股爺さんのエッセイ 82               .




母の鞄



浅草・上野界隈の爺専の?バーでは、絶えることなく、どなたかがNobby

(ノビー)の『母の鞄』をお歌いなさる。

もう六、七年前になりますが上野の、今はなきバーYで、素敵な爺ちゃんだ

なあと憧れ、後にこの道の超ベテランで雲の上の爺ちゃんと判るのですが、

そのおっとり優しいハゲ爺ちゃんが『母の鞄』を見事に歌いなさり、惚れぼ

れと聞き入りました。

 

やがて憧れ爺ちゃんは腰を上げて、無情にもお帰りになり、愚生は普段は無

いくせに、リセイが邪魔してストーカー衝動を抑え、短髪・メガネ・白髪・

ポチャの素敵なチーママからベテラン憧れ爺ちゃんについてあれこれ聞き出

していると、彼が「一枚どう?」とカウンターに十枚ほど積まれた
CDを取

り上げ、「“業界”のNさんが歌唱してて、彼は浅草で店をやってるのよ、

あっ!アレよアレ、あのポスター!」とお手洗い入り口の素敵な熟爺が微笑

むポスターを指差す。

隣の紺ブレ・モッタリ口調の黒縁メガネ・垂れ眉イガグリ父ちゃんが「オレ、

時々そこ(里)には行くよ!」「じゃ、今度連れてってよ!」と
CDを一枚

お付き合いし、後日浅草は田原町の店を訪ねたこともありました。

 

カラオケに関して、十年前のリタイアー後は、一般のノンケのカラオケ世界

から遠ざかり、その事情をとんと存じあげないので、『母の鞄』がどの程度、

歌われているのか見当がつきません。

 

 

 

それで、本題ですが、愚生はわが町のシルバーセンターから紹介された、ペ

アを組む仕事を週に一回、三時間ほどやってますが、その相方がなんと七十

五歳で超タイプ。

実直な元公務員ですが、農業のような、職人さんのような、学校の用務員さ

んのような感じで一目惚れして以来、悶々として、ノンケですから“成就”

はないでしょうが、一緒に居るだけで、お話ししているだけでも至福。

 

しかしその爺は腰痛が激しくなり、この仕事から手を引くと仰り、ガーンと

きて我が人生、夢も希望もなく世も末、死にたい!と精神的にへたり込む有

り様。

 

しかし何とか食い下がらねばと、謙虚が背広きてると言われる?愚爺が火事

場の馬鹿力を出し、かねてから爺のカラオケ好きを知ってましたから、なん

とか爺の行きつけのカラオケ教室兼業のスナックにお連れ頂く。

 

お互いに歌いまくっていますと、なんと爺が『母の鞄』を入れました。

ええええっー!?と我が性癖を見破ぶられたか?と焦るやら、ひょっとして

爺はコッチの人かも知れない、とうれしいやら、舞い上がってしまいました。

まあ『母の鞄』が一般的に名曲ゆえに良く歌われていて、必ずしもコチラ世

界御用達の歌ではないと解ってきましたが、でもコチラ世界で歌われる確率

は大変高く、まあ『一縷の望みあり』、と言ったところでしょうか?

歌友、飲み友として一緒に居られるだけで至福なのですから欲を言うとバチ

があたりますよねッ!そうそう旅行やハイキングも趣味だそうですから、じ

っくりと。

 

 

(おしまい)

2017.6.18










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