美篶(ミスズ)さんのエッセイ №84               .




ぬた(ズンダ)






「そろそろ『ぬた餅』を食いたいねえ」とわたし。

「そうよ、去年の今頃は2回くらい食べていたわ。お婆ちゃん作ってよ!」

と二人の孫娘。

「昨日もらった枝豆があるだろう?どの道あれだけでは足りないから買い

足して作ればいいじゃないか」

「あら、それだったら、ご自分で買って来てお作りになったら……」

(しまつた、また余計なことを言ってしまった。触らぬ神にたたりなしだ)

と口をつぐむわたし。

  

しかし、一度火がついた孫たちは黙ってはいません。

「ねえ、お婆ちゃん作ってよー!――私たちも応援するからさあ。

ママが帰ってきたらすぐ始められるように、枝豆を買って来て置いてよ!」

夏休み中の孫たちの要求に、妻はあっさり折れてスーパーへ出かけて行き

ました。

 


かくて我が家の昨夕の食事は、待望の『ぬた餅』になりました。

『ぬた餅』は、一般的には『ずんだ餅』と同じと考えれば良いのですが、

わたし達が食べる『ぬた餅』は地域々々によって少し違うようです。

 

当地区での食べ方は、まず、餅のほうは、もち米2に白米1の比率で焚い

たご飯を「はんごろし」につぶしておく。

(あん)のほうは枝豆の皮を剥き、すり鉢でつぶし、塩、砂糖で味付けを

し、水を加えて少しばかりヌルヌルにしておく。

用意が出来たら、飯茶碗に熱い餅を軽く盛り付け、杓子で、うす緑色の餡

を盛りかけて食べるのです。

 

こんな簡単な料理方法ですが、これがすこぶる美味くて、お盆のころに食

べる郷土料理として、忘れることができません。

子どものころは、これを食べ過ぎて縁側に腰をおろし、生唾を飲み込みな

がら、親に見つからないように嘔吐を我慢していたものでした。

 

夕べも美味しくて、体重調整のことも忘れてたくさん食べてしまいました。

いつになったら、医者に言われている70kg以下の体重になるのでしょ

う?

 

 

ところで我が家の『ぬた餅』は、わたしの餡だけが、家族と異なって塩味

なのです。ですから、わたし用の餡は、自分で味付けをします。

皆は砂糖の程よく効いた、甘いお餅を喜んで食べるのですが、戦中戦後の

物資不足で、砂糖が手に入らなかった時代に育ったわたしは、すっかり塩

味に慣らされていて、お砂糖の味では美味しく感じないのです。

 

同じ時代に育った二人の姉達の家族の『ぬた餅』の味も塩味です。

彼女たちは家族全員に塩味を覚えこませたのでしょう。

 

砂糖の味も知らずに幼年期を過ごした食文化の名残をとどめている、この

『ぬた餅』の塩味と、原爆投下の惨劇を重ね合わせたくはないですが、来

る8月15日の終戦記念日を、単に戦後72年と片付けるのではなく、も

っと重く受け止めねばと思っているわたしです。

 

  

幸か不幸かある日この世界に目覚め、これぞわが人生の究極の目的だなん

ていって狂い続けてきましたが、年々感じる体力の衰えに半生を振り返っ

たとき「これって本当に究極の目的?」と、とまどいを覚えながら悩み始

めたわたしです。

おしまい

 










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