風の谷


                                         参田三太(髭仙人) さん 

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 世代差、地域差があって山奥の独居老人が普段食べている粗食など戦

後しばらくして生れた私には想像もつかない。しかし、滅多に無い外食

の楽しみというのは、私がおさないころ偶に連れてもらっていたデパー

トの食堂で食べるお子様ランチの楽しみに似ているのだろうか。グリー

ンピースの緑が遊んでいる赤いチキンライスのプディング型の山。頂上

には日の丸。皿の隅では赤いさくらんぼが取り澄ました顔。

 その十倍、百倍の楽しみかもしれない。

「これから、この谷はどんどん人が減って寂しくなってゆくと思います

の。でも寺は檀家が一軒になっても動く訳には参りません。檀家と手を

取り合って生きて行かねばなりません」

 今まで谷の入口からかすかに吹き込んでいた風はは止んでいた。花び

ら一つが真っ直ぐ落ちてゆく。

 と、谷の奥から一陣と形容してよい獣じみた風がさあーっと桜並木を

横切った。一瞬かなりの花びらが宙で踊った。風神?

 時計を見ると三時半を回っていた。谷は夕暮れの気配を招いている。

畑に目をやるといつの間にか住職の姿は消えていた。

「そろそろ、おいとまさせていただきます。どうもご馳走様でした。ま

た改めてお邪魔させていただきます。できれば来年も桜の満開の時に」

 山門下の『代官花見の席』を立った私は石段を駆け下りて車の前で

もう一度奥さんに一礼した。

(また来年来ます。お爺さん、良寛様、良寛様の奥様・・・)

                                                 完 









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