風の谷


                                         参田三太(髭仙人) さん 

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 「寺の畑については、こういうことがありましたの。五年ほど前、方

丈さんがお百姓の真似事を始めるということを聞きつけたある檀家さん

が、中古の耕運機を譲ってくださったの。その代金の三十万円を支払っ

た後で、他の檀家さんたちが、その中古の耕運機の価値はせいぜい五万

円がいいところだと口々に言い出したの。でも方丈さんは『一度、私が

三十万円で納得したものだから構わない』の一点張り。困ったのは三十

万円を受け取った耕運機の売主で、こっそり差額の二十五万円を返しに

きましたのよ。でも方丈さんは『耕運機は私が三十万円で買ったものだ』

と頑として受け取りませんでした。困り果てた売主さんはそれ以後、再

々畑仕事を手伝ってくださったり、過分の米や野菜を持って来て下さい

ます」

 かすかな風に、二枚三枚と桜の花びらが宙に舞い散る。

「方丈さんは、本当に無口な方なの。ほとんど一日何もしゃべらない日

もよくありますの」

 石畳のそこここでで桜の花びらたちが仲間たちの着陸を待っている。

「粗茶ですけれでどうぞ」

 私はお茶をいただくのを忘れていた。

「遠慮なくいただきます」

 茶を啜った。素朴だが気品のある味である。

「結構なお味ですね」

「有難うございます。昔は、ここらあたり茶畑も多かったのよ」

 そういえば、京都と同じ宇治の地名もある。

「私も最近になってやっと、納得の行くお茶が作れるようになりました

 の」

「奥さんがお作りになったのですか」

「はい」

 なんだか畏れ多いようなものを頂戴したような。ひょっとすると茶菓

の柚餅子も?

 下の方の道からワゴン車が一台登って来た。


                                                     続 く 









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