恋の鐘




                                         筑紫俊一郎 さん 



【 10.膨らむ花芽 】


(最終回)



 小暮は山手線の中ですっきりとした気持ちになっていた。はっきりと言

ったことによって、それが破綻への道筋でも仕方がないと思っていた。そ

れはそれだけの縁しかなかったと諦めることしかない。

 井坂は電車の中で、迷っていた。渡辺と肌を合わせている時の身体が覚

えている快感、そして渡辺のアナルに入れることでもたらされる快感は素

晴らしいものである。

でも、SEXが終わるとそそくさと帰る渡辺に虚しさを感じる。 “渡辺さ

んはSEXの対象としてだけで私を見ているのだろうか?”小暮さんとは

一緒に居ても、ゴルフをしていても心の満足がある。ただ頻繁に逢えない

のが不満である。“毎日でも逢いたい”せめて週一は逢いたい“と思う。

でも、何処かに二人との関係を維持したいと考える自分がいる。

 翌日の土曜日に渡辺が来た。最近は風呂を沸かして、食事の用意をして

待っている。少しの惣菜を用意している間に渡辺は風呂に入った。食事前

にベッドに誘って、横になった。渡辺は井坂のチンボを見て楽しみ、舌で

堪能し、井坂にアナルに入れて貰って感じた。井坂も渡辺の愛撫に陶酔し

た。シャワーを浴びて、少し遅い食事を済ませると渡辺は帰って行った。

 小暮と新橋で飲んで3か月が経過していた。小暮とはこの前以来話して

ないので、電話もし難くなっていた。小暮は“いーさんから連絡がないか

ら、きっといーさんは私のことは諦めているのではないだろうか?”と思

っていた。“私もそろそろ新しい人を探そうかな?でも、その前にいーさ

んと一度話して結論を出したい”と思っていた。

もう梅の花も膨らんでいる。季節も変わろうとしている日曜日の昼頃、井

坂は物凄い悪寒に襲われた。昨日渡辺が来た時には何ともなかった。蒲団

に入っても寒くてゾクゾクする。熱を測ると
38.5度だった。玉子酒を飲んで

寝たけど熱は下がらない。眠ろうとしてもウトウトするだけで、夢ばかり

見ている。お袋のこと、父のこと、そして小暮のこと・・

翌日の朝になっても熱は下がらず、会社に電話して休暇を取った。医者に

行こうとしても起き上がることが出来ない。

 10時過ぎに小暮から電話が来た。

「もしもし!いーさんですか?お元気ですか?」

「はい。井坂です。こーちゃんですか?ご無沙汰しています。」

「いーさん!ひどい声だね。どうしたの?」

「風邪を引いて、熱があって、今日は休暇をとりました。」

「医者に行ったの?」

「起きられないので、寝ています。少し経てば起きられると思う。」

「そうなの?それなら今から私が行きます。車で行くから医者まで送って

あげる。」

 小暮は1時間程で着いた。車で近くの内科に連れて行った。診察を受け

て待合室に戻った井坂に

「どうだった?インフルエンザ?」

「違うらしい疲れが蓄積したのかな?」

薬を頂いて部屋に戻った。

「いーさん!まだ何もたべてないのでしょう?お粥を作るからね。」

「こーちゃん!ごめんなさい。昨日の昼から何も食べてないです。」

 小暮は台所に立って、お粥を作った。たっぷりの出汁を入れて、卵を入

れた。熱々のお粥をベッドに座らせて食べさせた。それから氷水で3時頃

まで冷やした。

「いーさん!熱を計るよ。」

「ありがとうございます。お蔭さまで大分楽になりました。」

「下がったね。368分ですよ。良かった。」

「こーちゃんのお蔭です。ありがとうございます。」

「夕飯は何か食べたいものがありますか?食べないと身体が回復しないよ」

「ありがとうございます。何でも良いです。」

「いーさんが食べたいものがあったら作りますよ。」

夕飯はお粥、肉豆腐、ほうれん草の白和え、お新香をベッドに運んで食べ

させた。

夕飯の後片付けをして少し様子を見てから

「いーさん!もう大丈夫そうですね。」

「もう、大丈夫だと思います。ありがとうございました。本当に助かりま

した。」

小暮は8時に帰宅の途についた。空には無数の星が輝いている。東京より

も遥かに綺麗な星空である。車の中で“いーさんは病気になって寂しかっ

たのだろうな・・もっと早く連絡くれたらよかったのに”と思った。“い

ーさんのような素敵な人に出会えるように”と星に祈りを捧げた。

井坂は小暮の献身的な看病の温もりの中で小暮の懐に抱かれているような

思いで、昨夜の睡眠不足を取り戻すように、直ぐに深い眠りについた。



                                                  終わり 









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