葛飾のとらさんのエッセイ
 №7            .




映画館で見つけた理想のパパ



もう、ずっと前の事ですが、老いのときめきの閲覧を始めているうちに

思いだしたので書いてみたくなりました。

 

予定よりも仕事が早く終わり、まだ飲みに行くのも早いので浅草の映

画館へ行くことにしました。その頃のホームグラウンドは新宿2丁目で、

浅草の映画館では知った人に会う事もなく、大胆に行動しても、お店で

酒の肴にされることもありません。

いつもの通り1階の左側、トイレ近くの入り口のドアを開け、ドア近

くに張り付いている人を得意の早業で品定めし、反対側のドア、2階の

客席の後方の混み具合などを見て、「やっぱり平日はお客が少ないなぁ、

今日は無理そうだなぁ。」と思い、仕方なしに映画でも観てみようか、

と立ち寄ったことを悔やみながら2階に行きました。

 

数分間2階の座席で映画を観ていましたが、退屈して館内を一通り見

たら帰ろうと思って席を立ちました。どちらから見て回ろうかとドアの

方を見下ろしていたら、2階のトイレがある方のドアが開いた時に、一

瞬で理想の人を見つけました。小柄で、ちょっとふっくらして、髪の毛

はバーコード、大好きな眼鏡、スーツにネクタイ、片手に週刊誌を持っ

た、普通のサラリーマン風で言う事なしの理想のパパでした。

素早く通路を駆け抜け、立ち見をしている人には目もくれず階段を駆

け下りました。よくもそんな短い時間に色々な空想ができたものだと思

うくらい、色々なシナリオを思い描いていました。

 

ところが立っているはずのドアに着く前に理想のパパはドアを開けて

出て行ってしまいました。追いかけるようにドアの外に出ましたが姿は

見えません。もしやと思い、トイレに入ったら正面に居ました。後ろ姿

も素敵でした。隣が空いていたので他の人に場所を取られないよう真横

に並ぼうと、ズボンのファスナーに手をかけた瞬間、目の前にいる理想

のパパが当時付き合っていたお父さんだとわかり、前のめりに躓きそう

になりながらも踏みとどまり、ただただ怖くなって一目散に映画館を出

ました。まるで幽霊でも見たような心境でした。

 

映画館を出た後、まさかお父さんがこんなところに遊びに来ているな

んて、今までも時々誰かと遊んでいたのかと思うと、自分のことを棚に

上げて、ショックから怒りへ変わっていきました。後から思えばお互い

さまなので、目を瞑って忘れれば良いとわかりますが、白黒はっきりし

たかった私は、数日後に逢った時にそのことを問い詰めようとしました。

ところが、「お前はそういうところにしょっちゅう出入りしているの?

だから毛虱なんか貰って来るんだ!」と、以前サウナで毛虱を貰って来

た時に、普通のサウナに行ったら移ったみたいだと誤魔化した事も突っ

込まれてしまいました。反論もできないまま言わなきゃ良かったと思い

ましたが手遅れで、本人に認めさせるどころか、私が男探しに行った事

だけが事実として残っただけでした。

 

今思えば、「映画館でたまたま遠くからお父さんを見つけたけど、や

っぱりお父さんは周りの人と違って際立って素敵だった。内面は当たり

前だけど、外見もやっぱり大切だね。選んで大正解だと改めて思ったし、

何度出逢っても一目ぼれするタイプだね。」くらい言えれば良かったの

にと思います。

 

突然の別れから18年、果たしてずっと続いていたのでしょうか。私

の遊び癖の酷さに呆れられていたかも知れません。偶然にもあなたの8

3回目の誕生日の投稿となりました。

 

そう言うことなので、お父さん。たまには夢にでも出てきてください。
          合掌










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