吉三郎さんのエッセイ №7                     .




温泉探訪記(前編)



今までに一体全体、幾つの温泉地を訪れたことだろう。

温泉大国日本。歓楽温泉街、鄙びた湯治場や共同浴場、山奥の一軒宿、歩

いてしか行けない野湯。それこそいろいろなタイプの温泉地が散在してい

る。儂は数多(あまた)ある温泉の中でも、一軒宿が好きだ。あの鄙びた

感じがよい。それが山奥の秘湯ならなおよろしい。

 

温泉といったら、儂にとってはやはり東北地方である。未だに俗化してい

ない温泉地が多く、昔ながらの風情を残しているのだ。日本の古き良き時

代の湯治の形態を今に伝えている。

そもそも、農閑期に長期間滞在し、自炊しながら温泉で身体を休める“湯

治”という文化は、世界でも日本にしか存在しないのではないかとさえ思

う。実際のところはどうなのであろう? ご存じの方はご教授いただける

と幸いである。

 

そんな“東北地方の湯治文化と木造温泉旅館群”は東北各県に今も息づく。

これはもう文化であり、日本、いや世界の宝である。儂はこのままの名称

で、“世界遺産”に登録されてもいいのではないかとさえ、内心で思って

いるほどだ。

 

さて、今回はエロ抜きで儂のオススメする東北地方の温泉地を10ばかり

紹介してみようと思う。なんとも儂からぬ試みであるが、たまにはこんな

話もよいであろう。

 

なお、紹介する温泉地に順位はつけない。なぜなら、ベスト3というので

あれば、これは順位もつけられるであろう。しかし、これが8位と9位と

なったら、もはや差などあってないようなものなのである。従って「その

~」と数字が並んでいるが、それは単なる登場順であり、お気に入りの度

合いとは無関係である。その辺りを理解してお読みいただければ幸いであ

る。

 

その1 酸ヶ湯温泉

あまりにも有名な秘湯。大きな幹線道路沿いにあるので、初めて訪れた際、

一瞬、

「観光地のドライブインか?」

と思ってしまった。正直、秘湯の雰囲気など皆無だが、なぜか世間的には

秘湯ということになっている。とても大きな一軒宿なので人も多い。

ここは温泉好きのホモにとっても、まさに“聖地”なのではないか。もち

ろん純然たる温泉としてであり、エロ抜きの意味でである。

 

大浴場もさすがにでかいが、玉川温泉や後生掛温泉と比較して格段にでか

いというわけではない。同規模の湯屋は他にもある。ここが絶賛されるの

は、おそらく混浴だからであろう。世の男は結局のところ性欲で動いてい

るのである。そして、温泉と性は常に密接に繋がっている。

 

有名なだけあっていつも年輩の親爺であふれている。これだけいれば、仲

間の一人や二人は常にいそうなものである。夜中の大浴場での同好の士と

の出会いに否応にも期待は高まる・・・。大概、そんな幻想は脆くも崩れ

去るのだが、その辺の艶っぽい雰囲気が、ホモ的には非常にそそる。

ただ混浴なので、女が大浴場にいるのはうっとうしい。そんな方は男性専

用の小浴場へ行けばよい。小浴場は5年程前に新しくなった。シャワーも

付いたが風情はなくなった。汚れ専的にも、グッと来ない浴室になってし

まったのが、なんとも惜しい。

 

食事はごく一般的な旅館料理。何が出たかも覚えていない。特別なものは

出なかったのであろう。インパクトに欠けるものの、特に食事に不満は感

じなかった。

ここの魅力は建物や湯治場独特の雰囲気にある。大きな売店があったり、

健康相談室があったり、館内を散歩しているだけでも楽しく退屈しない。

 

儂は旅館部と自炊部の両方に宿泊したことがある。どちらも木造建築なの

で、何とも言えない雰囲気があり、湯治ムードをさらに盛り上げてくれる。

 

冬季、ここはものすごく雪の多い場所で、豪雪地帯に住んでいる儂でさえ

驚く程の積雪量である。旅館部に泊まったのは、12月の半ばであったが、

既に3m近い積雪だった。儂の住む村は、その時期、平年で50㎝、雪の

早い年でも1m程度の積雪に過ぎないのに、である。

 

滞在中、雪は一時もやむことなく降り続いており、翌朝には数十㎝の新雪

があった。これが1月、2月はほぼ毎日続くそうである。普段、雪のない

地方に暮らす人にとっては貴重な体験ができるかもしれない。

その分、冬季に自家用車で行くのは大変なのだが、青森駅から毎日旅館の

観光バスでの送迎があるので交通上の不便は感じられない。公共交通機関

を利用する限り、真冬を避ける必要など全くないと言っても差し支えない。

 

あまりにも俗化しているとは思うが、何年かに1回は訪ねてしまう不思議

な魅力がある。多分、それは人が多くチンボが見放題だから・・・。

 

その2  古遠部温泉

ここは本当に秘湯。幹線道路から林道を川沿いに数㎞入った場所にある。

谷底にある平屋建てで、周囲には本当に何もない。斜面に建物があるので、

平屋なのに階段が多いという不思議な構造だった。儂が宿泊した頃(ほん

の6年前だが・・・)はまだ便所もくみ取りで式で、施設的にも昭和の面

影を色濃く残す貴重な存在だった。

 

さすがにくみ取り便所は勘弁して欲しいという輩も多いであろうが、数年

前に、ようやく水洗トイレに改修されたという情報を得たのでご安心いた

だきたい。自炊部もあるが部屋数が数部屋しかない。地元の農家御用達し

の風情が濃厚に漂う。

 

ここの特徴は安さと湯量である。儂は旅篭部に泊まったが、8000円で

お釣りが来る料金にもかかわらず、食事も充分に満足できるものであった。

ごく普通の旅館料理だったが、天ぷらが揚げたてで出てくる幸せといった

らない。

 

とにかく湯量の豊富な温泉で、湯船から掛け流しのお湯がドバドバ溢れ、

洗い場がお湯たまりのようになっている。そして、多くの客がそこに横た

わって半身浴ならぬ、4分の1浴をしているのである。いわゆる“トドに

なる”という状態である。

普通、洗い場に横になるのは周囲に迷惑で憚られるが、ここではそれが当

たり前。しかも、お湯だまりになっているから寒くない。

 

日帰り入浴者も基本的に地元の農家の親爺ばかりなので、汚れ専的には“

そそる男”が多い。ただし、もちろんケの男ではないので手を出したりし

ないように。

 

その3  玉川温泉

ここも酸ヶ湯同様、とにかく人が多く午後の大浴場など年輩の親爺で溢れ

ている。しかも、ガンに効くという評判なので本気で治療に来ている人が

多い。正直、ホモが半分男めあてでノコノコ出かけていくと心底申し訳な

い気持ちになる。しかし、風呂・・・、というより湯屋の巨大さと強酸性

の泉質に圧倒されてしまい、数年に一度は足を向けたくなる温泉地である。

 

ある年の晩秋、宿泊地を決めずに自家用車で旅をしていた。玉川温泉を通

りかかったが、突如、自炊部に宿泊したくなり、ダメ元で受け付けに駆け

込んだ。

「急ですが、一泊お願いできないでしょうか」

 と頼むと、

「同室でも構いませんか?」

 と聞かれた。どんな方かは知らないが、親爺殿と同室なんてむしろ嬉し

いくらいである。しかし、相手はどうなのだろう?

「急な話で相手の方にご迷惑では?」

と儂が言うと、

「15人以上同室ですので・・・」

 とのこと。なるほど、大部屋に同室なのである。

 

こうして見知らぬ大勢の親爺と同宿という、滅多にできない経験をさせて

いただいた。埼玉からという70代の男性や地元からだという60代後半

の男性など、タイプの男も多かったが、切羽詰まって“本気湯治”に来て

いらっしゃる方も多いので、この時ばかりは変な下心は封印した。

 

しかし、中には、普通の湯治の方もけっこういる。東京から半月ばかり泊

まり込んでいるという60代の方もいた。年に一度秋に長期滞在するのが

恒例行事なのだそうだ。

皆さん、儂の褌に驚いていたが、

「懐かしい。俺の親父も褌だったよ」

 と褌談義で、一気に打ち解けることができた。

 

その4  須川高原温泉

ここは冬期間は閉鎖される。本当に山の上にある。しかし、高原上の地形

の場所に建っているので空が広く、しかも、幹線道路沿いなので鄙びた印

象はない。夏季のみの大規模な湯治宿・・・といった趣である。規模が大

きいので最盛期(夏)は人も多いが、あまり知名度が高くないので酸ヶ湯

温泉のような、一瞬、

「ドライブインか?」

 と思わせてしまうような俗化された雰囲気が皆無なのがいい。しかも、

施設は古いものの、トイレも水洗化されているし、標高が高いのでエアコ

ンのないのも気にならない。居心地は至ってよいと言ってよい。涼しさ、

景色、お湯、たくさんのチンボ、この4拍子がそろった湯治場である。

 

 ここのお湯は白い濁り湯で温泉らしいお湯である。しかも、湯量も多く、

大浴場、湯治部小浴場、少し離れた所にある露天風呂と3カ所も浴室があ

る。オススメは大浴場。しかし、諸事情で10年程前に大浴場が建て直さ

れてしまった。正直、以前の大浴場の方が趣があったように思う。デザイ

ン、内装はそのままで新築した方がよかったのではないか。儂はそう思う

・・・。

 

 ここも自炊部が併設されている。儂は自炊部に宿泊して旅館部の食事を

出してもらった。食事が食堂の大テーブルというのが少々残念であったが、

山の上から夕焼けを見ながらの夕食は他の何者にも代えがたい。とにかく

ビールがうまく感じた。料理の内容は、ごく一般的な旅館メニュー。

しかし、ここが山の上であることを思えば頑張ってくれているといえるだ

ろう。そもそも利用者には、栗駒山への登山者も多いのである。

 

 ここはNHKの温泉紀行番組「ふだん着の温泉」に紹介されたことがあるが、

その際にインタビューに答えていた従業員が非常に良い男。ホモ受けする

顔に固太りの体形で、儂が訪れた時も元気に働いておられた。

儂は、夜、その日の仕事を終え、件の男が風呂にやって来るのではないか

と淡い期待を抱いた。そして、10時頃から大浴場と小浴場を何度も行き

来した。夜中の1時過ぎまで渋とく粘っていたが、結局現れず、すっかり

のぼせてしまった儂であった・・・。

 

前編の最後は、ほんの少しだけ艶っぽい話も含めて・・・。

 

その5  下風呂温泉

ここは下北半島の先端、つまり本州の最北端にある。小さな温泉街で旅館

が何軒かあるが。ここの醍醐味はなんといっても共同浴場である。建物が

鄙びていて風情があるとか、硫黄泉で泉質がよいとか、それらは全て事実

であるが、そんなことはこの温泉地に限っていえば儂にとってはどうでも

よい。どうしてかというと、この共同浴場、漁師の親爺がたくさん入りに

くるのである。

 老け専、汚れ専にとっては最高の景色が広がり、儂にとって性癖を充分

に満足させてくれる温泉地なのだ。

 

 共同浴場は「新湯」と「大湯」の2カ所ある。地元の漁師も「新湯」派

と「大湯」派に別れるらしい。なんとも贅沢な話である。

 

まず「新湯」に行ってみた。真ん中にドンとさほど大きくない浴槽が構え

ている。周囲に3~4人の男が座って話し込んでいる。シャワーなど余計

な物が一切ないのも潔い。身体を洗ったら、浴槽からお湯を汲み、身体に

掛けて石けんの泡を流すのである。

 

儂は褌を外し、ガラス戸を開けて浴室に入って行った。

3~4人の男がいた(と思う)。その中に60代と思われる親爺と50歳

前後の親父がいた。二人とも筋肉質でズル剥けチンボ。特に50代の親父

の方の身体はすごい。格闘家の角田に多少の脂肪を乗せたような身体つき

なのだ。腹筋が割れ、太ももや脛も筋肉でごつごつである。しかもすね毛

が濃い。

一般的に東北地方の男は毛深い者が多いようだ。それにしても、漁師は一

目でわかる。全身が筋肉でごりごりなのだ。しかも、トレーニングで人工

的に作りあげた身体とは明らかに違う。ごつい筋肉と適度な脂肪。その割

合が絶妙なのだ。

 

儂は勃起しそうなマラを隠すので精一杯だった。やがて、男達は一人、二

人と去って行った。漁師がいないなら、もはや「新湯」に用はない。次の

目的地を目指すだけだ。

 

 続いて「大湯」に向かう。こちらの方が漁師が多いらしい。旅番組でも

よく紹介される共同浴場である。新湯と違い、入って右側の壁際に並んで

2つ浴槽があり、浴槽の3方を取り囲むように洗い場が設けられている。

やはり何人かの逞しい親爺が胡座をかいて座っていた。新湯と同様、シャ

ワーなど存在しない。

 

 何人かいる漁師らしき親爺の一人に見覚えがあった。

某旅番組に登場していた漁師の親爺だ。レポーターのタレントと風呂に入

りながら会話していた。この親爺との遭遇は全くの偶然ではない。わざわ

ざ漁師が多く来る時間帯を見計らって来たのだ。しかも、向こうは毎日来

ているのだから、会って当然といえば、当然か。それでもやはり幸運とい

うものだろう。

 

 すね毛が濃く、肩や胸の筋肉が盛り上がっている。実によい身体をして

いる。そして、チンボは・・・、ガッカリ。長さはそこそこあるのだが、

皮が雁首を覆い、亀頭の先端が少しばかり顔を覗かせているだけだった。

仮性包茎・・・。日本人の多くは仮性包茎だそうだから、珍しくはないの

だが、せめて剥いてから入浴して欲しかった。

もしも儂が仮性包茎なら絶対に剥いてから入浴するだろう。しかし、意外

とノンケは仮性包茎を気にしない。そう思うのは儂だけか・・・。

 

それでも、その日からしばらくはセンズリの材料に事欠かないのであった。

 

追伸 

大間市の郊外にある「大間温泉養老センター」も、地元の漁師がたくさん

来る日帰り温泉である。近くに、似た名前の旅館があるので間違えないよう

にご注意願いたい。

後半は夏油温泉、後生掛温泉、大沢温泉、鉛温泉、日景温泉の5つを紹介

する。

 

つづく











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