白日夢




                                      昼顔 さん 



第二章 煽られ諭され・・・



着いた処は小高い丘の上に立つお屋敷でした。閉ざされた長屋門の前に停

車させた妻はクルマから降りもせず、「凄いお屋敷だね」と私が呟くと、

「旧家、名主だったかしら、庄屋さんだったかしら・・・代々続く名家」

と妻も呟きました。お屋敷の当主で絵画サークルの主催氏、先生が長屋門

を開けてクルマを誘導しました。運転席のウインドウを開けて挨拶を送る

妻と私に、「いらっしゃい」「御主人ですね、ようこそ」と微笑み、クル

マが門をくぐると長屋門を閉めていました。駐車スペースは充分との言葉

に違わず、参加者のと思しきクルマ三台が横列に駐車されていました。何

れも高級車と称される欧州車でした。「皆様方、お揃いの様ですよ」とク

ルマを降りた妻の後に続いて庭を進むと、玄関前で先生が待っていました。

 

通されたのは和室に洋家具を持ち込んだ応接間でした。床には絨毯が敷か

れていました。私達が入ると皆の視線が一斉に浴びせ掛けられました。皆

さんの前でこれからヌードに、オールヌードの姿態を晒す私は、生真面目

な表情でもなく、照れ笑いを浮かべるでもなく、勿論平然とでもなく、何

とも形容し難い表情を浮かべながら皆さんへ会釈を送りました。「ま、そ

う固くならず」と男性陣が快活に笑いながら、そして先生も「お気楽にど

うぞ」「・・・でも、お気楽にと言っても無理かな・・・」と笑いながら

ソファーを勧めてくれ、私は妻とならんで腰をおろしました。

 

皆さんと互いに自己紹介を交わし合い、それが一巡した後、「アイビー君

だった様ですね、」「今でも・・?」と、私のファッションを見詰める最

年長の男(ひと)が話し掛けて来ました。「ええ、今もです」「ビジネス

着のスーツも」と答えると、「じゃあ、アメリカントラッドの1型なんで

すね」と返された私は、「ええ、ですが銀座のテ○×○・メンズショップ

も取り扱わない様になってしまって・・」「ですからオ○×ードの○
-P

×○
Sか、或は誂え」と私は答えて微笑み返しました。

 

「昼顔さん宅のおクルマは英車、然も旧車、甲斐さん(最年長の男(ひと)

も英国車の旧車、半世紀は優に過ぎたクルマを整備に是勤め、今でも時折

は乗ってらっしゃるそうです」と、それから一頻りクルマ談義が交わされ、

他の男(ひと)も加わり、私の妖しくも哀しい性(さが)は些かの鎮静を

見せ始めました。

 

何れの男(ひと)もそれなりの社会的地位を得て全うされた方と窺うに充

分すぎる程の風貌と風格、品性を兼ね備えた方々でした。成熟し尽くした

奥様達は皆がそれに相応しい品位を湛えた女(ひと)達でした。和装が御

二人、スラックス姿の洋装がお一人、因に男性陣皆さんは紺色の作務衣姿、

先生は焦げ茶色の作務衣でした。

 

ここで、登場人物を紹介しておきましょう。

甲斐さん 七十一歳 奥様、志津、五十一歳、和装でした。(後添えのよ

うでした)

松本さん 六十四歳 奥様、綾香、五十七歳、和装でした。私と同年齢で

す。

上田さん 六十歳   奥様、志摩、六十歳、洋装でした。妻と同年齢です。

主催氏 六十一歳 独身との由。(縄師、或は緊縛師としましょう)

そして昼顔こと私 五十七歳 三つ年上の姉さん女房の妻、六十歳。

 

話しが途切れて静寂(しじま)が漂い始めた頃、皆さん方銘々が手元の書

籍やアルバムを手にしページを開きました。書籍は絵画集でした。見回し

覗き視ると、伊藤晴雨の縛り絵等々、そして男責めの絵もありました。男

責めの絵には見覚えがありました。私が
M会員として登録された男性間の

SM
サークルの談話室に額装して掛けられた責め絵と似ていたからです。見

詰めていると先生が「見覚えがあると思いますよ」と微笑み掛け、私は小

さく頷いて「・・ええ」と答えました。「多分、都内城西地区に在る
SM

ークルと思いますよ」「頼まれて描きましたから」と先生は笑みを絶やさ

ず囁きました。

 

「じゃあ、昼顔さんの奥様が仰ってらした事、本当だったのですね・・・

SM
サークルのM会員さんだってこと」と、上田さんの奥様が私を見詰めて

呟きました。「事実は小説より奇なり・・・現実にこうしてワタクシ達の

前に・・・
M100%の男(ひと)のようよ」「然も同性愛の褥ではウケ

さん・・・」と松本さんの奥様も私の身体を見詰め回して呟きました。私

と同年齢に女ひと)です。男衆は、三人の御主人達は微笑みながら男責め

の画集と私を交互に見詰めていました。「特定の方と・・?」「特定の方

から・・ですの・・?」と誰からともなく問われた私は、「・・・お馴染

みさんもいらっしゃいますが・・・行きずりとでも云いますか・・・その

日に居合わせた方から秋波を送られ・・・」「お一人からの時もあれば複

数の方からの時も・・」と私は答えました。

 

「男性の・・男の責め絵ばかりなのですか・・?」と皆さんが手にし広げ

る画集やアルバムを見遣って呟き問うと、妻と同年齢の志摩さんが私の目

を見詰めてアルバムのページを繰りました。其処には四十代後半で五十に

手が届きそうな市井の平々凡々とした女性が縄掛けされて喘ぐ写真が貼ら

れていました。「教え子さんのお母様ですって」と、これは妻が囁きまし

た。全裸に引き剥かれ、崩れを見せる身体をまるで縄で修正するかの様に

縛められた数葉と共に、一間程の青竹に両足首を結わえられて大股開きの

真正面からのショットに目が止まりました。大股開きの股間にはピカピカ

と光り輝く金属の輪が埋め込まれ、ピンク色の内性器が露わに晒し出され

ていました。

 

「これは・・・」と呟く私に、「ええ、御存知と思いますけど」「ええ、

そうですよ、婦人科の内診器具、クスコ・・膣鏡です」と誰からともなく

囁かれました。「婦人科の内診台で砕石位を取った時に突然目覚めたので

すって、被虐の心に」「クスコの先端が膣口に当てられた瞬間の冷たい感

触・・」「挿入が始まると声を抑えて喘いでしまったそうよ」「グ〜ッと

外陰部に端部が押し付けられた時、膣と膣口に覚える金属の冷感・・・そ

してグリグリと拡張・・・」「尋常ではいられなくなって・・・尤も、女

性ってその時は尋常ではないのですけどね」「声を禁じ得なくなり・・・

すると看護婦さん達が如何されました・・?
と」「踵支え式の内診台、開

脚台だったそうですよ、その時の婦人科医院は」「膝裏支え式の様に支脚

台が膝の裏を支えるタイプではなく、開脚台の先端にサンダルみたいなも

のがあって其処に足先を・・・そして曲げて立てる様に折った脚を・・膝

を看護婦さん二人が左右から開いて保持・・・同性の看護婦さん達から・

・・」「余計に尋常ではいられなかったそうですよ」「それ以来、悶々と

・・
SMプレイに関心を持つ様になり、御自身の性癖を自覚したそうなの」

PTAの役員として先生と親密に、いえ、身体の関係ではなく・・・蛇の

道は蛇、言葉の端々に仕草に先生はお気付きになったそうです」「教え子

さんの卒業を待って・・・そのお母様の方から訪ねて来たそうです、此処

を、絵を習いたいと」「決して医療プレイと云う訳ではないそうですが、

そのお母様の御所望著しく、と云う訳」と、奥様達が代わる代わると云っ

た呈で経緯を話し聞かせてくれました。「男性にも・・使えるそうですよ」

「胎内(?)男は胎内って謂わないか・・?
兎に角、うん、そう、直腸内

を」と、これは甲斐さんが囁きました。

 

それから静寂(しじま)の中で各自は画集やアルバムのページを繰って見

詰めるでもなく眺めていましたが、突然、静寂を破る様に「奥さん、今日

の主旨に付いては御主人には・・?
因果は含めてらっしゃいますか・・?」

と先生が妻に質しました。「ええ、充分に」「因果を含めると同時に、煽

ってますわ、昨夜から」と妻は答えました。「それでは、もうお互い大人、

酸いも甘いも弁え噛み締めて来た大人」「余計な駆け引きは要らないと思

います」「御主人、貴方は単なるヌードモデルではありません、緊縛モデ

ルです」「これから裸に引ん剝き、貴方の身体に縄を掛けます、縄でお化

粧を施します」「縛られたい、晒されたい、嬲られたい・・・そんな性癖

の貴方」「斯かる中での貴方を皆さん方がデッサンします、これから」

「そして絵に仕立て上げます」「御主人は男責めのモデル、いや生け贄さ

んかな・・」と先生が告げました。正しく宣告でした。

 

「ええ、御存分に」「主人も腹を括って(?) 覚悟はきめております」

「皆様方から寄って集って・・・主人の性癖からしますと願ってもない事

かと・・・」と妻が皆に語り掛けました。私は胸の鼓動の高まりを抑えな

がらも、意に反して打ち拉がれた態を装って俯きました。「じゃあ始めま

しょう、早速にも」と先生が告げると、皆は挙って席を立ち、連れ立って

応接間を出て行きました。

 

「じゃあ・・・此処で身体検査、って云う程のものではありませんが・・

・身体の柔軟性を見せて下さい、見たいと思います」と先生が告げると、

「貴方、さ、お見せして」「全裸よ、一糸纏わぬ全裸、さあ」と妻が脱衣

を促しました。私は蛇に睨まれた蛙・・・
見詰める先生や妻の目を見詰め

返しながら脱衣を始めました。全てを脱ぎ捨て、一糸纏わぬ全裸になった

私は両手を股間に当てて次の指示を待ちました。それから指示のままに身

体を反らせたり前屈したり捻ったり捩ったり・・・その度毎に身体中を触

られての身体検査、柔軟性を確かめられました。「見た目、外見からは屈

強には程遠い御身体ですが、充分に縄に堪える身体、縄が映える御身体、

性的被虐の心と相俟っての格好の被縛体・・・」「さ、もう何も考えず、

何も恐れず、身体の反応の侭に、蠢き突き上げる性癖のままに」と言った

先生は、全裸で立ち竦む私を抱き寄せ、そして妻の前で、妻が見詰める前

で顔を寄せ、そして私は口を塞がれました。熱いベーゼでした。分厚い舌

でした。横目で妻を窺うと、腕組みして見詰める妻の目は爛々と輝いてい

ました。妖しい色を湛えながらも見据える眼差しでした。若しや悋気・・?

いや、悋気なら悋気で良い、悋気のままに皆の前で妻が甚振って嬲ってく

れたら・・・ツボは先刻ご承知の妻、それまでの夫婦だけの閨での性的辱

めを加える妻の痴戯・性戯、悋気の果てに皆様方の前で思う存分・・・私

はそんな思いが頭の中を巡っていました。

 

赤い長い布、一足の白い足袋、そして鴇色の女物の長襦袢が用意されてい

ました。先ず長襦袢を身に纏い、ソファーに腰をおろして白い足袋を履き、

長襦袢のお端折は妻が直し、責め場に引き据えられる私の支度は整いまし

た。私は羞恥が込み上げ、照れくささを装い、冗談粧して「遣り手婆みた

いだね・・」と呟くと、「ええ、そうよお〜
ワタクシは遣り手婆、貴方は

可哀相なお女郎さんかも・・・」「それとも処刑人かも・・・晒しの刑、

緊縛の刑、鞭打ちの刑、責め苛ましの刑場へ引き立てる処刑人かもね」と、

妻は長襦袢の袷を直してくれながら囁きました。

 

私は告げられもしないままに両手を後ろ手に組み、手首を握り締めて妻に

背を向けました。無意識の内にそうした様でした。「あら、お利口さんね

え」と揶揄されながらの私は、組んだ両手首を妻から握り締められ抑えら

れる中で、「皆様方・・・最初から斯かる主旨の絵画目的で・・?」と先

生に問いました。「いいえ、生徒さんは大勢いらっしゃいます」「そんな

中で先ず僕の一方の作品、責め絵をお見せしながら・・・尤も、この方は

と嗜好を窺い探った末にですが、そんな中でのセレクトです」「当初から

僕の責め絵の事を御存知の方もいらっしゃいました」「甲斐さんです・・

・好事家で僕の事を御存知でした」「基本的に皆さんは所謂
SMが混在

為さってらっしゃる方もいらっしゃいますが、ええ、今日の皆さん方、男

女を問わず」「そして偶さか御夫婦の方々となった次第」と先生は答え、

「さ、別棟の土蔵へ参りましょう、皆さんお待ちかねですよ」と先生が告

げました。



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