S.T さんのエッセイ 7                  .








 春霞。たなびきにけり久方の。

と、『羽衣』の一節にもあるように、空が霞んで見えるこの頃です。

 冬の間は、どこまでも澄み切った青空か、雪を連れてくるどんよりとし

た曇り空か、のどちらかでした。空を見上げては「今日は降らないでくれ

よな」と願っていました。もっとも、ここら辺に降る雪なんてわずかなも

ので、雪国の人に笑われそうなものなんですがネ。

 寒さに凍てついた気持ちそのままに、うつむいて過ごしていましたが、

やっと暖かくなってきました。まわりを囲む里山も雪がすっかり消え、遠

くに見える高い山の残雪も残り少なくなってきました。それに気付かされ

たのが、現場を通りかかったおじさんの

「いいなー、ここに立っていると毎日○○の残雪が見れて」

の一言でした。毎日見ていたはずの景色でしたが、それまで気を付けて見

ていなかったことに気付かされました。あらためてそちらを見てみると里

山と里山の間に、遠くのスキー場が見えました。
3か月以上もここに立っ

ていたのにそんなことにも気付かない自分が、少し恥ずかしくなりました。

 気を付けて空を見ると、明らかに冬とは違ってきています。何というか

色が変わってきています。青空に一筋の飛行機雲がくっきりと長く尾を引

いていたのが、水色の空に短い飛行機雲がたなびいています。

 

子供のころは空に浮かぶ雲を眺めて、あれは『くじらに似ているな、あっ

ちはコッペパンかな』などと想像を広げていました。いつごろからか空を

見上げなくなりました。
1日中建物の中で仕事をして、終わって外に出れ

ばあたりはうす暗くなっている。そんな毎日の中でいつしか空を見上げる

事を忘れていました、たまの休みは畑仕事の手伝いにおわれ、そんな時の

休憩は空を見上げることもない。どこにもあるような話ですね。

 

家庭を持ち、子供と空を見上げる事もありましたが、子供の想像力につい

ていけませんでしたね。

子供達も手を離れたころ、新しい世界に1歩を踏み出しました。そんな時

に見た空に不実さを責められているような気もしました。あの雲に乗って

誰も知らないところに行きたい、そんな事を思ったときもありました。

 

今、見上げる空は少しかすんでいるけれど、あたたかく包んでくれている

ような気がします。空の雲もふうわりとやさしく浮かんでいます。

ところが午後になると春の風が吹き荒れて雲もまたたくまに姿を変えて行

きます。いままで美味しそうな形をしていた雲が、空一面にうすくひろが

っています。暫くこんな日が続いています。

明日から雨予報が出ています、しばらくはこの空ともお別れです。

 

空を見ながらいろいろなことを考えてしまいました。

それなのに、「あ、あそこに浮かんでる雲はソフトクリームみたいだな食

べたいな」なんて考えてしまう私は、子供のまま思考が止まっているので

しょうか。











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