親父の秘密


                                          さん 


第10話



岩田源次郎が意識不明になり、病院へ搬送された夜、錦糸町の風俗店に警視庁

の強制捜査が入った。

そして、従業員の男達が岩田の殺人未遂の容疑で逮捕され、風俗店は営業停止

となった。

また翌日、岩田の娘さんと暮らしていた男が覚醒剤中毒による変死体となって

発見されたが、すでに娘さんは警察に保護されていたので、彼女に疑いが及ぶ

事はなかった。

その後、岩田の娘さんの借金は梶原が依頼した弁護士によって、過払い金請求

の手続きがなされた。

そして梶原から事情を聞いた娘さんは警察から釈放され、病院へ駆けつけ父と

の再会を果たしたのだった。

「お父さん!!」

病室のベッドで眠る岩田に駆け寄り号泣する娘さんは痩せ細り、写真で見た若

い頃の面影はなかったが、泣きはらした目元の辺りが岩田に似ていた。

「この度は父共々お世話になり、本当に有難うございました。」

少し落ち着いた娘さんが二人に深々と頭を下げ挨拶をする。

「父上がこんな状態になってしまいましたが、貴方が無事で本当に良かった。」

「これからも私達がついていますから、何でも遠慮なく言ってください。」

梶原に続いて真平が言う。

「はい。有難うございます。あのう父とはどういう御関係なのでしょうか?」

娘さんが遠慮がちに尋ねる。

真平が一瞬困惑していると、梶原が何食わぬ顔で言った。

「なぁに。ちょっとした知り合いでね。私達も若い頃、父上にお世話になった

んです。」

すると娘さんは納得したのか意外な事を口にした。

「そうでしたか。父も警察時代、出張で色々な所へ行っていましたから。」

「警察?!」

娘さんの言葉に真平が驚嘆の声をあげた。

「はい。何か?」

「あっ、いや。こいつはただの飲み友達でね。真平、ではそろそろお暇しよう

か?」

梶原はあわてて真平の腕を掴み、病室を出た。

「参ったなあ!岩田さんは元警察官だったんだ。」

「ああ。出張があるという事はあの親父は刑事だったのかもしれんな。」

病院を出た二人が顔を見合わせ苦笑した。

「ところで真平。あの娘さんから目を離さない方が良いな。」

「ああ。俺もそう思っていたんだ。そろそろ薬が切れる頃だね。」

梶原の問いかけに真平が応える。

「全くあの男は酷い事をしやがる!」

「ああ。あの男はシャブの売人だったからなあ。」

今度は真平の言葉に梶原が頷き言った。

「親父さんの意識が回復する前に何とかしなければな。」

「ああ。梶原さん、お願いします。」

真平はそう言うと、踵を返し病院へ戻って行った。

真平が病院へ戻ると、岩田の娘さんが落ち着かない様子でロビーをうろついて

いた。

「お嬢さん、岩田さんに何かありましたか?」

「いえ。そうじゃないんです。病室の窓から男が!男がじっとこちらを見てい

たんです!」

真平の問いかけにそう話す娘さんの顔が蒼ざめ、彼女の手が小刻みに震えてい

る。

「落ち着いてください。岩田さんの病室は5階でベランダはありませんよ。」

真平が彼女の腕を取ってなだめると、彼女がその手を跳ね退け言った。

「私、ちょっとアパートに忘れ物を取りに行ってきます。」

「今夜はもう遅いから明日一緒に行きましょう。」

真平が彼女の前へ立ちはだかり言うと、彼女はものすごい力で真平にぶつかり、

突然大声をあげ泣き崩れた。

「いやぁ!助けてえ!キャア!!」

真平が呆然と立ち尽くしていると、病院の外でサイレンが聴こえ、梶原と二人

の婦人警官が入って来た。

そして彼女達は錯乱状態の娘さんを取り押さえパトカーへ連行して行った。

「馬鹿野郎!テメエ!離せ!!」

梶原と真平は悪態をつく娘さんの変貌ぶりに心痛な面持ちでただ呆然と見送っ

ていた。

やっと会えた父と娘の行く末はこれから一体どうなるのだろうか?



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