冥王星の夜


                                         佐良双樹 さん 


(7)衆生の門


 私たちは何度も狭いベッドの上を転がりました。その度毎に私が上にな

ったり男が上になったり、また背後から、次には少し斜めからと二人の体

位は変わっていましたし、素早く後に回わって男の腰を持ち上げ、立った

まま上から突き下ろしたりもしました。そして男を膝に乗せて唇を合わせ、

後ろに倒れて下から突き上げ、再び上体を起こして男に被さったりと形は

変わりましたが、その間ずっと一本の
杭で繋がったままでした。そうして

漸く私たちは最初の形に戻ったのです。

 私は男の体を抱いてその快楽に身を委ねていました。男は私の腰に足を回して押

さえつけようとしていましたが、私が全体重を男に乗せてきつく抱き締めると、緊縛を

解いて足を降ろし諦めたようでした。そしてその意識を足から直腸に移し、襞を絡ませ

て差し込まれた杭を弄び始めます。体は私の腕に制御されて身動きできない状態に

ありましたが、別の場所には自在に蠢く進化した器官があり、私の分身を包み込んで

弄び始めていたのです。

 

 男の管は蠕動を繰り返して私を吐き出そうとします。圧迫を緩めるとそ

の圧力に負けて体外に出されてしまうのです。私は強く腰を押しつけ、男

の直腸の中に継なぎの根
を収め続けていました。そうすることだけが私だ

けではなく二人を安らぎの世界に留まらせる方法だったのです。

 安らぎは未踏の絶頂に至る前庭のようで、流れる雲の間に時々姿を現し

ていた頂は、やがて頻繁に姿を見せるようになっていたのです。寄せては

返し返しては寄せくる波のようなこうした光景が永久に続いて欲しいとの

願いはありましたが、それがもうすぐ終わるだろうことは分かっていまし

た。私にはもはや
2つの選択肢しか残されていないのです。一刻も早く歓

喜の時を迎えるか、それともそれを少しでも遅くして今の充足に浸り続け

るかの
2つでした。

 私は迷っていました。この男の熱い体内に己の一部を納めていることは

この上もない至福なのです。私を包む男の管は絶え間ない蠕動を続けて私

の脳をエンドルフィンで満たしています。私の全てはこの男の熱い肉壁に

包まれて無力でした。その脳に満ちたエンドルフィンはこの蠕動に押され

て吐き出されると薄まるのです。私は必死で男を抱き締めて充満の中にと

どまり続けました。

 両腕を投げ出し、その端正な顔立ちを歪ませて私の杭を刺激し続ける男

は、時々眉間の皺を深くしてその刺激を強めます。ああ、このままでいた

い。たとえこうした光景の背後に死の闇が広がりつつあろうとも、ああ、

こうしていたい。このままでいたい。私はそう思いながら灰白色になりつ

つある脳裏にある記憶を蘇らせていたのです。

 

「○○市郊外の廃屋から、2名の男性の遺体が発見されました。遺体の身

元は、一体はその家の主人
aさんのものとみられますが、もう一体について

は不明です。遺体は布団の上で既に白骨化しており、着衣も腐って一部を

残して消失していましたが、僅かに浴衣の紐と思われる断片があったとこ

ろから、浴衣或いは寝巻きのようなものを着た状態で死亡したものとみら

れます。死因については、その様子から病死の線が強いとしながらも、警

察は事故と事件の双方を視野に入れ捜査中とのことです。ただ、残された

のは白骨だけなので難しい究明になりそうです。

 近所の人の話によると、aさんは若い頃に奥さんを亡くされてからずっと

一人暮らしでしたが、
15年前頃からは殆ど見かけなくなったとのことです。

警察は広く情報の提供を呼びかけています」

 

 新聞の小さな記事にはこう書かれてありましたが、病死の筈はなく、殺人か自殺の

いずれかに相違ありません。しかし私は直感的に自殺だろうと思いました。しかも二

人は交接のまま最後を迎えたに違いないと。一人が相手に陰茎を差し込んだまま服

毒したに違いないと。紐は死後も二人の体が離れないように、差し込まれた陰茎が外

れないように二人の体を縛りつけたものだろうと。

 私は男の唇を吸い唾液を流します。そして舌を絡ませその唾液を吸います。記事の

二人が帯紐を回して体を縛り、毒を舐め合う姿が浮かんできます。毒が回っても二人

は喜悦のままだったのかもしれません。同じように私と男の口中を毒のない液体が行

き交っていたのですが、たとえ毒が含まれていたとしても、私たちもまた同じようにし

たのではと思いながら互いの口腔を吸い合っていました。如意棒で繋がった二つの

肉体はその中と外とでひとつに溶けていくような官能の中にありました。それが苦悶

の筈はありません。二人は最後まで喜悦のままで逝ったに違いないのです。そう考え

ながら私は、私自身もまた男の中に溶けていくような錯覚に陥っていたのです。

 

         

 

 油断をすると継なぎの茎は押し出され、永久なる安寧は中断します。私

は蠕動の間隙をついて腰を揺らし、排出の波をかわしながら奥深くに差し

込み続けました。そうした行為が、蠕動とそれに抗う力がひたすらのピス

トンよりも快感を高め、二人の体を一つにしてくれるのです。

 間もなく私に、男の柔らかな肉体に溶けそして消失するような感覚が起

きて来る筈です。その時、一本の肉棒で繋がった
二つの肉体が完全に溶け

て流れる時、男は衆生門(注
9)の奥に秘め持つ子宮の入口を開くのです。

私は無限の広がりを持つその子宮に飲み込まれ、快楽に震えて我が身を溶

かしながら種を撒くのです。この期になれば私に抗う力はなく、すべてを

男の子宮に委ねる他はありません。

 その種を無限の子宮が芽吹かせ、芽吹いた新たな命は快楽から覚めたこ

の男が育てるのです。その命は男が快楽を得た証なのですから。

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)衆生門:衆生(しゅじょう)とは生命あるものすべてのこと。輪廻転生等、多様な

生について反省的に言われる言葉で、いろいろな生死を持つものとも言われる。従っ

て衆生門とは、それぞれの生きざまにある生命あるものすべてに開かれた門という意

味である。



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