冥王星の夜


                                         佐良双樹 さん 


(4)変幻の性


 立膝のまま男の左太腿を跨ぎ、右足を持ち上げて男を露わにすると、緩

んだ門の襞に粘液が滲んで見えます。そして固いものを手で支えることな

くそのあたりに押し付けてみると、馴染んだ入口はすんなりと受け入れて

くれるのです。ゆっくりの抽挿にもグチャグチャと音を立てますが、それ

は不潔でも不気味でもなく純真だったあの頃を思い出させてくれる懐かし

い響きでした。セピアに変色してはいましたが、雪解けのぬかるみを理由

もなく踏み続けて遊んだ幼い頃のようで、私には懐かしくどこかやるせな

い響きだったのです。

 横から男の腹を少し押してやると、ブァーと空気の漏れる音がします。

激しい抽挿で少しづつ空気が直腸内に送り込まれていたようです。男は少

し腰を振りましたが、それは若い女のイヤイヤのようで私には何とも愛お

しい仕草でした。私はもう一度、今度は少し斜めに出し入れを繰り返して

から、そっと下腹部を押してやりました。先程よりは小さかったのですが、

それでも空気の漏れる音がします。少し小さかったためそれはオナラのよ

うでもあって、男は先程よりも大きく腰を振ってイヤイヤをしたのです。

私は増々この男が愛しく思え、腰を強く抱き締めると乱暴に抜き差しして

しまいました。男は「ううっ」と一瞬呻き、そして虚ろな目でまじまじと

私を見つめていましたが、私が元のようにゆっくりした抽挿の戻すと安心

したのか、再び快楽の渦巻く世界へと顔を伏せたのです。そして「ああっ、

いい。ああっ、ああーっ」と布団に顔を埋めたままくぐもった声で喘いで

いたのです。

 私が疲れて動きを止めると、

「もっと…もつと…」と小さく促します。それは最初の頃の野太い声では

ありませんでした。いつの間にか小さく、か細い女のような声に変わって

いたのです。ペニスは萎んでいましたが、それでも先走りは流れ続けシー

ツに小さな染みを作っていました。

 簡単ではなかった挿入もこの頃にはスムーズです。完全に抜き出して再

び入れることは容易でした。勢いよく抜き取ると、ぽんと乾いた音を立て

ます。それは肉茎が離れるのを惜しむ搾りの叫びのようでした。私が何度

かその音を立てて愉しんでいると、男は、

「ねえ、ねえ」と尻を押し付けて揺すります。

 それに応えて烈しく抽挿を繰り返えすたびに、びちゃ、びちゃとぬかる

みを踏んで遊んだあの時の音がするのです。

「ああっ、もっと…もっと…。ねえ、あなた、もっと」

 それでも男は私にしがみつき、女のようにねだります。体の中心を射抜

かれた男は女になっていました。人の目に晒されることのない日常が四辺

を広げられて奥深くまで覗かれる感覚は羞恥ではなく、あがらうことなく

すべてを晒して漂えば、そこには新たな世界が待っているのです。波にさ

らわれた木の葉の世界観はそこで見た景色によって変わるのです。そして

この男の新たな世界でもある悦楽の海は、その精神を女のものに変えてし

まったようです。

 

 性決定前の胎児は皆、体内器官ウォルフ管とミュラー管(注5))を持

っています。やがてウォルフ管は精巣上体や精嚢などの男性生殖器官にな

り、ミュラー管は輸卵管、子宮、膣の一部などになるのですが、それらの

分化と退化に関係あるホルモンに何らかに理由が生じ、男はその体内深く

にミュラー管を成長させていたようでした。医学的には男性子宮、男性膣

と呼ばれるミュラー管の名残りの前立腺小室があるのですが、それとは違

い男の子宮は成熟しているようでした。

 

         

 

「あなた、もっと…もっと入れて、強く。ううーん、気持ちいい。死にそ

う、気持ちいい」

 女となった男はうわ言のように言葉を漏らし、そのバギナから大量の粘

液を流し続けています。私の男根から滲み出るカウパー液(注5)に反応

し、その成長した器官が目を覚ましたようでした。

 私は再び腰を打ち付けます。男の柔らかな臀部に腿の付け根や下腹が当

たるパンパンと少し湿ったリズミカルな音は、男の日常を奪い未踏の頂き

へと運ぶのです。

「ああっ、いい。ああっ、いいわ」と、その度毎に男は腕を宙に舞わせ喘

ぎます。喘ぎ声にも迷いがなくなっていました。快楽に占領された体から

出てくる声は女そのものだったのです。男はアナルをバギナに変容させて

男の精を望んでいました。精子が体内に注がれる瞬間を、全身を震わせ宙

を掴まんばかりの様相で待っていました。肉体を女のものとした男は、そ

の精神も言葉もそしてその気配までをも女のものとして、私を上に乗せ喘

いでいたのです。

「気持ちいいかい」私はボソリと話しかけました。

「ええ、気持ちいい。あなたの太いの気持ちいい…。出して、いっぱい出

してね、私の中にいっぱい頂戴」

 男はそう言って泣くのです。快楽が男を占領していました。男はその快

楽に逆らうことはできなかったのです。ただ泣いて、私の精を待つことし

かできなかったのです。その姿が私の下腹部に鋭い戦慄を走らせます。そ

の戦慄が激しく、時には優しく男を貫き続けさせるのです。それが愛しい

者に対する愛情だったのです。男はその私に啜り泣きで応えてくれていま

した。

 

 この頃からの記憶が男にはありません。ただ深い快楽の中にいたことだ

けは覚えているようでしたが、女のような仕草を見せ始めた頃からの記憶

がないのです。

 その夜、男は私の部屋で一夜を過ごしたのですが、夜中にふと目を覚ま

した私がベッドに腰を降ろして煙草を吸っているといると、同じく目を覚

ました男が傍らに座ってきましたので、

「先程は女のようでしたよ」と、男の腰に手を回しはしましたが顔は合わ

せずに言ったのです。

 男は少し驚いたような顔を私に向けてから、

「そうでしたか。何を言ったか良く覚えてないのです」と、何事か考える

風に暫く言葉を飲み込み、

「途中から何も覚えていないのです。ただ、女の感じる快楽はこんなにも

凄いのかとか、自分は女なのだという意識がどこかにあって…、またこれ

は夢なのだとの意識もどこかにあって、そうした意識があったことだけは

覚えているのですが、何を言ったかまでの記憶はないのです。そうですか、

そうだったのですか。

 途中から快楽に体も思考も占領されたようで、あるのは暗い沼底に深く

沈んで行くような感覚と、暗い水底から眺める水面のようなぼんやりと光

る空間だけでした。その内にそのぼんやりとした空間は次第に輝きを増し、

一帯が輝き出したのです。それは天空の星が落ちるほどの勢いで煌くのと

同じなのですが、最後には瞼を開けていられないほどに光が溢れて一帯が

真っ白になり、私は眩しくて目を閉じてしまったのです。そしてその後の

ことは全く覚えてないのです。でもいい思いをさせて頂きました。長い間、

私の心にはこだわり続ける何かがあったのですが、その何かが分かったよ

うな気がします。その何かが…」と答えたのです。

 女の快楽の深さを、男は自らのアナルの奥に持つもう一つの生殖器官で

感じていたようです。その時だけ男は女になっていたのです。

 

 神話に記された成り成りて成り合わぬ所はその姿を外には出さず、50

年に渡って男の体内深くに潜んでいました。その器官が男を占領したので

す。精巣から分泌されるミュラー管抑制因子がなければ、または正常に機

能しなければミュラー管は退化しません。男の体の奥深くで退化を逃れた

ミュラー管は密かに成長を続け、その夜に目を覚ましたようでした。



******************************

注4)ウォルフ管とミュラー管:すべての胎児が持つ体内器官。それらは

以下のように男性生殖器官と女性生殖器官に分化する。

 妊娠第4週頃に発生した原始生殖細胞は、第6週頃には生殖隆起に移動し

て原始生殖腺を形作る。この時点では原始生殖腺は精巣にも卵巣にもなり

うるが、第7週頃に、SRY遺伝子(染色体上に存在する雄性決定遺伝子)が

存在して正常に機能する場合には性腺原器は精巣に分化する。性の決定は

この第7週のことであり、同遺伝子が存在しなかったり正常に機能しない

場合は精巣への分化は起こらない。

 男性型の場合、この精巣によって造り出される男性ホルモンであるテス

トステロンによってウォルフ管は精巣上体・輸精管・精嚢に分化し、同時

にミュラー管抑制因子によってミュラー管は退化、消失する。

 一方女性型の場合、SRY遺伝子が存在しないため性腺原器が精巣に分化

することはなく、またテストステロンも充分ではないためウォルフ管は退

化、消失する。ミュラー管抑制因子は存在しないのでミュラー管は発達し

子宮・輸卵管・膣の一部に分化する。さらに精巣に分化しない性腺原器は

11週頃に卵巣に分化する。このように、女性の内性器分化に卵巣は必要

ない。

注5)カウパー液:カウパー腺から出る透明な液体で、先走りともいわれ

る。カウパー腺は陰茎の付け根付近にあり、尿道に粘液を分泌する男性生

殖器官。



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