アナザーストーリー (ミラーバージョン)

                                         おだぞお さん 


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 金曜の終業はトラブルのない限り、定時退社が暗黙の了解。

 僕も定時に退社の準備。浮かれてはいない。ただ、奇妙な緊張感。このまま、何事

もなく、誰にも誘われることなく姿を消したい。

 彼に会ったり、他の誰かに誘われたりすると、いらぬ弁解や嘘をつかなければいけ

なくなる。

 僕はトイレの個室に入り、しばし時間をやり過ごす。用を足したいのではない。みん

なとタイミングをずらしたいだけだ。

 ○○ホテルは帰路とは反対方向。都会のどこに行こうと勝手なはずだが、なんとなく

気後れするような気分。体中にアドレナリンが駆け巡っていて、体をそのまま運ぶには

抵抗のある妙な感覚。

 気持ちを落ち着かせるのは一人になるのが一番だ。

 そこへ、ARAHIさんからの携帯メール。

 ホテルの部屋番号が書いてある。部屋へ直行しろということか。ARAHIさんはもうホ

テルにいるのだ。あの人のことだ、外出先から直帰とか言って、早々に会社を後にし

たのだろう。

 僕は時間を見計らってトイレを後にする。

 一応、何事もなく退社。何もこんな小細工などする必要もなかったと、小さな反省。

 もう、6時になろうとしているのに街はまだ明るい。ずいぶん陽が伸びたものだ。逢

瀬に陽を浴びて向かうのは気持ちがまぶしい。すれ違う人たちが「どこへ行くの?」と、

聞いてくるようだ。

僕はいつもの地下鉄にはそのまま入らず、一つ先の駅から向かうことにした。タクシ

ーで乗り入れる必要もない。

時間はまだたっぷりある。

                                                続 く 


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