恋の鐘




                                         筑紫俊一郎 さん 



【 9.返り花 】



 井坂はあれから1度渡辺の訪問を受けた。いつものようにSEXが終わ

ると早々に帰っていく。残された井坂はぽっかりと心に穴が空くように心

も取り残される。何か味気ない感じがする。

暫くして井坂から小暮に電話を入れた。まだ暑さは残っているけれど、も

う秋の足音が聞こえている。

「こーちゃん!今週“赤とんぼ”で飲みたいのですが・・・」

「良いですよ。何時が良いの?」

「出来たら金曜日が良いです。」

「了解しました。金曜日に6時半頃に行きます。」

小暮は6時に赤とんぼに着いた。来る途中で“この前、いーさんは都内で

得意先と逢っていたと言った。しかし、いーさんは連れ立ってマンション

から出てきた。もし、いーさんが正直に言わないなら綺麗に別れよう!私

と言う人間はいーさんにとってはそれだけの魅力がないのだから仕方がな

い”と決意した。

 6時半にいーさんが入って来た。

「こんばんは!ご無沙汰しています。」

「いーさんは元気でしたか?」

「はい。お蔭さまで元気にしていました。この前のゴルフは如何でしたか?

お断りして申し訳ありませんでした。」

「INもAUTも45でした。90ですからまあまあですね。最近は飛ば

なくなったし、下手になりましたよ」

「またご一緒したいですね。私は土日なら大体OKです。先週は予定が入

っていてごめんなさい。」

「この前は少し早く終わったので帰りが途中だからいーさんのマンション

に寄りました。マンションの前で紳士と連れだったいーさんを見たのです

が、お邪魔をしないように部屋の前にお土産だけ置いてきました。素敵な

紳士でしたね。」

「えっ!逢ったの?声を掛けてくれたら良かったのに・・・。彼は前に話

した最初に経験した得意先の人です。一人でこの赤とんぼに来た時に偶然

お会いしました。丁度こーちゃんが忙しくて逢って貰えなくて、一人でこ

こに来ました。その時に逢って・・・・」

「そうなの?今、ここでその話をしても酒が不味くなるから、歌でも歌っ

て楽しく飲みましょう!」

 二人はその話は中断して、歌を歌って飲んだ。井坂には最初の男にここ

で逢ってしまったという運命の悪戯を思い、最初の男の忘れえぬ思い出に

浸ったことを後悔した。

小暮は男と言うのはやはり浮気は仕方ないと思っていた。でも、部屋まで

連れて行くというのはもう何度かの逢瀬を繰り返していたのではないかと

思う。一夜の恋は仕方がないが、2度、3度というとそれは浮気ではなく

本気なのではないかと思う。それとも恋ではなくSEXフレンドなのであ

ろうか?お互いに心にわだかまりがあって、会話は進まなかった。

「いーさん!遅くなるからそろそろ帰ろうか?」

「そうですね。今日はありがとうございました。」

 二人は新橋駅まで連れ立った。新橋駅で小暮は

「今後どうするか考えて下さいね。私はいーさんを今でも愛しています」

と握手を求めてきた。目の奥に悲しさが漂っているように感じる。小暮は

相手を責める気持ちはない。恋だから相手の心が自分から離れたらそれを

引き戻そうとしても無理だし、また引き戻しても直ぐにまた離れることが

解っている。愛しあう関係は二人の努力で創り出すものと考えている。

「おやすみなさい。」

「おやすみなさい。」



                                                  続 く 









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