もりつぐさんのエッセイ №4            .




もりつぐの回想:          .


安寿さんのこと ④



この回想は、資料に基づく正確な記述ではありません。 二月上旬に心肺

装置をつないで三時間。70過ぎの爺(じじい)に心臓手術は応えました。

それでも、切れ切れの記憶をつないで、読みやすい内容を目指しました。

便宜のために、ここでは、安寿さんをAJ(エイジェイ)さん と略称し

ます。ご存知のように、AJさんは、中肉中背の、セックスも絶倫のタイ

プだったと記憶しています。

 

 ぶっつけ本番の演技


「初めまして」という挨拶で、ビデオが始まります。「ぶっつけ本番」と

いう設定なのでしょう。シナリオも、脚本も、演出も、しっかりできてい

る筈がない。予算も人も技術不足している。でも、内容は私には魅力的で

す。

 

細身の高齢者がタチ役で、70半ばの白い肌。人に好かれる細面(ほそおも

て)です。昔の貴族の顔と言った方がいいでしょう。相方はウケ、60代半

ばの田舎っぽい先生タイプです。

企画の責任者は、主演の男性が兼務です。アメリカと違って、出演者は、

普通の爺さんたち。俳優ではなく、ズブの素人たちです。

 

どこで見つけたのか。出演の承諾をどうとったのか。ギャラはいくら出る

のか。

「素っ裸のセックス動画」です。細かいことは一切分かりません。約一時

間のすごいカラミ。何も隠さないし、隠せない動画です。制作には約二週

間かかる筈です。

 

撮影中、ずっとチンポを立たせるのは、素人の老人にはきつい仕事です。

やり取りをするうちに「小説を載せてもらいたい。」と書きました。すぐ

に返事が来て、

「書いてみたら」と寛容です。「原稿を送れ」とメール」が届きました。

内容は、「マッサージの爺様と書生の話」で始まります。力量は分からな

いのに、引き受けて呉れた安寿さんの勇気に感激です。

 

そのうちに、70歳記念の「リレー小説」を書くことになりました。5、6人

が賛同して早速、執筆開始です。私も途中から参加しました。その作品は、

旧版に載っています。「小説ごっこ」というタイトルです。

 

長い文章を書くには体力がいります。記録して、保存するのは、更に大変

です。

今回、読み返してみて、病気の安寿さんは、大変だったと思いました。新

編集長の好意で、原稿のありかが分かり、「老いのときめき(旧)」で、

原稿を読むことができました。

 

 動画の裏側の世界

 

好奇心が強く、助平な爺(じじい)です。男性同士のセックスの本番は、

見たことがありませんでした。助平なホモの小説を書くには、本物を見る

ことが必要です。その話を聞いAJさんは、すぐにサンプルを送ってくれ

ました。いいのがあると言って、仲間の誰かが複製して送ってくれたもの

です。

 

見れば発情する。ペニスはギンギンに立つ。動画を何度も見れば、本当は

どうなのか。裏側の背景が見たくなります。ホテルの部屋を借り切って、

たぶん撮影するのでしょう。

強いライトが、白い肌と黒い肌を、怪しく照らし出しています。

 

「狂っちゃう」とよがり声をあげる太めの老人(おい)。俳優ではない

「ずぶの素人」の演技です。台本などなしのぶっつけ本番の演技。リード

するのは立ち役の爺さま、75歳です。

 

よがり声は、もちろん、後からの吹込み、アフレコです。素人に同時入力

は無理だから。

スタジオもない撮影は大変です。陽には焼けるし、蚊にも刺されるのはつ

らい。

 

アメリカはフリーセックスの国。役者も堂々としています。きちんと画面

に名前も表示されます。日本では、出さないのが普通です。家族が嫌がる

からです。高齢者でも家族のいない単身者に依頼するが常です。「名無の

権兵衛さん」が熱演するDVD。一寸悲しいですね。

フリーセックスの国とは大違いです。

 

ハーバード・スクエアーで、昔、ビデオを買いました。30年前の話ですが、

売り子さんに「ヒュー」と口笛を吹かれ、びっくりしました。今では、性

的マイノリティーも堂々としているはずです。もちろんアメリカの話です。

顔を上げて演技する、アメリカは個人主義です。

 

日本では、ゲイの文化は、まだ始まったばかりです。土台作りの段階です。

当分、試行錯誤が続くはずです。

(つづく)

 









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