もりつぐさんのエッセイ №2            .




もりつぐの回想:          .


安寿さんのこと ②



ユタのような男

 

メールのやり取りが始まって、安寿さんが「老いのときめき」の創始者で、

編集人であることを知った。私は5歳になる娘を病気亡くしたばかりで、気

も荒(すさ)び、最低の状態でした。最低の状態だからこそ見えてくるも

のがある。

 

心の底にうごめく影は、深刻な問題でした。恥ずかしさを承知で、全部、

安寿さんに聞いてもらいました

 

子供のころから年寄りに惹かれ、年寄りが好き。もちろん自覚していまし

た。周囲(まわり)に誰がいようと、年上の男に目が行ってしまう。男性

志向(だんせいしこう)です。

安寿さんは、話を聞いてくれる人でした。根気よく心にメモを取る人です。

そして、最後に、こう言いました。

 

「たぶん、生まれついての性質です。子供から青年、そして中年へと成長

しても、年寄りに惹かれ、好きな気持ちは変わらなかったのですね。

 

沖縄に、「生まれついてのユタ」という言葉があります。貴兄のは それ

と同じで、「生まれついての男」ということです。」

 

安寿さんは、にっこり笑いました。「任せておきなさい。」

 

昔、あの大将(たいしょう)が導いてくれたすべを、今度は、わしがやる

ことになる。心の中で、安寿さんはそう思いました。でも、大変な途です

ね。生命をかけてやらねば通れない途(みち)のはず。ふんどし を締め

なおそう。生半可な気持ちではダメだから。

安寿さんの想いが伝わりました。

 

不思議なキス

 

「大将(たいしょう)」は、安寿さんの恩人です。悪性腫瘍が目にできて、

苦しんで亡くなった人です。最期をみとったのも安寿さん。彼にとっては、

男の中の男でした。

 

腕(かいな)の中で、逝ったとき、「号泣した」と教えてくれました。

生い立ちのところで触れるつもりですが、大将は、技能センターで出会っ

た上司です。

彼もまた、生まれついての男でした。男を魅了して離さない性質(たち)

の人。男を導くユタのような男の事です。

 

安寿さんの言葉が、耳の底に残っています。

 

研修所時代、部下になった人は、素敵なキスに戸惑いながらも、自然に受

け入れていったといいます。抱かれた時にだれも恥ずかしくはなかったと

いいます。恥ずかしさをを忘れさせるほど上手なキスだった。不思議なキ

スの味です。

 

安寿さんも、キスの好きな人。大阪の、たぶん共済組合の個室で、はじめ

て抱かれたときも、キスの味に痺(しび)れました。大将譲りのキスです。

初めは、舌が触れるような感じですが、やがて絡み合って、息のできない

ぐらいになり、最後は、意識がなくなる。それぐらい素敵なのです。

私のその時、もっと「包まれてみたい」と思いました。

 

「素直」に受け入れていこう。そうすれば、何かいいことがある。身体全

部で応答してました。

 

山奥での再会

 

安寿さんが男の世界を知ったのは、技術センターでの集団生活でした。情

報通信の現業は、「電話交換」を除けば、男の世界です。彼の上司は、

「大将」と呼ばれていました。人柄がよく、技術も確か。だから指導教官

になった人。だれからも好かれ、尊敬されていました。棟梁なような人で

す。でも、口づけが好きで、上手なひと。どの後輩も、二人になれば、キ

スをもらい、魅了されました。安寿さんも同じでした。

 

縁(えにし)は不思議なもの。世渡りが下手な安寿さんは、40代後半、山

奥の通信施設に飛ばされ、形だけの所長になります。左遷です。不遇を託

(かこ)つ安寿さんを救ったのは、この大将の思いやり。休みのたびに山

奥まで泊まりに来てくれました。話は尽きなかったし、いろいろ教えてく

れたのも大将です。誰もいない寮の部屋で、男どうしの絆が強まったのも、

自然なことです。安寿さんの男に対する優しさ、そして素敵なキスも、こ

の間に培われた。たぶん大将譲りのものなのでしょう。

(つづく)

 









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