風の谷


                                         参田三太(髭仙人) さん 

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 小糠3合あれば入婿するな! 


 すぐ婿養子の矜持と義務感気づいたのは、実は私の父が婿養子だった

のだ。ただし、時代と事情は異なる。父は近隣から「婿養子の鑑」と賞

されるほどの人生を見事に全うした。農学校出としては、農林省の田舎

役人としてはまずまずの出世を遂げたばかりでなく、農地解放後わずか

に残った農地を、宅地化の波で買い手も多かったにもかかわらず、公共

用地に売却した以外は見事守り抜いて次の世代にバトンタッチした。母

は田舎のお嬢さんで生涯鍬を握る事がなかった。5人の子うち4人まで

大学に進学させた。子ども達に困窮を意識させた事はない。米も野菜も

果物も自家用以上の量を黙々とほぼ一人で生産してきた。その上、社交

的で碁、盆栽にも長け顔も広くよく人の世話もした。睡眠時間を削って

いたいたわけではない。

「○○さんは、家で百姓して、役所で休んどんじゃ」のやっかみも少し

は当たっているかもしれない。

 しかし、1月1日から、炬燵で百人一首に興じる子ども達を家に置い

て、一人山に入り燃料にする柴刈りを暗くなるまでやっていた人だ! 

 

 ついでに、私が生涯で一番感動した墓碑。偉人のではない。社会の片

隅に生まれそっと生を終えた田舎のお婆さんの墓碑。場所は倉敷市有城

の村墓地。妻に先立たれた多分お百姓のお爺さんが建てたもの。小さな

墓石の側面にただ一行。

「○○は人の二倍働いた女だった」

 偶然目にしたとたん動けなくなり目に涙があふれてきた。

 

 私の長い沈黙の終焉を待っていたのだろうか。奥さんが、畑で黙々と

鍬を使う住職に目を向けながら

「方丈(住職)さんは、元々、鍬など握ったことのない方ですの。生れ

てからずっとピアノを弾いてきた人なの」

「え?」


                                                     続 く 









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