ひとひらの


                                         あまね さん 



(10)関空



一月末の朝5時半と言えば真っ暗。街灯を頼りに凍てついた道路を駅に急

ぐ。

冷たい無人駅に停車中の電車に乗り込み北川は車内の暖かさを楽しむ。

三人の客を乗せて電車は発車し終点までの10分余りの間に二つの駅から、

客を積み終点に着いた。

本線の新快速に乗り換えるために寒い中長いホームの後ろの方に急ぎ順番

を待つ。

快速が間もなく到着し、新快速に乗り換える人が電車から一斉に飛び出し

各々の目当ての乗車位置に向かう。順番待ちの列は一瞬にして三倍もの長

さになる。

北川はこの電車を最近は滅多に利用しない。今日のように出張がある時だ

けこの電車を利用するだけであるが、以前は殆ど毎日利用していた。

 

その時からたった一人だけいつも目につく人がいた。その人は今日もまた

前見たのと同じように快速電車から降り以前見ていた同じ乗車口から乗り、

ただ静かに椅子に座る。

その人もこちらを見て久しぶりに見る顔だという表情をされたような気が

する。その人とは一度も話したことはないが気が合う、もし中学とか高校

の時同じ学年だったら絶対に友達になっているという印象を持っている。

単なる同じ電車に乗る顔見しりと言えばそれまであるが、視線が合えば気

持ちが乱れる人は多い中で、好感が持て気が合いそうな数少ない一人であ

る。毎日きちんと同じ電車に乗り同じ座席に乗りただ静かに通勤すること

を何十年も続けているだけの人にも見えてくる。

三宮まではあっという間の時間である。三宮で降りる時にその人と目があ

った。

目が「今日は三宮で降りるの」と言っている。

 

三宮で関空行きの往復チケットを買いバスに乗り込む。

関空までの約一時間は快適だ。

空いているし窓からの景色が新鮮だ。

早朝の海に面して空中を走る様に伸びる道路を走るバスからは、巨大ビル

が目覚めて、工場地帯が動き出そうとしている風景が見えてくる。

大阪湾はまさしく現代の関西経済活動の拠点、湾を囲むようにまた広大な

人工の島にも巨大な構造物を立てまくる開発計画を行ってしまう技術力に

はただただ感心するばかりである。別に関西だけでなく東京でも上海でも、

一気に目の前に現れるビル群にはやはり圧倒されてしまう。

久しぶりの関空の外観には圧倒される。早朝巨大な鳥が羽を休めている。

 

空港には出発を待つ多くの客で混雑している。

客ばかりではない。空港で働き空港を支えている多くの人も目につく。

一時間余りを空港で過ごす時の楽しみはやはり人間ウォッチングだ。

人間はやはり張り切って集中して真剣に働いている時が美しいと思ってる。

若い人でも中年の方でも、男女を問わず働いている姿を見ていて気持ちが

いい。

総合案内嬢も、一生懸命焼きそばを焼く人も、土産物屋でレジを打つ人も

いい。

しかしながら最近は見た眼すぐに時間給で働いている人の多いことに気付

いてしまい、やっぱりこれは寂しいことだと感じることが多い。その人た

ちの生活の重さを感じてしまうことが多い。

若い時は寂しいと感じることが少なかったような気がする。

皆自信を持って生活をするために生き生きと働いているように見えた。

スーツに身を包んで颯爽とビジネス街を歩く姿や食べ物屋の主人や土建屋

の班長をを見て何の疑いもなく生活していく力を感じた。

性の対象として感じることが多かった。

年配のスーツ姿に色気を感じて、車内では勃った自分の者が他人に分らな

いかと心配したものだった。

 

しかし今は性的魅力を覚える人が殆ど退職されており、自分の好みの人が

スーツを着てカッコよく歩いている姿を見かける機会が殆どない。

北川が今日の朝見た紳士も若い時に見たら心ときめかしていたに違いない。

これだけ多くの人が目の前にいるのに殆どときめきを覚えることがないと

いうのも年をとった証拠なのかもしれない。

年をとっても若い女の子にときめく普通の男性が羨ましいとも思える。

 

しかしながら今日もたった一人だけどいい人が目に付いた。

やはり白髪の人にはすぐに目が留まる。

もちろん現役ビジネスマンには見えない。

海外に行くのだろうか、少しラフな服装でソファに座り長い待ち時間を覚

悟しているように見える。

年の頃なら70歳くらいだろうか、何度見ても白髪がいい。

 

少し日に焼けた白髪の紳士が素っ裸で抱いくれている。

顔満面の笑み。

人間の表情がこんなに変わるものだろうか。

こんなに大きいとは。

こんなにうまく扱いてくれるとは・・・。

「思いっきり出しなさい」

「ありがとぉーっ」

紳士にしがみつき、紳士の腹に思いっきりぶちまけた。



                                             







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