旅人さんのエッセイ 3               .




癒し旅


3)旅の始まり(Aさんとの出逢い)



何時もの喫茶店でホットコーヒーを頼むとマスターから、

「Aさんが私に温泉へ一度連れて行ってほしい」

と伝言がありました。

Aさんとは顔見知りでしたけど、一度も話をしたことが有りませんでした。

私はマスターに、

「何時でも良いから」

と、Aさんに伝言してくださいと言いました。

ある日、喫茶店でAさんと出くわし、

「何時でも温泉へ行っても良いよ」

と言ってあげたら、Aさんは上着の内ポケットからメモ用紙を出し、私に

提示しました。

読んでみると、ランプの宿と記入されていて、私は早速パソコンで検索し

調べてみて、直ぐに電話を入れ問い合わせをしました。

数年先まで予約で埋まっていますと言われると同時に、年間数多くの予約、

問い合わせがあるとの事でした。ランプの宿は石川県珠洲市にあります。

Aさんは当時76歳で小柄で苦み走った顔と、子供のような目をして茶目

っ気のある可愛い人で喫茶店に来るときは愛車のベンツで愛犬のヨーキー

と一緒に乗りつけてきました。

60歳までは職人さんでしたがピタリと仕事を辞め、きっと毎日が退屈だ

ったのでしょう。

農家の一人娘と結婚し、養子に入り農作業と本来職人さんの仕事もやり熟

し、二人の子供も大学に上げ、今はご婦人と、ワンちゃんとの毎日退屈な

生活を過ごしている優しい人です。

ランプの宿が取れないので、私はランプに少し拘り、長野県の角間温泉

(岩屋館)に予約しました。

Aさんと旅の始まりです。上信越自動車道上田菅平インターを下り、約

30分で到着します。

3月の末で旅館までの道のりには積雪もあり、4輪駆動車で行き正解でし

た。

旅館の最上部に露天風呂があり、ランプの灯りの下、階段を上り露天風呂

に行きます。

寝ているとき、布団からAさんの肩が少し出ていました。

風邪を引かれても困るので、私は肩が隠れるまで被せてあげました。

翌日、清算を済ませる時にカウンターで女将さんに

「スタンプ帳お持ちですか」

と聞かれ、私は意味が解りませんでした。

内容を説明していただき、理解することが出来ました。

それが、私の人生を大きく変えて行くことになります。

スタンプ帳は、(日本秘湯を守る会)のスタンプ帳でした。

10ケ所、宿屋の印鑑を押すところが有り、全てクリアすると、泊まった

中の旅館へ1回無料招待してくれます。

それを見てAさん曰く、

「早く行かんと命が無いわ」

との事。

命が有るうちに何とか10ケ所、残り9ケ所です。

4月に長野県鹿塩温泉(山塩館)5月に和歌山県川湯温泉(冨士屋旅館)、

6月に長野県中房温泉(有明)、7月は2泊で群馬県法師温泉(長寿館)

と薬師温泉(旅籠)8月も2泊で長野県中の湯(中の湯温泉旅館)薬師平

温泉(崖の湯)、10月に岐阜県新穂高温泉(水明館佳留萱山荘)合計

10ヶ所、約半年間で達成、Aさんは大喜びです。

それぞれの旅館もいろいろ特徴があり、中でも印象深い温泉は法師温泉で、

旧国鉄時代のフルムーンのポスターが渡り廊下に貼り付けて有ります。

 

   

 

上原謙と高峰三枝子が法師の湯(混浴)で撮影、

「ふたたびの旅。今年も。グリーン車で国鉄全線 七万五阡円湯の音、・

・・・、・・・・。湯の音」 

明治時代木造建築の風呂です。

定年を迎え、夫婦みずいらずで長年の疲れに終止符をと、勝手に想像して

います。

 

つづく










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