酒場での巡り会い


                                         立花吾朗 さん 



お仲間との付き合いでは、その場限りの単発もの、その後も継続的に関係

を維持するもの、その場合でもその期間が長いか短いか様々なケースがあ

るだろう。

物事一概には言えず、まして各自の基本方針、理念のようなものも存在す

るのだろうから、双方の意向が合致するのは希なのでないか。

 

単身赴任の現役後半の頃、部内で送別会があり8時過ぎには一次会のお開

きになった。社員は近時の傾向として社員旅行、宴会後の二次会を好まな

い傾向が顕著だ。

会社内でも飲み会でも、日中と同じ目線と感覚で上司と向き合うのが煩わ

しいのだろう。

 

僕も二次会を遠慮して、単独行動をすることに何処か胸の高鳴りを覚えて

いた。行く先はたまに訪れる会員制バーである。ドアーを開くと一斉に注

目の眼が注がれる、咄嗟のその動きは既にペアであったとしても新入りへ

の好奇心からなのだろう。

 

マスターも僕のタイプを心得ており、一人で人待ち顔の何処か憂いのある

先客の初老の紳士の脇にと案内してくれた。

一見しての直感で、何とか落としてみたい気持ちが湧いてきた。

「お隣へご一緒させて戴いていいですか?」

「よろしかったら、どうぞ」

好感を持たれたのかとホッとして隣の席に着いた。お近づきにとビールを

お勧めし、話のきっかけを作って積極的に前進を試みた。

 

この先生(仮呼称)のおっしゃるには、この道へのデビューは10年程前だ

ったが、とてもほろ苦い初体験であって以降臆病になってしまい、今日ま

で堪えに堪えながらやるせない日々を過ごしてきたとのこと。近ごろにな

って、欲望が燃えだして再び思いを遂げたいと、とても自信は無いのだけ

れどもしやとの思いからこの類いのバーに足が向いたとのこと。とても勇

気が必要だったとか、だから少し酔いの勢いを借りてですよ、と。

 

こんな時に巡り会う相手の存在が、その後の日常生活をも変えてしまう程

の変化をもたらすことになるキーマンなのである。

しかし、永続性のあるお付き合いの入り口には、数限りない諸々の趣味・

嗜好等々の関門が山積しているのが一般的なのである。

即ち、最終的な目標は言わずもがなのだが、もっとも一回のみの行為で

一向構わないと思えば、可成り範囲は拡大するのだが……

 

先生のほろ苦い初体験をベースにしながら、前向きに話を進めたものだ。

カラオケが好きという共通点を発見し、歌の傾向も当時の「ラジオ歌謡」

を好んで歌うそうで、この趣味の一致を見てぐっと親近感も増し、順調に

前進していることは間違いなかった。

「母あればこそ」、「麦踏みながら」、「みどりの牧場」、「恋を呼ぶ歌」、

「あざみの歌」、「山のけむり」など存分に歌い合った。

和やかして雰囲気の中、少し先を急ぐことにした。

「どうでしょうお手合わせしましょうか?」

先生は少し躊躇気味だったが、

「貴方にお任せします」との一任を取り付けたのだった。

 

出会いとは簡単なものでは無いが、運があったものか性談は成功したのだ

った。ホテルでの濡れ場は割愛するが、
先生は「想像以上に異次元の世界

に彷徨いました。未だ後ろが何かに塞がれているような、詰まっているよ

うな感覚が残りますが、とても満足です。よろしかったらこれからも時々

宜しくお付き合い下さい。お願いします」

「それは良かったですね。僕も満足して頂いて嬉しいです。時々お逢いし

ましょう。こちらこそ宜しくお願いします」

と、双方運よく理想のお相手に巡り会うことが出来たのでたした。

                          〔完〕








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