ひとひらの


                                         あまね さん 



(3)お医者さん



寒いのもあって、朝早く起きれない。

一月は暖かい寝床から飛び出すのに時間がかかる。

窓を開けると8時だというのに薄暗い。

天気が悪い。

こんな日はお医者さんに行っておこうと決心した。

 

耳が詰まった感じが抜けないので一度耳鼻咽喉科に行こうとこの2ヶ月ほ

ど思っていた。

最近は花粉症では耳鼻咽喉科にお世話になっただけで耳が聞こえにくいの

を診察してもらいに行ったことはなかった。

初診料を取られ基礎的な聴力検査をしてまた余計なお金が飛んでいき情け

ない思いをするだけと分かっていても、放っておく訳には行かない。

地元でもよかったが三宮によく出かけるので三宮の駅ビルにある医院に行

った。

ドアを開けると当然交通の便がいいので患者さんで一杯である。

名前などの基礎的なことを書き、いいお医者さんだったらいいのにと思い

ながら待っているとそこのお医者さんが来た。

人を第一印象だけで判断することは悪いとは分かっていても、年配の男性

を見ると自分の好みかどうかは一瞬にして判断してしまう。

これは致し方ないことだ。

お仲間の飲み屋でもドアを開けると一斉に皆がこちらを向くのと一緒であ

る。

「うーん」

診察してもらう分には関係ないと思うので正直に言うと好みの範囲外であ

る。

品がある訳でもなくただ金儲けがうまくいってますと顔に書いてあるよう

に思えた。

最近は、自分の年齢が上がったせいもあってか、お医者さんに魅力を感じ

ることが少なくなったというか殆ど無くなったような気がする。

僕の好みが自分よりも年配の人だから致し方ないことだ。

小さい頃は、どのお医者さんも立派な尊敬に値する人に見えたものだ。

魅力を感じる感じないは別にして、品があり教養があるであろうと思える

お医者さんに会うことは滅多にない。

今回もそうである。

開業医は厳しくて、生き残っていくために、どれだけ多くお金を儲けるを

いつも考えていることも大切な仕事であることは分かっていても何だか寂

しい。

多くの高い検査を行い、薬漬けにして患者から少しでも多く金を巻き上げ

ようとしか考えていないお医者さんの多いことかと僻み根性で思ってしま

う。

 

「念のためこの検査もしておきましょう」と言われると、反論できるわけ

が無い。

患者は専門知識が無いので、ただ医者の助言を黙って聞いておいたらよい

のだと思われているだけだ。

 

聴力検査を小奇麗な看護婦さんが慣れない手つきでやってくれた。

普通の人だったらこの若くてかわいい娘さんに心傾くだろう。

右より左の方が聞こえにくいという自覚症状と同じ検査結果が出た。

 

「前はそうでなかったんですけれど、最近左の耳の方が聞こえにくいよう

になったんです」

「いつから」

「この3週間ほどでしょうか」

「おたくの場合は年もいていっているからね」

とにやけていう。

(まだ62で、周りの同年代の人に耳の遠い人はいないよ)

「最近は耳抜き(空気抜き)が出来ないんです。耳抜きをやると少しだけ

聞こえやすくなっていたのに出来ないので、何とか耳抜きだけやってもら

いたくて」

それを聞きお医者さんが耳管に空気を通すための管を耳と鼻にあて耳抜き

をやってくれた。

いつもはすぐに抜けるのに、やはり左は抜けにくく少し鼓膜に負担がかか

っている感じがしてやっと抜けた。

耳抜きをしてもらうと、気分がいいし、耳管から液が口の方にほんの少し

流れ出る感じがする。

 

「少し様子を見て鼓膜に穴を開けて、気圧調整が出来るかどうか見てみる

ので、何回か来てください」

「念のため最低週に1回は来てください」

「花粉症は」

「毎年45月がひどいんです。毎年市販薬を飲んでいます」

「市販薬はよくないよ。花粉症は早めに薬を飲むのが効果的ですから、2

月から来てはどうですか」

このことを僕の目を見て一番力強く自信を持って言われた。

先日の理容師さんもこれだけ強く自身も持って僕の目を見ていってくれた

らしばらくの間動けなかっただろう。

どうやらいい鴨が一匹また増えたと思われてしまった。

ほかにいいお医者さんがいるわけでもないし、どうしいようかな。

 

先日の遠くから見ているだけで参ってしまう品のいい理容師さんが理容師

で、どうして目の前の人が裕福なお医者さんなんだろう。

やはり清き人は弱い人なのかと考えてしいまい、頭の中を整理するのに時

間が必要だった。

 

「いいお医者さんに会いたい」と冬空に大きな声で叫びたくなる自分が哀

れに思えた。



                                          






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