縄に酔う男




                                  昼顔さん



禁断の園に・・・

(顛末の記)




 初めての縄の体験、縄化粧を施されて責め苛まされる初体験はこうして

終りました。男の性とは単純(?)なもの、射精し満たされた性の悦びに

浸りつつも、絶頂の頂から急速に転げ落ちる様な中で、身体に残る性の悦

びに漂う暇(いとま)もないほどに覚醒し始めた私は、日常の羞恥、普遍

的な羞恥が込上げて来ていました。妄想し願望久しかった緊縛、男責め、

そして男達が見詰め見守る中で熱い精を迸らせ放ち・・・男の手指に依っ

て、弄り嬲られての精の迸り・・・覚醒の中で羞恥が込上げていました。

 

 ですが一方では、私だけが絶頂に・・・性の狂宴の中で私だけが終末を

迎え・・・皆さんから御奉仕を求められるのではと思い、縄を解かれて床

に崩れ落ちた私は事後の覚醒感を抑えるべく努めていました。求められた

ら応じなければと、急速なる覚醒感を振り払おうと努めました。

 

 S氏二人とドンデンのM氏の三人は甲斐甲斐しく、正しく甲斐甲斐しい

程に後片しをしていました。縄の撚りを戻して束ねたり、そして私が迸ら

せ床に飛び散った男の精を拭き取っていました。「あっ、それは私が・・

・」と躙り寄ろうとすると、「良いから、いいから」「貴方は熱いシャワ

ーを浴びなさい」「縄目の跡には特に」「熱いシャワーを浴びたら消える

から、帰り着く頃には消えるでしょうから」と三人が口々に私を制し、そ

してポンと赤い布切れを、私が締めていた赤い締め込みをポンと投げ渡さ

れました。

 

 「さ、良いから、此処はいいから」と促された私は、御奉仕しなくても

良いのだろうかと訝りながらに腰をあげ、プレイ室を出て談話室を抜け、

そして廊下の事務机の前に座るマスターの横を抜けて浴室へ向いました。

マスターは温厚そうな目で私を一瞥して微笑みを投げ掛けました。

 

 談話室に戻るとプレイ室の後片しは既に終えられ、座卓を囲む皆さんの

視線が私に注がれました。照れ笑いを浮かべながら、赤い締め込みを改め

て締めた私は空けられていたと思しき場所に腰をおろしました。「どれど

れ」「身体を見せてごらん」と
S氏二人から交互に囁き掛けられ、私は膝

立ちになりました。目を細めて仔細を視た二人が、「大丈夫!」「二の腕

にクッキリと縄目が着いているけど」「それも消えるでしょう」「ヘンに

揉んだりしない方が良いヨ」と微笑みながら教えてくれました。

 

 若いMの二人は、先ず一人が急な用を思い出したとでも言わんばかりに

座を立ち、それを見たもう一人も座を立ち談話室を出て行きました。「あ

の二人、幾つに見える??」と質された私が「三十前後だと・・・」と答

えると、「二十五と七だって」と返されました。「プレイ・・・しないの

ですね・・」と問うと、「まだまだ踏ん切りがつかないのでしょう」「覚

悟を決めたつもりでもいざとなると」「自身も
SなのかMなのか、ハッキ

リとはしないのでしょう」「良くあるのですよ」と返されました。

 

 御奉仕・・・私だけ逝って・・・男の性を識ればこその御返し(?)が

気になっていた私は、「あの~」と思わせ振りに問うてみました。察した

三人は異口同音に、「良いんですよ、気にしなくて」「気を回さずとも」

「責める、縛って苛める、嬲る、それだけで・・・」「
Sって、此処に集

Sってそう云う男(ひと)が多いのですよ、他所は知らないけど」と返

されました。私は正直安堵しました。私自身が妄想の末に描いていた、勝

手に描いていたシナリオとは乖離した責め苛まし、そして衆人環視の中で

の絶頂、精の迸り・・・性(さが)を奮い立たせるだけの元気はもう無い

様に思っていたからでした。このまま横になって身体を弛緩させ休みたい

・・・そんな思いでした。非日常の束の間の性の狂宴の此の場から出たい、

出ようか・・・とも思っていました。何喰わぬ顔をして日常の市井へとも。

 

 「おっ、もうこんな時間・・」と呟いたドンデンのM氏が座を立ち、す

ると「おっと、僕も・・・なにせ家が遠いから」と
S氏が続き、談話室に

は熟年
S氏と私の二人が取り残されました。座卓を挟んで向かい合う其のS

氏が、「如何でした・・??」「満足しましたか・・??」と明るく問い

掛け、私は「・・・ええ・・・」と小さな声で答えました。「妄想通りに

はならなかったでしょう・・」の問いに、私は「・・ええ・・」と小さく

頷いて答えました。

 

 「でも・・・」と前置きして、「宜しいのでしょうか・・?? 僕だけ

・・・逝って・・・」と、懸念していた事を質すと、「ええ、それで良い

んです」「サディストの
SとはサービスのSとも云います」「君が悶え喘ぐ

様・・私の責めに応えてくれただけで、それだけで良いんです」「私はそ

れだけで充分、満足しています」と、彼は澄んだ目で私を見詰めて囁き返

しました。淫靡な目、獲物を捕らえて嬲る目、そんな目の色ではありませ

んでした。「そうですか・・・僕はてっきり・・・皆様方に御奉仕を要求

されるものとばかり・・・
Mなるが故に強要されるものとばかり・・・身

体を投げ出し委ねさせられるものとばかり・・・思っていました」と返す

と、「じゃあ、そうしましょうか・・?」と彼は返し、私が俯いて黙って

いると、「冗談じょうだん」と私の膝をポンと叩いて笑っていました。

 

 「我々もそろそろお暇しましょう、もう誰も来ないでしょうから・・・

マスターに早仕舞いして戴かないと・・」と言った彼は座を立ち、私も続

きました。更衣ロッカーの前で二人並んで締め込みを解いて身支度を始め

ました。白い締め込みを解いた瞬間の彼の股間を一瞥すると、半勃起(?)

であった様でした。或は、それとも、それが常態(つねてい)??
良く

解りません。

 

 身支度を終えた私達は「遊べた様ですね、御気を付けて」のマスターの

微笑みを受けてサークルを出ました。サークルが在するマンションを出て

最寄り駅への道すがら、「よく・・いらっしゃるのですか・・?」と遠慮

がちに問うと、「多い時だと月に一度、二・三ヶ月に一度の時もあれば、

半年以上も御無沙汰の時も」と彼は答え、「お茶でも飲みませんか・・?」

と誘われました。セルフサービスの喫茶店の前を通り掛っている時でした。

「ええ、僕もマインドの切り替えを、モードと云った方が正しいでしょう

か、暫く休まないと・・・このまま引き摺って家に直行帰宅するのは些か

・・」と同意すると、「モードの切り替えか、上手い事を仰る」と彼は微

笑みました。

 

 「互いに注文の飲み物を空席に運び、それから暫し、時事の四方山話を

始めました。話しが途切れを見せた時、「僕は如何でしたでしょうか・・・

宜しければまた・・」と小さな声で遠慮がちに呟きました。「ええ、互い

に上手く都合が合えば良いのですが」「私も君には好感を抱きました」

「であればこそに、貴方が入室した時に秋波を送ったのです」「私は筋肉

隆々の身体には興味を示しません」「粗野な男(ひと)も然りです」「無

鉄砲な若者も好みません」「或る程度の品格が窺える男(ひと)」「詮索

はしませんが、貴方はそれなりの社会性を持った男(ひと)である事は一

目で判りました」「そんな男(ひと)に私の波長は合います」と、彼はテ

ーブルを挟んで向き合う其のテーブルの下で私の膝に触れました。

 

 「じゃあ、今日の内に決めておきましょう、互いに電話番号の交換も今

日の其の日は些か・・・と思いますので」と一ヶ月後の土曜日を指定し、

「無理に合わす事はありませんからネ」「束縛される事はありませんから」

「御都合宜しく、そして当日モヤモヤ嵩じていたらいらっしゃい」「
M

んは特に、体調が・・プレイですから、身体の体調と共に精神も」と彼は

微笑みながら囁きました。

 

 最寄り駅の改札前で、「再会を期して」と彼が右手を差し出し、私達は

握手を交わして別れました。温かい大きな掌、そしてネットリと包み込む

様な感触でした。乗り込んだ電車のシートに腰をおろすと、臀部にそれま

で感じた事の無い違和感を覚えました。鞭打ちの後の痺れ感でした。痛感

も蘇って来ていました。

 

                                                                                副題『禁断の園へ・・・』 完結



                                         つづく 









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