夏の夜、M男のおつかい




                                         アッチ さん 



 うだるような日中の空気がアスファルトから立ち昇ってきているようで、

まだまだ暑さが厳しい外の街だった。

辺りの景色は黄昏色一色に包まれ、何処からかにぎやかな太鼓と笛の音色

が聞こえてきていた。

近くで夏祭りの盆踊りでもやっているようだ。

行き交う人達は子供も男も女も夏の夜の宴にふさわしい装いに思えた。

Tシャツに短パン、甚平、浴衣、下駄、サンダル、草履、ピアスに茶髪の

兄チャンのだらしな系の格好も、何故か夏の宵の中では違和感を憶えなか

った。

 洗いざらしの白地に藍の細かい幾何学模様の浴衣、浴衣といっても袂に

ゆとりなどなく、簡易縫製で丈は少し大き目、これは温泉旅館等で出され

るタイプのいわゆる寝間着スタイルの浴衣だ。

帯も兵児帯でもなく角帯でもなく、その幅5cm足らずの綿製のやはりた

だのヒモに近い簡易帯だ。

パンツもはかない素っ裸の上に、勃起したペニスを赤い細紐でぐるぐる巻

きに縛られ、そのヒモ先が首でいったん結ばれ、肩を通って尻の割れ目を

通り再び両玉袋をがっちりと結び付けられている。

どう考えても、非常に歩きにくい状態なのだ。

それに困ったことに、ご主人様の部屋を出る時は興奮でエレクトしきって

いたものが外に出た緊張感で萎えてきているのだ。

ビンビン状態で緩みなく締められた紐は当然たわみ、ますます歩きにくく

なる。

緩んで垂れ下がったりしたら困ったことになる。

不格好な歩行状態にならざるを得ない。

とにかく早く行って、一分一秒でも早く帰ってこなくてはならない。

長い坂道を下った所を横切る道を渡れば駅前の繁華街に通じる道だ。

時々つんのめりそうになりながら坂を下りていく。

私には少し大き目の桐の下駄が歩きにくい。

大き目の上鼻緒がかなり緩んでいるのでなおさらだ

坂ノ下から吹き上げてくる微風に浴衣の前身頃が広がりあわてて前を押さ

える。

人に見られたりしたらどんな状況になるか解らない。

まして両手がふさがっている。

片手には夏の浴衣の定番のうちわと小銭入れの入った巾着袋、もう一方の

手にはミカン箱程度の大きさのダンボール箱、これは十字にヒモがかけら

れ梱包されているがまことにやっかいな荷物だった。

わざとご主人様が用意した試練なのだ。

コンビニで宅急便として目と鼻の先の今出てきたご主人様宅宛てに出して

こなくてはならない。

一体何を詰め込んであるのだろう?

やけに重い、14~5kgはあるのではないか?

箱の上の面の十字ヒモかけ部分を持っているが、よく見かける梱包用のポ

リエチレン製の薄くて丈夫なヒモで、力が係ると細くなるので指はただた

だ痛くなる。

抱えるにしても担ぐにしても運びにくい大きさで、こうして片手をつかい

持ち運ぶしかないのだ。

二三度こけそうになりながらも下り坂だけになんとか下までたどり着くこ

とが出来た。

もうすでに汗ぐっしょり状態でなお身体全体から吹き出してくる。

坂下を真横に横切る道路は国道らしく交通量も多く、けっこう車もスピー

ドをだして通り過ぎる。

左右歩道を見渡しても横断歩道がないせいなのか、ガードレールがづっと

続き、左30m先ぐらいに歩道橋があるだけだ。

この道路を渡りきって繁華街を行った所に駅があるというのに、こちら側

の住人にとってはかなり不便と言える環境だ。

時計を持つことは許されなかったので時間が解らなかった。

部屋を出てからどの位経ったのか?

午後6時30分丁度にスタートされた「おつかい」で、25分後の7時5

分前には帰り着かねばならない。

通常の状態ならなんでもない距離と時間かもしれないが、この格好この状

態ではかなり厳しいタイムレースになることは確実だ!

たいした苦労もなく行って帰ってこられるだろうと張り切って飛び出した

ものの、坂道を下っただけでもう息をきらして疲れが出ているような状況

でこの命令を遂行できるのか?

様々な思惑がかけめぐるが今はただ前に進むしかないのだ。

けれど右手で持つダンボール箱が重過ぎる。

フラフラヨタヨタとしながらで急ぎ足では歩けない。

苦しく辛い時間が続く…。

それだけに余計に、

行き交う人達が誰もみな週末の宵を楽しんでいるように見えた。

あれほどしっかり締めて結んできた簡易帯がすこし緩み、浴衣の前あわせ

部分が上半身から下半身にかけてだらしない状態になってきていた。

帯の締め直しは許されていない、けれどこのままではいつかはだけて下半

身のぶざまな様を公開することになってしまう。

歩道橋の前に来た、登る人降りる人やはり利用者は多い。

普段なら結構目立つ男の浴衣姿だが近くの夏祭のためか注目されることは

なかった。

ただ浴衣自体がリラックスのために着るものなのにこんな荷物を抱え大汗

をかいている自分が他の人達に異様に映らないかちょっと不安だった。

歩道橋のまえで一息つき呼吸を整えると一気に登るべきだと思った。

もうすっかり萎えはじめている赤紐の緩みが気になった。

駆け上がるように階段を登りはじめる。

降りてくる人達はそんな私を自ら避けるようにして端に寄る。

なんとか登り切る、大汗がまたどっと吹き出してくる。

休んではいられないさっさと降りなければ…。

素早く渡りきり階段を降りはじめる。

勢いよく降りはじめた時だ。

乱れた浴衣の裾を自らの下駄で踏んづけてしまい、身体のバランスをくず

す。

本能的に右手に持ったダンボール箱を放していた。

その右手で歩道橋の手すりにつかまり危ないところで転倒落下の大変な状

況を逃れた!

一瞬パニックに襲われる。

ダンボール箱は階段をサイコロのように落下し、下の電信柱に当たり止ま

った。

登ってくる人もいたが運良く誰にも被害を及ぼさなかった。

でも当然のことながら、かなり大勢の人の注目を集めてしまった。

ダンボール箱は落下の勢いと電信柱に当たった衝撃でかなり歪んで変形し

ていた。

底の部分のガムテープが少しはがれ中身が出掛かっていた。

階段の5、6段から放り投げたのだから当然だった。

慌てふためきダンボールのそばに駆け寄る。

チラリと見えた中身を見てさらに私は焦った。

なんとSやGなどのホモSM雑誌が詰まっているのだ!

重いはずだったのだ!

幸いにもヒモは切れていないので、箱の歪みをなんとか整え元に戻そうと

一生懸命だった。

なんとか運べそうな状態に戻した、けれど底の部分が弱くなりかなり恐ろ

しい状態だった。

このハプニングで何分の時間を費やしてしまっただろう?

かなり焦りはじめていた。

一瞬の間だけで人々は無関心に自分の世界に戻っていた。

あわやというハプニングと箱の修正に夢中になっていて、浴衣の前が完全

にはだけてかがんだ状態で丸見えなのに気が付いた。

慌てて簡単に整え箱を持ち駅前に向かう。

やはりダンボール箱の底が危ない、思わずダンボール箱を抱える。

両腕で箱の底をささえるように抱える。

うちわと巾着袋を左手の指で持ちさらにその状態なので、前方をみながら

ただ歩くのみしか出来ない。

歩道橋の下の歩道を10mぐらい行って右側が駅への繁華街だった。

夕刻の買い物の人達、仕事帰りの人、夏祭に行く人達、賑やかな商店街は

ごったがえしていた。

 

 

駅横の交番の隣に目的のコンビニはあった。

なんとかたどり着くことが出来た。

店内はかなり混んでいた。

今風のファッションの兄ちゃんや姉ーちゃん、子供連れのお父さん、スー

パー並みに買い物カゴ一杯にして買い物をするオバサン、二つあるレジも

それぞれ3~4人並んでいた。

吹き出し流れる汗が店内の冷気ですーっとひいていく、まず奥の壁際の時

計を見た。

6時43分、あと12分しかない。

歩道橋のハプニングであまりにも時間を費やしすぎた。

ダンボール箱をレジ横の床にひとまず置き、レジをたたく茶髪ロンゲの兄

ーちゃんに声をかける。

「宅急便にしたいんだけど・・・・」

レジを叩きながらこちらに視線を移すことなくいかにもかったるそうに左

手で宅急便の伝票とボールペンを差し出した。

私はひったくるように受け取るとレジカウンター脇のコピー機の所に行き、

さきほど丸暗記してきたご主人様の住所を記入しはじめた。

書き進めるうちにハタッと思うことがあった。

差出人と受取人が同一でどちらもまったく同じ住所、それもここから目と

鼻の先の奇妙な配達物になるのだ!

コンビニの従業員が不信がらずに処理してくれればいいが・・・・伝票を

書き終わるとすぐ買い物にかかる。

500mlのロング缶ビール5本をカゴに入れ、次はつまみだ!イカ薫、

バタピー、等かごに放り入れるとすぐレジの列に並ぶ。

アイスキャンディー1本とかガム1個とか子供の買い物が列を作っていて

イライラする。

もうすでに10分を切った、間に合うのか?

突然、「運命」のメロディーが響き渡る。

気が付くまで一瞬を要した、携帯の着メロだ!

普段携帯など持たない私だけに気が付くまで時間がかかった。

出掛けの時にご主人様に持たされた携帯が鳴っているのだ。

巾着袋から出し迷いながらも教わった通りにやり耳元に受信口を当てる。

「運命」の着メロはコンビニ内の人々に失笑をかって注目される!

『どーだ淫乱!チンポは立ってるか?』

ご主人様の私の状況とは天と地の差のある快活明朗な声が耳に響く!

『悪いが予定変更だ!ダンボール箱の荷物は宅急便で送るのはやめた!持

って帰ってくるんだ!わざわざこんな事のためにまったくの無駄金を使う

ことはないって思ってな、そうだろ、じゃあたのむぞ!おい時間がないぞ

大丈夫だろうな・・・・・ハッハッハッ・・・・』

しゃべるだけしゃべると一方的に携帯は切れた!

私は一瞬にしてまた奈落に落ちていく様な気持ちを味わった。

あのダンボール箱を抱えて帰り道を間に合うように行けるだろうか?

まず不可能だ、来る時と違い缶ビールロング缶5本とおつまみと言う荷物

が増えた上、ハプニングで箱が壊れかかり両手で抱えなければ持っていけ

ない状態のだ、まして帰りの上り坂、絶対に無理だ!

あらかじめ不可能な設定で「おしおき」を用意なさっているのだろう淫乱

M奴隷としては喜ぶべきなのかもしれない、でも解りすぎるほど解っては

いたつもりでもくやしい気持ちがするのだレジの順番がやっとまわってく

る。

宅急便の伝票を出さないので一瞬不信そうな顔をしたみたいだが、ロン毛

のお兄ーちゃんは何事もなかった様に会計をした。

巾着袋とうちわをビール5本とつまみの入ったビニール袋に一緒に放り込

むとダンボール箱を両手で抱え上げる。

それにしても重い、ビール5本とつまみ分の増加でとんでもない重さにな

ってしまっている。

でも、やるっきゃない、帰るしかないのだ!

コンビニの自動ドアを出て2.3歩く重い!

またうだるような熱気が全身に覆い被さるように襲ってくる。

交番前を通り歩道橋を目指して歩く・・・・。

『ちょっと待ちたまえ!』

信じられないことが起こった!

交番の警官に呼び止められたのだ!

振り返ると40代から50代そこそこの身体のがっちりしたコワモテ顔の

警官だった。

「君々、落し物だ、ほら今これが落ちたよ!」

顔に似合わぬソフトな声で拾い上げた物を私に指し示した一瞬その物が認

識出来なかった、交番の警官に呼び止められたと言うパニックで意識や考

えが働かなかったのだ!

赤い小さい洗濯挟みが警官の指先に存在した。

めまぐるしく頭の中で考えが反応していた。

出掛けに両乳首に挟まれた洗濯挟みの片方なのだ!、

あの歩道橋のハプニングのあとダンボール箱を抱え込んだ時、外れて浴衣

の何処かに落ちずにひっかかっていたに違いない!

緊張とあせりの連続で乳首を責める洗濯挟みの痛みをすっかり忘れ去って

いた状態だったのだ!

「ありがとうございます!」

私はあわてふためきながらもなんとか言った。

受け取ろうと思うが両手がふさがっているので受け取れない。

それを見て警官はビール缶等が入っているコンビニ袋に目を付けその隙間

から中に落とした。

そして笑いながら

「どうやらアワテ者の奥さんらしいね、洗濯ものを取り込む時外し忘れた

んだろう!」。

この場の状況から言えば変な落とし物に警官はこともなげに言った。

「それにしても大変な荷物だ、荷物で前が見えなくて足元もおぼつかない

だろう!気を付けて行きなさいよ!」

コワモテ顔の割に親切でソフトなな感じの警官の言葉だった。

簡単に御礼を述べ私は再び歩きかけた、その時だ!

浴衣の布越しにびてい骨の下の尻の割れ目を手の平でなでられた。

私はびっくりして振り返った。

軽く微笑みながら警官が私の耳元に顔を寄せささやいた

「猥褻物陳列罪で逮捕する!こんな街中でフルチンはまずいぞ!!安心し

ろ!今日は見逃してやるが後日調書を取りにきっと来るんだ!可愛がって

やるぜ!」

・・・・・・・・・・・・・とそんな妄想がすぐにうかんできていつのま

にか萎えきっていたものが膨らみ始めてきたのを感じた!

だが、うかうか出来ないもう本当に時間が迫っているはずだ。

淫乱妄想でびんびんになり始めますます歩きにくい状況、そして浴衣は次

々と吹き出る汗でグショグショ。

また問題の歩道橋の前に来た。

もうすでに覚悟をしていた、歩道橋を渡るつもりはなかった。

思い切ってガードレールを越えて車道を突っ切るつもりだった。

この荷物を抱えて大変危険だが、それしかないと思っていた。

まずダンボール箱をガードレールを越して車道側に寄せて置く。

そしてガードレールを跨いで越えようとした時だ。

「おい待て待て!」の声。

振り返るとさきほどの警官がそこにいた。

「どうも様子がおかしいと思ってチョットついてきたたらコレだ。そんな

荷物を抱えてここを渡ろうってのか?止めときなさい!」

私は本当にびっくりしていた。

まさかさっきのあの警官が本当に私を追ってついてきたのが信じられなか

ったのだ!

浴衣越しにガードレールを跨いで片足は車道側の状態で当然浴衣の裾がガ

ードレールに引っ張られ不自由でみっともなく乱れた格好の状態だった。

さらに悪いことに勃起しかかったマラの頭が浴衣の前身ごろから少し顔を

覗かせていたのだ。

私は慌てて片足を歩道側に戻し浴衣の乱れを整えた。

だが警官は決してそれを見逃さなかった様だ。

「どうも挙動がおかしいな!ちょっと交番に来るか?」

「いえ、とんでもありません!申し訳ありません、なにせ急いでいるもの

で勘弁してください、ちゃんと歩道橋渡りますから・・・・・・」

行き交う通行人の注目を集め始めていてさらに私は焦り始めていた。

車道側に降ろしたダンボール箱をさっさと抱え直しスタスタと何事もなか

ったように歩道橋を上り始めた。

警官はそれ以上追って来ないようだった。

振り向いて見ると、じっと立ったまま私の行動を監視しているように見て

いた。

私は本当に冷や汗が背中を伝わっていくのを感じていた。

『フルチンを紐でくくって、こんな変態本をダンボール一杯に抱えて一体

全体お前は何をしようとしていたんだ?歳はいくつだ?なんだって、いい

歳してなにやってんだ!住所と名前を言ってみろ!勘弁してくださいだと、

あやまって済むなら警察はいらないんだ!』

 

交番で調書をとられているのを想像しただけで身体に震えが走った。

おとなしく歩道橋を渡りおとなしく歩き出さねばならなかった。

あの警官の視界から遠ざかるまでは無理だった。

時間がまったく分からなくなっていた。

でももうほとんどないことは確実だった。

坂の前にきた、来たときよりハードな上り坂、私は荷物を降ろし下駄を脱

ぎビニール袋に押し込んだ。

私は最後の力を振り絞って裸足でこの坂を走り上ろうと思っていた。

気持ちで勢いをつけて坂に足を踏み出した。

重い、苦しい、やるだけやるしかなかった!

それが私の『快楽』だった…。

 

 私は時間に間に合ったのだろうか?







                                            


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