老いて、なお 古今東西


                                             山田大郎さん




 俵万智さんの「伊勢物語」解説の、「世ごころつける女」と言う一説で

す。「世」と言う言葉には「男女の関係」と言う意味も含まれていて、「

世ごころ」とは「異性を思い慕う心」、つまり「好色」と言うことだそう

です。年老いてなお好色の心を持ち続けている女が、何とかして素敵な男

性とめぐり合いたいと願っていました。でもその気があっても、誰も口説

いてくれないのでは恋は生まれません。かといって自分から男に言い寄る

と言うのもためらわれます。そこである日三人の息子を呼んで、「近頃こ

んな夢をみたのだが・・」と作り話をしてみました。長男と次男はあきれ

果てて、「良い歳をして・・」と思いやりの無い返事で帰ってしまいまし

た。でも三男だけは母親の悶々とした思いをくみとってくれました。

 

母親は「えっ、お前もそう思うかい。実はこのところ、何だか妙に殿方が

恋しくてね。・・」と満足したのです。息子はそんな母親の姿を見て、つ

くづく気の毒になりました。なんとかして、もう一度素敵な恋をさせてあ

げたいと考えた末に、思い浮かべたのが在原業平のことでした。

 

この方は在五中将と言う位の皇族、当代きってのハンサムのプレイボーイ

で、恋人にする女性にはことかかない人物でしたが、息子は業平が狩に出

かけた時に、一行にまぎれ、業平の馬引きをして母の想いを伝えました。

すると業平は息子の気持ちを分かってくれて、

「あわれがりて来て寝にけり」と大願成就となりました。

 

「あわれ」には同情そして歳老いてもお色気を忘れないことへの感動が含

まれているのだそうです。据膳食わぬは男の恥とは言いますが、一度は関

係してみたものの、天下のプレイボーイは忙しいし、義理ま○は並みの男

でも一度でうんざりでしょう。逆に女にとっては一大事です。そこで業平

の屋敷を外から覗くのを始めますと、ある日目が合って、覗かれていると

業平は落ち着きません。それでも相手のプライドを傷付けないように、歌

を詠んで送りました。「百歳に一歳足りないくらいの白髪の女が、私を恋

い慕っているようだ。幻にその姿が見えるよ」、こんな内容の歌です。女

は火がついたように急いで帰ったので、転んだりして傷を負いましたが、

床の準備をして待って居ますと、「元気だろうか、落ち込んでいなければ

良いが・・」と中を覗きに来て、直ぐに帰るつもりが、あわれに思って又

もや共寝をしてしまったと言う話です。百歳近くでは泉も涸れてしまって

いるでしょうし、乳首は干し葡萄、そして肌はふくよかさも無く。そんな

白髪の婆さんに恥をかかせまいと、朝まで寝てくれた業平は、サービス精

神が旺盛で立派なお方ではありませんか。業平は光源氏のモデルとも言わ

れているそうです。

 

父帝の後添えに子をなして、いつくしみ育ててきた、未だ毛も生えない幼

い姫にまでねじ込んだ光源氏です。

 

源氏物語には光源氏の華やかな女性遍歴が綴られていますが、長年空閨を

かこったこの老婆の、煙突掃除の話はありません。やはりうら若き女御と

の話が絵になりましょう。作者は中村真一郎先生から次のような話を聞い

たそうです。それは文明の高さは色々なもので計られるが、その一つは、

恋愛年齢の幅の広さである。幅が広いほど文明が高いと言う文明論。恋愛

年齢の幅の広さは文明のバロメータとの説。フランス十七世紀、ルイ十四

世の七十代の宮廷女性が、太陽が明るいうちには孫達と恋を争えないがと

嘆いたと言う記述があるそうです。つまり蝋燭の光では孫達に負けないで、

若く素敵な男性を口説けると言うこと。

 

この時代フランスの文明がヨーロッパで一番高かったそうです。恋をする

ことは、精神の細胞が活発で若々しい証拠だそうです。

 

 七十四歳で四度目の結婚を考えていると言う話

 

 ジェーン・フォンダ アメリカ現代史を駆け抜けた名女優だそうです。

三度目の結婚では広大な土地を貰ったそうですが、別れたのでしょうか。

或る時紹介された男性に一目惚れして同棲して二年経って、近く四度目の

式を挙げるそうです。今は彼に愛されていると言うだけで幸せとのこと。

彼からは何も要求されないし、彼女も何も求めない。愛情だけで充分。人

生の終わり近くになって、そんな愛を見つけることができたのだそうです。

人間って自分が何を欲しいか知るのが第一。ここまで長い長い時間がかか

ったけど、ようやく見つけましたと語っているそうです。お互いに何も要

求し合わないで、共に枯れていくのが幸せと言うのでしょうか。普通の人

は一度の結婚で満足否惰性なのかも知れませんが、共、友白髪で往生です

ね。大層な資産も持っているし、それよりも自分達の幸せを世間に披露し

たいのでありましょう。

 

七十代の女性に会いたい

 

 顔の広い先輩にと、五十代の知り合いに頼まれたのです。自分の知り合

いはハイキング、健康体操や日民の活発な熟女ばかりで、そんな好色の熟

女の知り合いはいませんよと一度は断わりました。でも色々考えていたら

美容マッサージをしている女性を思い出したのです。サロンを経営してい

たのを閉鎖した、今は頼まれて出張サービスとか言っていたのを思い出し

ました。電話を掛けると大変懐かしがってくれたのですが、自分はお役に

立てないが良い人を紹介するとお伝えしました。

 

小料理屋で二人を引き合わせて、「細腕でやってこられたそうですが、少

し協力して上げて」と仲人の口上。

 

酒三本飲んで退出しました。夜メールが来て、「直ぐにホテルに直行して、

お互いに歓喜にむせびました。末永くお付き合いします」と、喜びとお礼

でした。翌日彼女からもお礼の電話を貰いました。良かったと安堵する一

方で、逃がした魚は大きかったと、いささか寂しい気持ちも。ちょっとし

た人助けをしたのでしょうか。こんなことを言うと女性に顰蹙を買いそう

ですが、マンネリ化した夫婦生活から抜け出すことも、人によっても必要

なことではないでしょうか。

 

 自分のことは中々に  耳が遠くて

 

 隣市の老人憩いの家「山百合荘」に月に一、二回出かけます。ここが気

に入ったのは何時でも酒が飲めることと、風呂が大きくて空いていること

です。

 

百畳位の大広間に三十人程度の客、男は十人足らずです。主の親父に聞く

と「皆後家さんだから、気に入ったらアタックして」と嬉しいお話でした。

 

 皆さん手弁当を持ち寄ってはしゃいでいます。五十年以上の 糠床で漬

けたと言う漬物が美味しかったので、話しかけると普段は孫の守をしてい

るとか。

 

二人になった時、「連絡し合って又お会いしませんか」と、携帯の番号の

メモを渡したら、名前と固定電話の番号を教えてくれました。後日電話を

掛けたら、息子さんの嫁さんが出て「お祖母ちゃん電話」と取り次いでく

れたのですが、「もしもし、もしもし・・」だけで通じません。そして「

耳が遠くて聞こえないの」とのことでした。

 

顔を寄せ合っての話は出来ても、電話が通じないのでは不便です。

 

健忘症は一人だけで良い

 

例年よりも桜が早く咲いて、うららかな日和となりました。千代田区一番

町に出来た真如苑の精舎にお参りにと出かけたのですが、余りにも良いお

天気で、花見をしようか、独りでは寂しいと、お誘いの電話をかけたら、

暫くして出たのですが、「ふさぎこんで寝ていますの」と言うのです。訳

は息子さんから貰った生活費を入れた封筒が、見つからないとのことでし

た。「首から袋を下げて、お金や携帯を入れておいたら・・」と慰めて失

礼したのです。健忘症の君は我が家にもいまして、出かける前は大変です。

健忘症は家内だけで結構です。真如苑で「心を浄め、行いを浄める。これ

が信心ですよ」と諭されて、耳にたこが出来る程聞いているのにと、やや

もすると道から外れそうになる自分を反省。英国大使館の庭園の桜が満開、

堀端そして千鳥ヶ淵の桜の見事なこと、独りでの花見を楽しみました。帰

宅したら娘が二人共来ていまして、長女の四十七歳の誕生祝をしていまし

た。もう四十七になったのか、早いものよと感慨に耽りながら、パソコン

を開いたら、クラスメイトの訃報が入っていました。死んだのか、あんな

に元気で愉快な奴だったのになーと、冥福をお祈りした次第です。又熟年

同士を見合いさせる話が出てきました。

 

奴に渡す前に味見をしてみるかと、良からぬ考えがかすめましたが、「ご

霊界は全てお見通しですよ」と言うお諭を思いだしたのです。

 

鰻鉄の串焼きにんにくを食べたら、翌朝元気だったので、先日又食べまし

たら、家内から文句たらたら。「臭いから自分の部屋から出ないで。トイ

レでは消臭スプレーを一杯撒いて。今日は歯医者さんに行かないで、迷惑

よ」とか。故米永名人が「コンピュータに負けそうだ」と呟いたのを聞い

た奥様が、「以前の貴方だったら勝てたけど、今の貴方では勝てないわ。

だって若い彼女が居なくなったでしょ」と、痛烈な指摘をされたそうです。

「そうか、ようーし、若いのをつくるぞ!」と反発出来ない、歳の重みで

しょうか。熟女の皆さんは長年の経験からかすまし顔です。でも下手な鉄

砲数打ってば当るのたとえで、打って打って、空でも打ってと、前向きの

姿勢で、老いのときめきを忘れずに、脳の活性化を図って、日々鍛錬に努

めましょう。

 

 今月高校の喜寿を祝うクラス会に出席します。

 

                     終わり








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