もりつぐさんのエッセイ №3            .




もりつぐの回想:          .


安寿さんのこと ③



何でも言うとおりにする。途(みち)を学ぶ男の基本です。舌を絡ませた

本格的なキスの最中、身体全部で受け止めました。

 

「あと戻りできない。」

 

裸になった私を見て、安寿さんは困った顔です。それでもやさしく告げま

した。

「仮性包茎(かせいほうけい)です。外人には多いタイプです。でも、男

の世界ではタブーです。セックスは、皮膚感覚感じ、神経で頭にとどく世

界です。皮が覆っつていては、絶妙の手技を使っても、泣くような快楽は、

相手に届かない。まったく困った欠陥です。」

「そうだ。切ればいい。」簡単に答えます。亀頭を覆う表皮をメスで削除

して縫合する。

簡単な手術です。


翌週、いわれた病院で手術しました。手術室には、年配の外科医と看護師

のペアがいました。無言でオペが始まります。記憶にあるのは、がっしり

とした医師の太い指の動き。一時間でオペは終わり、麻酔が覚めて帰宅で

きました。

 

痛いのは僅かに一週間。それでも足を引きずり通勤しました。

 

まわりの好奇心

 

足を引きずって歩く姿は、まわりの好奇心を誘いました。「何があったの

だ」直接、上司に聞かれました。正直には答えられないのは、仕方ないが、

辛かった。でもよかったのです。裸になると、真っ先に目にするが亀頭。

ずる向けの、鰓(えら)の張った極上の魔羅。男の世界を生きていく上で、

最高の道具を手に入れたのです。苦労した甲斐があったのです。気おくれ

はなくなりました。銭湯でも前は隠さなくていい。男のサウナでも同じで

す。

 

「ほどよい技術」

 

因(ちなみ)に安寿さんの亀頭は、中ぐらいでした。鰓もそれほど張って

はいない。まっすぐ伸びる、素敵なタイプです。アナルの中心は肛門括約

筋です。経験を積めば、誰でも気づくはずです。短いのもあれば、長いの

もある。身体は細胞のかたまりで、神経組織で脳につながっています。仕

組みは同じでも、個人差は大きいと思います。

面倒ですので、細かい説明は省略します。要するに、チンポの竿が括約筋

にまっすぐ当たり、穴に吸い込まれればいいのです。快楽が脳に伝われば、

自然に潤滑油が排出されるようにできているのです。そうすれば、痛みは

半減する。蛇足ですが、セックスは、天の贈り物です。セックスの上手な

男のフケは長生きするといわれています。

 

大事なのは正確に当てるコツです。上手な按摩と同じで、男の生理を知っ

てツボを押さえること。それには訓練しかない。何度も練習して獲得した

男の技(わざ)なのです。快感につながる技には極意があるといえます。

上手な按摩にかかり、やってもらって、自分もやって、身体で覚える絶妙

のテクニック。師匠の身体を押しながら、いちいち確認しながら覚える技

なのです。もちろん、初心者には抜群の効果を発揮する。ネットで、おっ

かなびっくり、あれこれ聞くのは、決まって初心者です。老けの初心者に、

安寿さんは親切でやさしくかった。夢見る老けに苦痛を与えず男のよろこ

びを知らせたい。たぶん、そう思ていたのでしょう。うまくツボに当てる

彼の妙技ば抜群で、よく効きました。だから彼のそばに、人が集まったの

です。

 

菊の門に亀頭を差こみ、前立腺の後ろのポイントに当たればそれでいい。

こんなことは、看護師のマニアルに、イラスト付きで出ているはずです。

そこを何度もゆっくり刺激するのが、「大将」伝授の秘技でした。

 

「まじめで善良」な人物ほど、融通が利かない。かたいのです。フケの仲

間をケアするのは大変だったと思います。植木等のいうような、気楽な稼

業ではなかったはずです。

 

「兄弟の契り」

 

傷が癒えたのは6か月後。昔のように、週一回の割合でセンズリを掻きまし

た。安寿さんに、「自慰(じい)は、マスターベーションは男の自然。い

けないことでなく、当たり前のこといわれ、気が楽になりました。

 

その話はしませんでしたが、作品をやり取りしたので、気づいた筈です。

そして突然、メールが届きました。5月の連休前です。「出て来きなさい」

というメッセージです。

すぐに、駅のそばのホテルに、予約を入れました。

 

「ああ、とうとう男になる。これは通過儀礼に過ぎない。」そう思いまし

た。

 

口を少し開いてリラックスしていればいい。安寿さんに何度も聞きました。

すぐ終わると思っていました。でも、事はそう簡単ではありませんでした。

最初の営みは、簡単で楽しいものでは、辛いものです。男の雑誌、「豊満」

「サムソン」に書いてある天国ではなかった。

 

「痛くて、痛くて、涙が零(こぼ)れる。ここが我慢のしどころです。」

シーツを掴んで耐えました。痛いのは当たり前。だれでも通る途です。直

腸が裂け、古い傷が今も残っているはずです。

 

「ご褒美の笑顔」

 

褒美の笑顔は忘れません。お遍路の最初の関門は、焼山寺の「お遍路ころ

がし」です。

焼山寺に向かう最後の坂をのぼり、境内についたとき、ガタガタ身体が震

えました。

その時、素早く長袖のシャツをひょいと引き出し、手渡してくれた。洗い

ざらしの木綿の下着。温かさが直に身体に滲(し)みたは、この時です。

 

「お前と俺は、今日から兄弟。」

 

やさしいまなざしが目の前ありました。

(つづく)









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