哲郎さんのエッセイ 4                     .




唱歌「里の秋」の頃



その歌はカーラジオから聞こえて来た。


しずかな しずかな 里の秋

 おせどに 木の実の 落ちる夜は

 ああ 母さんと ただ二人

 栗の実 にてます いろりばた


唱歌「里の秋」である。

この歌は私の大好きな歌である。

この歌を聞くと、歌詞そのままの情景が浮かび昔の生活のひとこまが思い

出され郷愁を覚える。

秋の静かな情景がひしひしと伝わって来るのである。

山の中で育った私には、秋には栗の実や椎の実、あけびを採って遊ぶのが

常でありどこか

非常になつかしく感じるのである。

この歌は大好きである。

 

そんなこの歌について調べてみたところ、この歌については悲しい背景が

あったことを知った。

終戦の年、南方からの引揚船の第一便が、浦賀港に帰って来るその日の、

NHK
の特別放送のために作られた歌だということを知って驚いたのだ。

たった一回だけの放送のために作られた歌だということを。

それを知ってから、この歌の本当の意味がわかった。

ただ郷愁だけで歌っていたこの歌にこんな背景があったことを。

特に三番目の歌詞はそれを物語っている。

戦地から帰ってくる父を待ちわびる家族の願いがこめられている歌詞であ

る。


さよなら さよなら 椰子の島 

 お舟に ゆられて かえられる

 ああ とうさんよ ご無事でと

 今夜も かあさんと 祈ります


放送後、かつてないほどのたくさんの反響があったそうだ。

戦後何もない時代にこの歌はたくさんの人々の心に響いた。

こんな背景があったことを初めて知った。

背景を知ってから、私にはこの歌は特に深く心に残る好きな歌となった。

この歌が、今でも歌い継がれているのは静かな里の秋の情景が郷愁を誘う

からだと思う。

日本の「里の秋の原風景」が人々の心によみがえって来るからだと思う。

 

ところで車の中で私も口づさみながら、戦地から帰ってくる父を待ちわび

る家族がどんな
想いで待っていたのかと思うと、戦争の愚かさが非常に悲

しく感じられた。

 










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