風の谷


                                         参田三太(髭仙人) さん 

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 畑では住職が相変わらず黙々と鍬を使っている。太陽が杉林の梢にか

かり満開の桜並木に不思議な綾を織り出す。何とも妖しい綾を。

「明日はね、あのお爺さんも一緒に町へ買出しに出かけることになって

おりますの」

「高梁の街までですか」

「そうですの」

 ここから高梁の中心部まで十キロメートルほどある。現在は道路が整

備されているとはいえ、いくつか峠を越え、自動車を持たない老人たち

にとっては依然陸の孤島に近い。

「息子さんたちが殆ど寄り付かないです。ですから、月に一度か二度、

私たちが町へお連れしますの。心待ちにしておられるらしく、朝のまだ

暗いうちから、寺の庭に来て草むしりなどして待っておられるの」

 先ほど訪れた老人の人懐っこい顔が浮かんだ。

「たいした所へは行かないのよ。スーパーとかホームセンター程度。昔

ならこの近くで買いそろえることが出来た品も今では高梁まで出ないと

買えません。お昼に、うどんとかラーメンを食べるのだけど、そのとき

のお爺さんの顔といったら・・・お目にかけたいわ。私たちまでおこぼ

れを頂戴して、まだ余りある幸せそうな顔ですの」

                                                 続 く 









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