冥王星の夜


                                         佐良双樹 さん 

(1)回想の扉



 私は回想の扉を開き、色褪せ始めた記憶を一枚、一枚とめくっていまし

た。そしてふと、あの時のことを思い出し、私があの男と同じ年になった

ことに思い当たり、その日のことを書いておこうと思ったのです。それは

命ぜられて公開ゼミに参加し、そこで見かけた男と過ごした一夜のことで

す。皇居の暗い森の上に、一つの小さな星が瞬く夜のことでした。

 

 

 私が男の足首をんで頭の方へ押しやりながら腰の下に枕を差し込み、

露わにみなったアナルに優しく男根を押し込みますと、

「ううっ」

 と、男は鈍く声を漏らしますが、私は構わず立膝のままゆっくりと挿入

していきました。先端が入るとその後はスムーズで、男の密閉された空間

は、その入口を固く閉ざして根元を締め上げ、熱い粘液を滾らせて絡みつ

いてきます。

 先端が直腸の凸面に当たるのを感じながら暫くそのままでいました。そ

して、ゆっくりと動かし始めると、両手を頭の後ろに投げ出したままだら

りとしていた男は、私の腰の動きに合わせて出てしまう呻きは抑えられな

いようで、少し開けられた口元から野太い呻きを漏らし始めていました。

私は暫く男の反応を見ながらその動作を続けます。早急に抽挿を繰り返す

と、あっという間に達してしまうことがあり、それを恐れてゆっくりした

動作で男の表情を見守っていたのです。それでも男の微妙な腰の動きに引

き込まれ、堅門の内部に溢れる快感に溺れそうになりますが男の表情を見

つめて気を逸らし、快楽の急激な上昇を抑えていました。そして大地の温

みを感じて動き出した小動物を想わせる蠢きや時々漏れ響く呻きに慣れた

頃、下腹部を侵した快楽の急上昇は治まり、私はゆっくりと重なって暫く

静かな快感に身を委ねることにしたのです。

 そうしていても男の閉鎖された空間には熱く滾るものがあることは分か

ります。それは挿入して直ぐに分かったことなのですが、男は確かに感じ

ていたのです。私と一緒にこの部屋に入る前から男の直腸は分泌を始め、

堅い門を弛緩させて私の訪れを待っていたのです。待ちわびた来訪者を秘

密の部屋に招き入れ、悦びの熱い涙で歓迎していたのです。滅多に開くこ

とのない奥の間の襖はこの時に備えて手入れがなされ、軋みもなくスムー

ズに滑って、雪見障子から淡い光を招き入れるしっとりとした秘密の部屋

を見せたのです。

 

                

 

 公開ゼミが終わり、時間はありましたが行く当てもなく、久しぶりの東

京を気ままに歩いてみるかと思った時でした。会場で見かけた男が前を歩

いているのに気がついたのです。
3列程前にいたその男が私は気になって

仕方ありませんでした。
50代半ば位の、少し骨太の感じでしたがそれでい

て粗野ではなく、清潔な印象の男でした。少し角張った顔つきは色が白か

ったせいか知的に見えましたが、それよりも、程よい厚みの少女のような

唇に見とれていました。側頭部には白いものが目立ち始めていましたが、

それも歳相応の恰幅と重厚な印象に似合っていました。公開ゼミ『今、青

少年を考える。青少年への指針とは』と題された会場で、私は講演を忘れ、

その男に気を取られていたのです。その男が今、私の少し前を歩いていま

した。

 私はポケットから携帯を取りだしながら足早に男を追い越しました。男

が先の信号を渡り、右に折れて神保町駅に向かうと予測して、その道筋を

急いだのです。

「ハンカチ、落としましたよ」

 直ぐに男の声がしましたが、私が足を止めることはありませんでした。

「ハンカチ落としました。これあなたのでしょう」

 男が駆け寄って来るのを待っていたのです。漸く私は振り返り、男の手

にしたハンカチに気づいてポケットを探ります。今、事態を理解したと思

わせたのです。

「ああ、すみません、落としましたか。気が付きませんでした」 

 私は男の差し出すハンカチの下に掌を差し出しながら、訝しげに男を見

つめ、何かを思い出したように言います。

「あっ、会場にいらっしゃいませんでしたか」

 古い友人に偶然会ったかのような笑顔を見せたのです。そして懐かしい

友人との握手のように、さりげなく男の手に触れながらハンカチを受け取

ったのです。

「ありがとうございます。先ほどお見かけしたと思いましたが…」

 私は直ぐに態度を戻し、男を引き止めておくために言葉を重ねました。

「公開ゼミですか、はい…」

「やはりそうでしたか。私も命令なものですから仕方なく…まあ、こんな

ことを言ってはいけないのでしょうが」

 そうして先の横断歩道まで、私は進む方向がただ同じであることを装い

ながら男に話しかけ続けたのです。不自然ではなくごく自然に。

「お互い大変なこともありますね」

 男も異に感じるところはなかったようです。二人は神保町駅に向かって

歩いていました。

「宮仕えの辛いところといった所でしょうか」

「確かに…」

「出張ですか」

「ええ、まあ…」

「私は今晩泊まって戻ります。…どうされるのですか」

「私もそうしようかと…」

 二人は横断歩道で信号を待ちました。その時にも私は、携帯を取り出そ

うとしてハンカチを落とし、急いで拾い上げながら男の太腿に肘を当てた

のです。

「大丈夫ですか」と、今度は男が訝しげに見つめます。

「すみません。相変わらずで…」

 私もじっと見返しました。そして歩道を渡る際も躓いてバランスを崩し、

男の腰にしがみついていたのです。すべてが演技でした。下手な演技です

から、男にその気があるなら意味は分かった筈です。その後、私がお茶に

誘うと

「少しなら時間がありますから、そうしますか」と応じたのです。



                                                続 く 


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