風の谷


                                         参田三太(髭仙人) さん 

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「息子と嫁ですの。息子は方丈さんに輪をかけてのお人好しで、お金に

無頓着ですの。ボランティア活動で走り回っておりますの。そして嫁も

同じですの。昨年勤めている学校を突然辞めると言い出して。何でも、

学校務めはとても私の性には合わないとか。近頃の学校はいろいろ面倒

なようですね。家族で何度も話し合った末、結局辞職して、今は息子と

二人でボランティア活動に精を出しております。でもこれでよかったと

思います。学校に勤めていた時分よりずっと生き生きしておりますもの」

 車は畑の横道を迂回して本堂の脇まで登り止まった。

(寺の生計は?)との私の思いを遮り、奥さんが言葉を続けた。

「方丈さんは、お金という言葉も、お金を見ることも嫌いな方ですの。

そして、本当に無口な方で、一日中一言もしゃべらない日もありますの。

何かあると、一言『困った』とつぶやくことがあって。でも不思議な事

に。本当に不思議ですのよ。方丈さんが『困った』とつぶやいた次の日

には必ずどなたかが解決に来てくださいますの。本当に不思議ですのよ」

「かつてのお代官の子孫も来られますか」

「今は東京にお住まいですが、滅多に来られませんわ。偶に来られたと

思ったら系図を作るために過去帳を見たいだとか、同行の人に家柄自慢

をするためだったりとか。余りありがたい方々ではありません」

 美しく老いてゆく顔にかすかに棘が透けて見えた。


                                                     続 く 









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