親父の秘密


                                          さん 


第11話



岩田源次郎が路上に倒れ意識不明となってから、一か月が経とうとしてい

た。

「親父さん、早く目を覚ましてくださいよ。」

真平は未だ意識不明の岩田の手を握り祈り続けていた。

ベッドサイドのテーブルには梶原が持って来た紫陽花の切り花が二人を優

しく見つめ揺れている。

一方、岩田の娘さんは覚醒剤の常習者として逮捕されたが、彼女は初犯だ

った為、執行猶予付きの判決を受けた。

その後、彼女は専門の病院へ入院し、覚醒剤と決別するため戦っていた。

 

「親父さん、今日は良い天気ですよ。」

真平が病室の窓を開けて岩田に話しかける。

「親父さん、今体を拭いてあげますからね。」

真平がそう言って岩田の布団をめくる。

そして真平が寝巻きの帯を解くと、少し痩せた岩田の白い肌が露になる。

真平は温めの湯でタオルを絞り、岩田の顔から首筋そして胸へとタオルを

滑らせた。

それから真平は寝巻きの袖から腕を引き抜き、彼の脇を丁寧に拭いた。

「親父さん、奇麗になりましたよ。気持ち良いですか?」

「ウウンン」

「そうですか。えっつ?」

一瞬、真平の問いかけに岩田が応えたような気がして、真平は驚いて声を

上げた。

「親父さん、親父さん!!」

「ウウンン、ムムム。」

すると岩田の体が蠢き、彼が意識を取り戻したのだった。

岩田は眩しそうに目を開け、ぼんやりと真平を見つめていた。

「看護士さん、岩田さんが!岩田さんが!!」

真平は何度もナースコールを押し叫んでいた。

そんな真平の声に驚いて駆け付けた看護士と医師が岩田の様子を見て驚き

の声をあげた。

「岩田さん、良かったですね!もう大丈夫ですよ。」

「本当に良かったわ!」

診察を終えた医師と看護士は二人に声をかけ、病室を出て行った。

「親父さん、良かったね。親父さん、ウウウッ!」

真平は泣きながら、岩田の手を何時までも握っていた。

それから間もなく真平から連絡を受けた梶原が息を切らせ病室へ飛び込ん

で来た。

「岩田さん、良かった!本当に良かったですね。」

梶原も岩田の手をしっかりと握りしめ、何度も頷き瞳を潤ませていた。

岩田はその後、脳の精密検査を受け、それからリハビリを開始し徐々に体

力を回復させていった。

「親父さん、気分はいかがですか?」

真平がそう言って病室の窓を開けると、梅雨晴れの空に七色の虹が架かっ

ていた。

「ああ。有難う。娘、娘はどうなったかのう?」

岩田が娘さんの事を口にしたのは、彼が入院して二か月ほど経った頃だっ

た。

「娘さんは無事に助け出されましたよ。今は体調を崩され入院しています

が。」

「入院?どこが悪いんじゃ?」

「大丈夫ですよ。過労だそうです。」

「そうか、、。」

岩田は真平の言葉に黙って頷き、それ以上の事は何も訊ねなかった。

真平も病み上がりの岩田に全てを打ち明ける事はできなかったが、恐らく

元刑事の彼にはすでに察しがついていたのかもしれない。



                                                   続 く 








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