冥王星の夜


                                         佐良双樹 さん 


(3) 邪宗の壷


 部屋の明かりは消してありましたが、街の明かりがレースのカーテンを透かして部

屋をぼんやりと浮かせていました。薄暗さに目は慣れていましたから、男の表情は良

く見て取れたのです。

 目を閉じ口を少し開けて快楽に身を委ねる顔は微笑んでるようでもありましたが、側

頭部に目立つ白が若い女のアンバランスの髪のようで、羞じらう乙女のようでもあっ

たのです。そのせいか白い肌は赤みを帯びて若やいで見えます。角張っていた顎の

ラインもなだらかな曲線を描いて汗で光る首筋へと流れ込んでいます。小さめの唇は

少し赤く膨らんではいましたが、それでも中年特有の汚らしさはありません。どちらか

と言えばやはり品は良く、歓喜に悶える表情からもその品が消えることはなかったの

です。スーツで街を歩けば、それなりの地位にいる紳士として誰の目にも映る姿だっ

たのです。

 その紳士は今、覆い被さる男の腰に足を絡ませ、宙に舞わせた両手を背中に回し

てしがみついています。そして何度も吸われて充血した唇を震わせ、歓喜の嗚咽を漏

らしているのです。

「ううっ、あーっ、いーっ。ううっ、あーっ、あ〜っ」

 その必死さは性の官能を覚えたばかりの若い女のようで、いじらしくもあったのです。

 私は両腕を突っ張って男の上半身を持ち上げ、窮屈な態勢で首にしがみついてる

男に杭を打ち込みます。男は必死でそれを受け、ぶら下がるような格好で耐えていま

したが、自分で腰を振ることができないのが不満だったらしく手を離して後ろに倒れる

と、私の腰を抑えた足に力を込め腰を揺り動かしながら押しつけて来たのです。普段

は人の目を隠れて存在する邪宗門の一帯を露わにして、更に深い深い結合を求めて

きたのです。私は男が動きやすいように腰を浮かしていましたから、その男の動きに

合わせて杭を打ち込むことは容易でした。しかし大腰の振える立ち松葉へと態勢を変

え、男の望みを叶えるべく間断なく揺れ動く男の腰の動きに合わせてその中心をほぼ

垂直に穿つようにしたのです。男の陰部は貫かれる度に潰れるような音を立て、腰は

ベッドにのめり込んでから跳ね上がります。私はその瞬間に素早く抜きかけ、次の跳

ね上がりに合わせて突き込みます。リングを擦って中心深くに打ち込まれるその時に

合わせ、男もまた閉め込むように腰を捻って杭を絞り込んでいました。

 それから少し後、私は再び湿った音を立てて壷に深く差し込むと、そのまま男の上

に倒れこみました。そしてまた強く抱きしめ唇を吸ったのです。男も上体を起こさんば

かりの勢いでしがみついて応じ、

「あああー、ああーっ」と虚ろな眼差しを私に向けてから、その喜悦に歪んだ顔の焦点

の定まらない目を閉じ、両手を後ろに投げ出していました。しかし、そうしている間も

菊の花びらの一枚一枚はプルッ、プルッと断続的に震えています。私は暫くそれに任

せていました。それは草原に横たわり、風に揺らぐ花弁に心癒される時のように心地

よいものでした。菊花はそよぐ風に揺れながらも、大地に打ち込まれた杭に纏わりつ

いて離れることはありません。風に揺られるままに杭を離れてもすぐ戻ってさりげなく

触れるのです。時には全体を包み込み、何食わぬ顔で離れたりもします。そんなこと

が繰り返されるうちにそれは得もいわれぬ感触になっていくのです。

 草原の青い匂いと爽やかな風を全身に感じながら抜けるような青空を眺めている気

分だった私は、空の端の切り絵のように暗い山際の曲線に目が行ってあることを思い

出してしまいました。それはちょうど今の二人のように繋がったまま、しっかりと抱き合

っている時のことだったのだろうと。

             

 突然、部屋の外から子供たちの声がします。いつもの聞きなれた声に男は慌てます

が、それでも自分は肛門に男根を差し込まれ抱かれています。どうしようもないので

す。その声が部屋を通り過ぎるのを待つ他はありません。男はじっとしていました。そ

して近づいてくる声が通り過ぎるのを待ったのです。もうすぐ通り過ぎると思った瞬間、

突然、ドアが開き子供たちがなだれ込んできました。

「先生、どうしたの。何をしてるの」

 ひとりの子が言います。裸で男に組み敷かれた先生のベッドの周りに大勢の子供

達が立っていました。

「ダメ、見ちゃダメ」

 女の子が叫び、部屋を飛び出します。他の子達も「わーっ」と叫んで後に続きます。

「校長先生なんて嫌い。男の人に男のものを肛門に入れられる校長先生なんて大嫌

い」

 次の日、学校で女の子にそう言われたそうです。その噂は学校中に広まっていたの

です。男はもう学校へ行くことはできません。子供たちに合わせる顔はありません。家

族にも合わせる顔がありません。途方に暮れ、心臓が止まりそうになった時に目を覚

ましたそうです。

「…目を覚ましてからも高鳴る動悸は抑えることができませんでした」

 と語った以前に関係のあった男の話を、ふと思い出していました。それはちょうどこ

んな時だったのだろうと。私は耳を澄ましました。車の走る去る音と、前後は聞き取れ

ませんが意味不明の笑い声が、遠く窓の外から聞こえて来るだけでした。部屋には

漏らし続ける男の嗚咽と空調の乾いた音はありましたが、ドアの外からの音はありま

せんでした。


 私は男を見つめました。端正な顔立ちの、ある程度の地位にはいるだろうその風格

の、もう半ばですと言ったその熟年の男は、アナルを蠢かせて少女の喘ぎを漏らして

います。私は顔を寄せ静かに唇を吸いました。ふと、今日だけかもしれない、この時

だけなのかもしれないとの思いが湧いて、無性に男の中心を強く打たずにはいられな

かったのです。体全体が壺の中に吸い込まれるような錯覚に囚われながら打ち続け

ました。バシッ、バシッと、湿り気を含んだ重い音が響きます。

 いつしか男の姿は霞んでいました。私の目には涙が浮かんでいたのです。

「愛の経験は、知らなければなくても済ませられるが、一度知ってしまうと以後それな

しでは生きてゆけない」と、ある作家(注3)は言いました。一度知ってしまった愛なし

で校長は生きてゆけなかったのです。その愛が子供には不快であっても、校長には

必要だったのです。教育者といえども人間です。心を求める愛は必要なのです。歳を

重ねた子供たちが、この校長の愛を理解する日が来ることを願わずにはいられませ

んでした。

 そしてこの男も私も、互いなしで今はいられません。ここで突然相手を失ったら、生

きてゆくことさえ嫌になったでしょう。それがこの時限りの愛だとしても、この時を逃せ

ばこの後の人生に大きな悔いを抱えることになります。互いに舌を吸い合います。互

いの歯茎を舐め合います。そして私は唾液を流し込み、舌を絡め合ってから吸い戻し

ます。交じり合った唾液は互いの口を行ったり来たりしていたのです。

 男の口の端から唾液が流れます。私はそれを舐め、そしてまた唇を合わます。そう

しながらも腰は静かに揺らしていました。直腸内深く差し込んだままそうしていると、

一気に昇り詰めそうだった興奮は収まり、深い充足に満たされてきます。男の体温が

心地よく私は幸せな気持ちになっていたのです。

 そうして静かに男と唇を合せ体温を感じているうちに、再び強い衝動が湧いてきます。

私は頭を上げて男の乳首に舌を這わせてから繋がったまま上体を起こし、男の体を

横向きに変えようとしたのです。片足を抱え、もう一方を膝立ちのまま跨ぎ越そうとし

た時、いわゆる松葉くずしの態勢に移ろうとして、その前のつばめ返しの寸前でペニ

スは抜け出してしまいました。と同時に大量の粘液物が壷から流れ出ました。

「あああっ…ああ」

 男にも何かが流れ出るのが分かったようです。

 私は一瞬、漏らしたかと思いましたがそうではありませんでした。少し生臭さはあっ

たのですが透明のゼリー状のもので、私が注入する精液よりも遥かに多い量でした。

行為の前に男は浣腸剤を注入して直腸を空にしていましたから、残った浣腸剤が直

腸を刺激して粘液質を分泌させていたようです。残り滓が貯まると、掃き出し口付近

には排出をスムーズにするための粘液が分泌されるといいます。その粘液がアナル

セックスの愛液となり、繋がる二人の催淫剤ともなるのですが…。

 また挿入する前に、私は男の硬い蕾にローションをつけて揉みほぐし、皺のひとつ

ひとつを撫で伸ばしながらその奥にローションを送り続けましたし、私の男根も壷の中

に先走りを垂らし続けたでしょうから、多分、それらが混じり合ったものが引き抜かれ

る杭に合わせて溢れ出たようでした。


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注3):稲垣足穂


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