ひとひらの


                                         あまね さん 



(13)桜前線を飛び越えて



桜前線を飛び越えて北の地に着いた。

 

電車からの風景は春の光に溢れて、遠くに見える白い山は青空に映えて、

畑には雪は残っているとはいえ北国特有の黒い土が光を一杯浴びて、線路

沿いのふきのとうの淡い緑が力強い。

手稲の山も藻岩山も相も変わらずどっしりと構え札幌の街を見守っていて、

豊平川の河原に集められた雪の山は薄汚れて、ただ融けるのを待っている

だけで申し訳なさそうにしている。

やがて電車はビル群の中の一番高い駅ビルに吸い込まれて、薄暗いホーム

に降り立った。

――― 真昼間なのに薄暗い所はやっぱり好きになれない。地上を歩きた

い。

駅から大通りに向かって歩きながら、早春の札幌を味わう。

道路を渡る時にしか見えない旧道庁の緑の屋根と風に靡く旗が出迎えの挨

拶をしてくれる。

「おっ、2ヶ月ぶりだね」

「また来たよ」

「今回もいい人を見つけに?」

「札幌では難しいよ」

「ほら、あそこの紳士は?」

「いいね!」

大通りに着くまでに、いい人が2人もいた。

 

狸小路のホテルでチェックインを済ませて暑すぎる部屋で素っ裸になり休

む。

――― 映画館に行こうか。ラインサウナに行こうか。

心地良いシーツの中で考えることは決まっている。

――― やっぱりやめておこう。

 

6時を過ぎてもまだ明るい「すすきの」辺りを歩くががさがさしている。

ただふらふらと歩いている自分の恥ずかしさに改めて気がつき、ホテルで

大人しくテレビを観たりして過ごすことにした。

――― 明日の朝は思い切ってポプラ並木を見に行こう。

 

朝時6時前の明るくなりかけた広い通りを北に向かって歩いた。車も殆ど

通らず、早朝ランニングをしている人を見かけるだけで、静かな街を味わ

う。

南3条からまっすぐ北へ歩き植物園の横と通り、JRの高架をくぐり、突

き当たった所が北8条辺りのクラーク会館横の入り口だ。

 

さらに静かなキャンパスを歩く。朝陽に輝く農学部を正面から見て、農学

部と理学部の間の狭い道を通り抜け農場への道を行くとポプラ並木だ。

葉っぱをつける前のポプラはただ大きな箒が立っているようで、今にも倒

れそうで頼りなげである。

「大丈夫?」

「おっ、久しぶりだね。何年ぶりだい。まだ生きていたのかい」

「まだ死ぬには早いかも。そっちこそ長生きだね」

「いつかの台風で倒れたのもいるけどね。それはそうと結局どうやって生

き延びていたんだい」

「生き延びる・・・?確かに生きているだけだね」

「ここは毎年毎年若い人が入ってきてみんな楽しそうだよ」

「学生時代が楽しくなかったらおかしいでしょう」

「そりゃそうだ。金持ちでかっこいい学生が多くなったよ」

「この冬、雪が多かったんだって」

「去年も今年も大変だったよ。もう死ぬかと思ったよ」

「まだ大丈夫でしょう。しかし後釜は?」

「見たら分かるでしょ。いないよ。無くなってしまうのかな。セックスを

するわけでもなくただ立っているだけの生活を後何十年もするだけですよ。

ところでそっちは?」

「あぁ、そっち。それなりに。考えてみると学生時代は暗かったよ。今の

方がずっと満足しているよ」

「へーっ、よく分からないけど。確かに確かに若い時は悩んでいたよね」

「先生が好きで・・・」

「誰でもそうじゃないの、恋に悩むのは」

「そりゃ、そうだけど」

「結局、言ったのかい。その先生に」

「抱いてもらったよ」

「うそーっ、ホント、うーっ、羨ましい」

「嬉しかったよ。いい思い出だし、今でも思っているよ」

「うそーっ、ホント」

「しかし、それだけではダメだよね・・・」

「そうやって悩めることも羨ましいよ。上を見たらきりがないのと違うの?」

「そうかも、さすが100年も生きていると言うことに重みがあるね」

「何を仰いますやら。か弱いポプラを見捨てないでよ」



                                             







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