ひとひらの


                                         あまね さん 



(2)「翼をください」を聞きながら



前の夜から音楽づいていたのかもしれない。

 

テレビを観ないが、ネットで紹介されていた最近始まったらしいドラマの

主題歌に感動してしまった。

音楽はあんまり聞かないし、ましてや最近の若い人の曲なんて分からない

が、「へーっ、福山雅治ってこんないい詞を書き、曲を作り、声も素晴ら

しい人なんだ」と思わず心の中で呟いてしまった。

何回も聞いた。

 

その日午前中三宮でパチスロをやった。

久しぶりに「エヴァンゲリオン」を回した。一回転目から変わった動きを

する。さらに回しているとフリーズし、液晶画面一杯に役物が降りてきた。

「エー、この機械こんな仕掛けがあったんだ」とびっくりしている間に、

スーパーBIGボーナスの当たり。

ボーナスはボーナスでも400枚近くも出るボーナス。

さらにバックには「翼をください」が流れる。

これを当てたかった。

この曲を聴きたかった。

ボーナスを当ててもこの曲は滅多に聴けない。

やっと聞けた。

滅多に聞けないのでネットで聞くことしか出来ない。

なんとも悲しげに歌うこの曲がどうして流行らないのか不思議で仕方がな

い。

もうとっくの昔に話題になってるのに気が付いてなかっただけのことかも。

 

パチスロは体力がないと長くは出来ないし、そんなに当たりが続くわけが

ないので1時間足らずでエヴァンゲリオンをやめて換金した。

なぜか眠たくなってきたし、気分転換にと昼飯に出た。

ラーメンは食べる気がしなかったので、同じビルの地下にあるよく流行っ

ている「丸亀製麺」のかけうどんに一杯ねぎを入れて喰った。

かけうどんというよりもねぎうどんだ。

 

もう帰ろうかなと思ったが、なぜか戻り、今度はあたりの後すぐにやめた

と思われる数字で止まっている「北斗の拳」を回した。

すぐに赤を引いたかと思ったら、すぐに当たりが出た。

今日みたいに当たりが続く日は続くと思いながら、当たりを楽しむ。

当たらないときは頭に血が上ってしまうが、当たっている時は冷静になり

いろんなことを考えられる。

やはりこんなことしか出来ない哀れな自分がいるだけである。

当たりがかなり続いたが、あんまり深追いせずに当たりの後適当にやめる。

体力がないから、騒音と煙の中におれるのは長くても三時間が限度。

もちろん当たりが延々と六時間以上も続いたこともあるが、そんなことは

一回だけである。

 

帰るにはやはり早すぎるかなと思い喫茶店により、新聞を広げるが、もう

一度「エヴァンゲリオン」の「翼をください」を聞きたくなりスマートフ

ォンでネットからの曲を聴いた。

窓の外の雪雲に近い雲を見ながらこの曲を聴くと余計に悲しい曲に聞こえ

る。

 

喫茶店を出て交通センタービル前の交差点で信号待ちをしていると交差点

を挟んでの向こう側にロングコートの人が目に入った。

最近見かけない膝下までのロングコートを靡かせて颯爽と花屋の前を横切

り階段を上がり阪急の改札口へと急ぐ紳士が見えた。

やや細目で長身のその紳士一人だけしか見えない。

その人の白髪、肌の色の白さの印象から先日の理容師さんではないかと思

ってきた。

 

あの人は年がいっても「翼をください」を引きずらざるを得なかったこれ

までの歩みだったのだろうか。

いや今でも「翼をください」を大切にする人に違いない。

だからロングコートを粋に着こなせるんだ。

 

そう思いながら、青になった交差点を渡り駅に向かった。



                                       






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