マール爺と忠犬ブブの物語


                                         あまね さん 


(3) 吾輩はブブである



吾輩は犬である。

 

犬種はミニチュア・ダックスフンドで名前はブブという。

 

東京の小さなペットショップで他の犬と猫の鳴き声で目を覚ますとガラス

越しにまあるい顔の爺ちゃんが吾輩をやさしい目でニコッとしながら見つ

めているではないか。「あぁー、またあの爺ちゃんか、今日もまた来たの」

と思いながら、愛想尻尾ふりをしてやると、ガラス窓にキスをせんばかり

に唇をすぼめてくるではないか。ひょっとしてこの爺ちゃん本気で吾輩の

ことを好きになってくれたのかなと思っていると、なんとなんと、店員さ

んが僕を抱きかかえ、その爺ちゃんに手に渡すではないか。こうなったら

もう販売が成立したのも同じ。爺ちゃんは「わーおぉー」と声をあげ、吾

輩を抱きしめたかと思うと「買います!」と店一杯に広がる大きな声で叫

んでいました。

 

それから丸3年、吾輩は主人のマール爺のお世話になっており、犬専門の通

信高校まで行かせてもらって、今は犬通信大学で勉強させてもらっており

ます。

 

今回のクールでは「あなたも死ぬまでセックス」という講座を受講してお

りますが、先日、レポート「ヒト、ホモサピエンスの性行動」を出して、

担当の教授(犬種は秋田犬でみんなからハチ公教授と呼ばれている)から

きつーい指導を受けました。吾輩はまじめにまじめに日々の観察、とはい

ってもマール爺の日常的な観察もベースに苦労して書いたのですが、なん

であのハチ公教授が顔を真っ赤にして怒るのか分かりません。

 

「ブブ君、ヒトの男性の性器についてのレポートは実にいい。特に高年齢

に達した男性性器の数多くのデータにもとにした普段の状態、勃起した時

の状態、射精時の状態、亀頭の大きさ、竿の長さ、太さ、玉の大きさ、射

精時の玉袋の状態など実に詳しく書かれていてついつい私も興奮し・・・、

いやぁ素晴らしい。・・・がなぜそんなに詳しいデータを手に入れられた

のかなどを考えていると大きな疑問が残ってきた。女性に関してはわずか
1

ページにも満たないのに、どうして男性の、それも高齢者の男性ばかりだ。

これじゃぁ、どう見たって、単なる老けた男性に興味がある者、専門用語

では「フケ専」というのじゃがね、いやぁ興味のある犬の単なるお遊びと

勘違いされますぞ。君、学問を何と考えておるのじゃ」

 

「先生、すみません。ネットでいろいろ調べるよりも、実物を観察し分析

した方がいいのではと思い、それではと飼い主のマール爺に相談したら、

快く協力してくれて、12人の実物のもの、高齢者の男性だけですけれど、

のデータを手に入れることができました。マール爺に女性のもの、若い人

のものもとお願いしましたら、『ブブや、無理を言うものではないぞね、

もし。人間、ヒトには個性というのもがあってな、誰も彼も好きになった

りはできんのじゃよ。老若男女すべてのデータを集めて、そこらの専門書

に書いてあることと同じものを書くより、書く者の個性が表れたものを書

くのも一つの方向じゃおまへんか、第一これだけ専門分野が分かれている

んじゃから、一般的なものを書くより「熟年男性」に焦点を絞った方が、

先生もきっと喜んでくれるぞ』と言うんです」

 

「そりゃそうだ。そんでも、どうしてこのデータ分析を読んで、この私が

喜ぶと分かったんじゃろ・・・、いやぁこれは私の独り言じゃがな。」

 

「ワオーン???」

 

「それはそうと、君のご主人は、マール爺と言ったっけ、実に奥が深いの

う。改めて高度に進化したヒトの考えというものに触れたい。一度会いた

いもんじゃ。あっていろいろ教えて頂きたい、とは言っても、言葉が通じ

ないし、君に通訳してもらってもいいかな」

 

「先生、八月はハワイの環太平洋犬大学で夏季講習でしたよね。マール爺

も八月の一週間はハワイですので、よかったらその時に先生をお呼びしま

すよ」

 

「そうかい、ではその時に会えるように、後でメール連絡するよ」

 

・・・てなわけで、ハワイのホテルのプライベートビーチでマール爺と忠

犬ハチ公教授が会うことになった。

 

 

 

「ワンワン」

 

「そうかい、これがかの有名な忠犬ハチ公教授かい。いつもブブがお世話

になっております。ハワイで夏季講習とはさぞお疲れでしょう。えぇ、今

回ブブがヒトの性についてのレポートを書くというんで、何人かの友達を

呼んでサイズの測定などに協力してもらいましたが、そうこうしているう

ちにみんな興奮してきましてね、それであれだけ詳しいデータが得られた

んですわ」

 

「ワオーン」

 

「でもそれが本当かどうか、私のものを観察したいんですって?先生も好

きですね。ほらぁ。こんなもんです」

 

「ワッワオーン」

 

「どうして熟年男性のものばかり?と。ヒトは進化し過ぎたのでしょうか、

性の対象が複雑になり過ぎましてね、単純に男は女というものではなくな

ったんですよ。男も女も抱ける男もいるし、男でも若い男でないとだめと

いうのもいるし、年配の男でないとだめという若い人もいるしで。私は年

配もそれもポチャリとした爺ちゃんがたまらなく好きで・・・。さらにプ

レイスタイルの好みもいろいろありましてね。こりゃぁ先生には釈迦に説

法かな。」

 

「ワッワッオーン。バウバウ」

 

「犬とは大きな違いがあることはもちろん知っておられたが、実際にその

傾向にあるヒトに会えるとは思っていませんでしたと。なるほど、そうで

すか。逆にブブはこちらの世界のヒトしか知りませんので、今回の先生の

講義を受けると聞いて少しだけ心配しておりましたが・・。先生、ヒトの

性癖の種類の多さは理屈じゃないんです。好きなものは好き。ただそれだ

けなんです。これまで同性愛者が迫害を受けたことも先生はご存じでしょ

うが、アメリカとか日本は比較的自由なので助かります」

 

「ワンワン」

 

「話をできただけでも良かったって。できたら今晩ハワイの友達が訪ねて

くるのでブブと一緒に見ていかれたらどうですか」

 

 

 

その晩忠犬ハチ公教授は、ホテルの一室で初めて見たヒトの男と男の激し

いプレイには度肝を抜かれてしまい、毎晩のように見ているブブが羨まし

く思ったが、先生と学生という手前、興奮した自分を見せることができな

かった。

 

一方、ブブは先生がお帰りになるまでは、いつものようにはしゃぐことは

せず、じっとしていた。そのせいか忠犬ハチ公教授とマール爺の友達が帰

られた後はいつも以上に興奮して、いや忠犬ハチ公を見るマール爺の目に

やきもちを焼き、マール爺が取られてしまわないかと不安になり、眼に涙

を浮かべながら、気が狂わんばかりにマール爺のものを朝が来るまで舐め

まわした。

 

(おしまい)










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