男の影を慕いて



                                     秋山槙太郎さん 



(22)親父の店で、、



人は、今まで普通の友達だった男が、友達以上、恋人未満の状態になると、な

ぜかその人とは、わざと距離を置いてしまう、、、と言うことがままある。

今まで普通に話していたのに、ある日から恋心を抱いてしまうと、なぜか今ま

でのようにフランクに話ができず、なぜか相手を嫌うようなことを言ってしま

うのだ。自分の気持ちとは裏腹なことを言ってしまうことがある。

俺の心理状態は、このような気分になっていた。

 

今の俺は、親父に会いたい気持ちでいっぱいだった。

俺の切ない気持ちを親父に知ってもらいたい、、、そんな気持ちが湧き起こり、

親父に会いたくてたまらなくなるのだ。

その夜も、居酒屋が閉店まじかに俺は訪れた。

暖簾をくぐると、いつものように親父が俺に声をかけてくれた。

しかしその夜は、いつもと違っていた。親父は他のお客と話し込んでいたのだ。

 

俺は仕方なく、カウンターの片隅で飲んでいた。

親父と話しているのは、昔からの馴染みの客のように思えた。親しげに話して

いるのだ。

相手の男は、70歳を超えた高齢者のように思えた。親父とそのお客は、何か

ヒソヒソと話し込んでいる。時々、二人の手が触れ合っているようだった。

 

俺は、手酌で寂しい気分になっていた。

なかなかその客は帰りそうにもなかった。時々二人の笑い声が耳に入ると、俺

は途端に悲しい気分になったのだ。

ひょっとして親父には、俺以外の男がたくさんいるのではないかと思った。

 

いつもだったら、すぐに俺のそばに来てくれるのに、今夜は、そのお客といつ

までも話し込んでいた。

二人の間には、親密感が出ていたのだ。単なるお客ではないと感じた。

親父は、その男の隣に座り、酒を注いだり注がれたりしていた。お客は、親父

に馴れ馴れしい言葉で話しており、普通のお客とは違っていた。

いつまでも話しており、俺が入れる余地は全くなかった。俺は、まるで蚊帳の

外だったのだ。

 

俺はなぜか、いたたまれない気持ちになって来た。

恋い焦がれている親父が、他の男と親しげに話している。しかも俺は無視され

ているのだ。

俺は寂しい気持ちになり、ビール1本だけ飲んで勘定を済ませた。

 

「槙太郎、今夜は済まんな」

親父が俺の耳元でそう言ったけど、俺は今夜は来るんじゃなかったと後悔した。

勘定をすませると、親父はすぐにあの男のそばに座り、話し込んでいたのだ。

店を出ると、俺は何か虚しく悲しい気分になった。

 

親父とあの年配のお客とは、ただならぬ仲のように感じたのだ。

しかし、俺にとっては、親父を知ったのはついこの間のことだ。

まだ知ったばかりなのに、目くじらを立てるのは筋違いだし、あのお客に嫉妬

を感じる俺がおかしいと思った。でも、悲しかった。

あんなに魅力ある親父を、他の男やお客がほおっておくはずがない、俺はそう

思ったのだ。

 

しかし、今夜の俺は悲しかった。

恋い焦がれる親父が、俺の見知らぬ男と親しげに話しをしているのを見るのは、

耐え難く辛かった。

俺は、親父に恋をしてしまったからなのか、、、。

 

今夜の俺の体は、妙に火照(ほて)っていたのだ。その体の火照りを親父に求

めたかったが、親父は、なぜかそんなそぶりを見せなかった。

哀しかった、、、。辛かった、、。

 

店を出ると、俺はやけに男の体が欲しかった。

親父に振られた気分になってしまい、自棄(やけ)になっていたのだ。

男を抱きたい気分だった。誰でもいいから、男を抱いて発散したかった。なぜ

か股間が疼くのだ。男の体を求めて、俺の体が火照ってくる。

 

 

ハッテン場かポルノ映画館に行こうかと思った。しかし、俺には親父がいる。

惚れ込んだ親父がいると思うと、二の足を踏んだ。

俺は何気なくポケットに手を突っ込んだ。

その時、ポケットに携帯があったのだ。俺は、田中を思い出した。田中を抱い

てみたい、あのノンケの田中の白くぽちゃっとした体が欲しくなったのだ。

俺は田中に電話した。

 

呼び出し音が続く。

しばらくすると、

「もしもし、、」

田中が電話に出た。寝ていたのか、眠そうな声だった。

「田中か、俺だ秋山だ」

「えっ、秋山さんですか、田中です」

田中は、弾んだ声で嬉しそうに電話に出た。

「ああ、俺だ。今からお前のところへ行ってもいいか?俺、お前を抱きたいん

だ」

「えっ、本当ですか?僕のところへ来ていただけるんですか?僕、嬉しいです」

田中の声は弾んでいた。

「こんな夜分に、俺が行ってもいいのか?」

「もちろんです。僕、今から車で秋山さんを迎えに行きます。今どこにいらっ

しゃいますか?」

俺は、場所を伝えると、しばらくして車で俺を迎えに来てくれた。

田中はマンションに住んでいた。夜は更けていた。 



                             続 く







トップ アイコン目次へもどる    「秋山槙太郎さんの小説一覧」へもどる
inserted by FC2 system