが思うように進んで行くこととなるのだ

った。

 

 その夜、母と二人きりの夕飯を食べ終えるころ、隣のおじさんが何か干

物か野菜を手に勝手口から入って来た。

「ごっそ食べよんかえ。」

そう言いながら母に新聞紙に包んでるのを手渡すと、割った着物にステテ

コの股ぐらを覗かせて腰を下ろした。

そして、母が入れた茶を一口すすると、僕の頭を「おおっ」と、見回すよ

うに見て、湯呑を置いた。

「かおる君、中学生らしいごつなったのう。」

僕の頭を茶をすすりながら、まだしみじみと見て言った。

それを聞いて、母も見つめて言った。

「ハゲがあるかと思うちょったけど、ねえじよかったわ。」

「ハハハハ」

「どこん散髪屋じしたんか」

そう訊いたおじさんの問いに、ちょっとためらったが。

「一番遠いとこ。」

と言うと、すすった茶を吹きながら思い切り笑われた。

「ワハハハハハ」

まるで「もの好きな」と言う顔をして、呆れたように。

茶でむせながらまだ笑っていた。僕は少しムッとした。

すると母が僕のむくれた顔を見て助け船を出した。

「ぼうず頭はどこでん一緒じゃ。きれいに刈っちょん。」

おじさんはむせた真っ赤な顔で、なおも言う。

「あそこん店は客がおらんじゃろが。いつ見てん暇んごたる。」

「ほうかえ。そげん暇な散髪屋かえ。」

僕は二人の間に割って入った。

「いんや。今日お客さん来ちょったで。それに遠藤先生もあの店じするち

訊いたし、教頭先生も、他にもおる!」

むきになり、遠藤先生以外は嘘を言ってしまった。

流しに立った母が洗い物をしながら背中で尋ねた。

「今日お客が来ちょったち言うたが、寄ったんか?」

「う、うん。」

「何でそげえ気に入ったんかえ。知っちょん散髪屋なんか?」

そう言って、洗う手を止め振り向くと、なにか思い出した顔して言った。

「ああ、端っこん散髪屋は、ばあちゃんの何か遠い親戚になるち前に聞い

たことがあるのう。」

エプロンで手を拭いながら飯台へと来て、僕とおじさんを見ながら続けた。

「ばあちゃんの従兄妹になるち言いよったごたん。」

「ほうか。それじ、声かけられたんじゃろ。」

と言うおじさんに僕は、成り行きは違うのだけど「うん。」と言うように

頷いてしまった。

そして、意外な従兄妹という事に、思いもよらない繋がりに、喜びの血が

体中を駆け巡る思いだった!

 

「母ちゃんとことは付き合いはねえけんど、ばあちゃんが駅に行く時に顔

出したりしよったかしれん。」

「ほうか。そげんこつか。」

「何か呼ぶもんがあったかしれんのう。」

「あそこに来たんは、戦後じゃろ。親戚か知り合いん後を借りち始めた店

じゃち聞いちょん。」

「そげんこつかえ。そら、死んだ父ちゃんも、母ちゃんも知らんわなァ。」

「うん、ばあちゃんももうおらんし、詳しいこつはわからんのう。うちん

爺さんから引揚者ち聞いたこつある。」

「ふうん…。」

 

 僕は思いがけない展開で、ここぞとばかりに、明日の土曜日は泊まるこ

とを告げた。

すると、迷惑にならないように気をつけることだけ注意されて、OKをもら

った。

日頃から「変わっちょん子」と、母が隣のおばさんにも話したりするほど

だったから、それも結果として良かった。

母もおじさんもそれ以上に変に関心を持つことはなかった。

 茶にむせてたのが治まったおじさんは、僕の祖母との関係は納得したも

のの、いきなり何を思い出したのか、またむせ返り、赤い顔して笑いなが

ら言った。

「ふはは。あそこん嫁(おばさん)は変わっちょんのや。」

と、母に同意を求めるように言った。

「どげえ変わっちょんの」

「いんや。この間、金物屋に行くんに自転車で前通ったんじゃ。そしたら

店ん前じ旗振っち何か歌いよんのじゃ。」

「へえ!知った人と間違えたんじゃねえの。でも、何でまた旗持っち歌う

んやろ。」

「知らんのじゃけんどの。旦那が慌てち出て来ち旗を取り上げち中に入れ

ちょった。」

「変わった面白りい嫁さんじゃな」

「…ううん。ちょっと惚けち来ちょるんじゃねえかのう。金物屋がそげえ

言いよったけんどのう。」

「そげん歳かええ。」

「いんや、おじいさんは七十越しちょるやろけんど。嫁はまぁ、六十なっ

ちねえごたる。」

「へえ、ほうかえ。まあ若えになあ。」

 

 そんな会話を聴きつつ、隣の襖を開け、僕は自分の部屋に入って行った。

そして、宿題も済ませ、布団に入るとさっきの「惚けち来ちょるんじゃね

えかのう。」とおじさんが母に話してた言葉が気になったが、実際に惚け

た人が周りにいないので、具体的には何もわからなかった。おばさんの笑

顔だけが浮かんだ。

「おっぱい触っていいのよ。」と言った言葉と共に。

 僕は、たぶん母の愛を、知らず知らずにおばさんに求めていたと思う。

けど、何故か、女のおっぱいにあまり関心が無かった。これはどうしてな

のか?

だけど、おじいさんの、おっぱいには「おっぱい」として関心があった。

もしも母乳が出たらどれほど興奮しただろう。

 

 その晩、とてもおかしな変な夢を見た。

黄門さんの庭で、僕と黄門さんと、池の鯉に餌をやっていた。

すると、いきなり鯉が僕に飛びかかって来て、僕のちんぽこを咥えたのだ。

僕は、学生服の上着だけしか着けておらず、下は丸出しだったのだ。

「ワハハハ」と笑う黄門さんを見ると、黄門さんも鯉に咥えられていた。

着物をはだけて、腰に手をあてがい、越中は解いて腰を突き出し、咥えて

る鯉をぶらぶらと揺すっていたのだ。

その隣の池にはおじいさんとおばさんが裸で浸かっている。見ると湯気が

立っていて温泉になっている。

おばさんが「かおるくーん!」と呼ぶ。

僕は恥ずかしいけど、おじいさんのおっぱいを触りたくて入って行く。

そして二人の間に体をくっつけて沈めていると、そこに法衣姿の遠藤先生

が現れた。

先生は池の傍から僕たちを見ると、大岩に飛び移った。

そして「この不届き者共め!成敗してくれようぞ!」と言うと、法衣の裾

をたくし上げた。

すると、前に見た太い松の枝のようなちんぽをそそり立たせている!

赤黒く充血しきった大人の「マラ」だ。浮き出た血管が恐ろしいほどに、

マラの形相を形作っている!

ぶんぶんと唸りを上げ、蛇のように赤い舌をチロチロさせた。

と、いきなり先生がそのビカッと張ってる蛇の頭を押し下げると、蛇の口

から勢いよく小便が飛んで来た!

「うわっ」「キャー!」「わわー!」

逃げ惑う僕たちに、酒に酔ってるような赤い顔で、向きを戦艦の砲台のよ

うにクルリクルリと変える先生!

「グワッハッハッハ」

逃げても逃げてもクルリとすぐに向きを変える、その勢いの凄まじいこと!

まるで消防ホースの勢いだ。

僕は先生の立ってる岩の下まで潜って行った。

そして顔をガバッと出すと、根っこをグイと握った!

するとようやく小便がピタリと止まった…。



                                                     つづく 



[編集局注]

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