句楽さんのエッセイ №52                  .




都会の闇を走り抜けて (39)



〈父の日の風景〉

 

618()は父の日です。

毎年5月の第2日曜日と決められている

「母の日」に比べて、今一、「父の日」の認知度は低いのではないでしょう

か。

日本に「父の日」が生まれたのは「母の日」の後です。

「母の日」があるなら、「父の日」も作りましょう!的な不公平感から生ま

れた記念日と言えるでしょう。

 

「母の日」は定番のカーネーションの花があります。

「父の日」は・・?特に思い出される花もありません。アメリカでは薔薇の

花を贈るそうですが・・・

 

母は父より強し!昔からの言葉があります。母は自らの肉体の苦痛を乗りこ

え子供を産みます。その苦痛さえも、なんとも思わぬ母はやはり大地に根を

張る大木の様に強い存在なのですね。男は快楽の滴を放つだけ。か弱い存在

ですね。やはり母は強いのです。

 

もし、「爺の日」が有るならば?

僕は真っ先に誰にも負けない心からの「愛」を贈ります。ハッハッハッ~お

金がかからない物で済みません。

 

話は飛んでしまいました。

「都会の闇を走り抜けて」のお話でしたよね。

いつも、着け待ちしているホテルに白髪の爺ちゃんとお孫さんが手を繋ぎな

がら僕の車に乗ってきます。ホテルの近隣にある高級住宅街から歩いてくる

のです。

 

白髪の爺ちゃんは70歳過ぎの上品な顔立ちをされたお爺ちゃんです。お孫さ

んは
15歳の男の子です。

毎回、乗るたびに近くにある「○区の養護学校」まで行くのです。

 

「伯父ちゃん、おはよう!」少年は屈託のない笑顔を浮かべ、私に挨拶をし

てきます。

 

「おはよう!これから、学校だね。良いねぇ、お爺ちゃんと一緒で。」

 

少年は笑顔を浮かべています。

その笑顔は今日を告げる朝日のような素敵な笑顔です。

お爺ちゃんが僕に声をかけます。

 

「運転手さん、おはようございます。運転手さんの車に乗るのは久しぶりで

すね。」

 

「おはようございます。お客様もお元気そうで安心です。シルバーになって

しまい、出番数も少なくなってしまい、なかなかお目にかかる事が出来なく

なってしまいました。」

 

「そうなのですね。孫が運転手さんの車に乗るのを楽しみにしているのでね

。」

 

「ありがとうございます・・・」僕はそう言うだけです。嬉しさが昨晩から

走り続けている疲れた身体に滲みてきます。お客様の優しい言葉は疲れた身

体を癒すビタミン剤です。

僕はギアをいれ、養護学校まで送っていました。

 

養護学校でお爺ちゃんはお孫さんを下ろすと、再び待っていた僕の車に乗っ

てきます。お爺ちゃんと二人だけの世界が拡がっていくのです。

お爺ちゃんは穏やかな眼差しをバックミラーに投げ掛け、囁いていました。

 

「あの子の父親が早く亡くなってしまってね。私の娘婿なんだがね。娘がか

わいそうでね。私はあの子の父親がわりなんですよ。娘は仕事があり、毎日

学校まで送るのが朝の日課となっているのですよ。」

 

「そうなのですね。お孫さんはお客様の事を本当の父親のように感じている

のですね。いつも、手を繋いで歩いてくるお孫さんのお姿は、父親に甘える

様ですよ。」

 

「運転手さん、ありがとう。あの子がね、『父の日』の似顔絵を描いてくれ

てね。その絵には『僕の爺ちゃんは僕の父ちゃん』と言葉が書いあってね。

私はうれしくて、涙を流しましたよ・・・」

 

僕の身体に血潮がゆっくりと逆流していくのです。

感動で朝日が眩しい。

 

「お客様、素敵なお話ですね。これからもお孫さんや娘さんの為にも良きお

父さんとして、頑張ってくださいね。」

 

「ハッハッハッ~私は爺ちゃんだよ。いつまでも元気で居られるか。まあ~

元気な内は頑張りますよ!ハッハッハッ!」

 

お爺ちゃんは素敵な笑顔をこぼしていくのです。朝から初夏の爽やかな風が

車内に吹き抜けていました。

 

ホテルの近くにある、高級住宅街の一画にあるご自宅に着いていました。何

度かきたお家ですが、いつも壁に飾られたプランターボックスに色とりどり

の鮮やかな花が咲き誇っています。

 

花を愛する素敵な家庭なのだろうといつも想ってしまいます。花を愛する人

々は優しく、穏やかで大好きです。

僕は障害割引をいれ、料金を清算していました。

 

「ありがとうございました。また、お逢いできる事を楽しみにしています。」

僕は降車の挨拶をしていました。

「運転手さんも、元気でね!」心からの言葉が返ってきました。

 

走り去る僕の車を爺ちゃんの笑顔がいつまでも見送ってくれています。

あの爺ちゃんが居れば、お孫さんも娘さんも幸せなのだろうなぁと思いなが

ら、僕は立ち去っていくのです。

バックミラーの中で、爺ちゃんのお姿がいつまでも写っていました。

 

でも、あの爺ちゃんが亡くなったら、あのお孫さんも娘さんもどんな暮らし

が待っているのだろうか・・・

 

僕は限りないフロント硝子に拡がる青空を見ながら、考えていました。

 

なぜなら、僕にも障害手帳をもつ長男がいるから・・・

 

初夏の風は街中の翠の葉を揺らし、吹き抜けていきます。

いつもと変わらぬ一日の始まりです。街中を忙しなく歩く人々は変わらぬ靴

音を舗道に投げ掛けていくのです。

 

さあ、昨夜らいの仕事は終わりとしましょう。

冷たいビールとシャワーが我が家で待っています。

事故もなく、終えた事に感謝しましょう。ありがとうの言葉をハンドルに添

えて・・・

 

変わらぬ日々、変わりゆく日々・・・今日も明日も明後日も僕は「都会の闇

を走り抜けて」いくのです。

 

         2017617(終わり)

 









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