アナザーストーリー (ミラーバージョン)

                                         おだぞお さん 


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 ・・・揺れている。ゆっくり、ゆったり小船のようなゆるい揺れの感覚だ。ワイングラスの

中の琥珀色した液体が僕の体と共に揺れている。もう何時になるのか。まったりとし

た時の流れは濃厚なエロチシズムの中で止まってしまったかのようだ。

 ARAHIさんとは数え切れないほど飲んだのに、考えてみればこんなリラックスした飲

み方は初めてだった。

 ARAHIさんは裸に白いガウンを羽織り、前ははだけたままだ。ソファーに左足を乗せ、

もう片方は裸足のままじゅうたんの上に放り出してある。もう2本目を空けたはずなの

に、ワイングラスにまた新たな酒を注いでいる。

 僕はARAHIさんの左足を尻に感じながら、くっつくでもなく離れるでもなく、同じガウン

を着て揺れている。振り向けばARAHIさんのおとなしくなった一物がガウンの間から

覗いている。

 ARAHIさんは自分のグラスにワインを注ぎ終わると、左腕を僕の首に回し引き寄せた。

僕は右手にグラスを持ったまま、後ろ向きにARAHIさんの胸元にゆっくり倒れた。剛毛

の生えた太い腕が僕ののど元にかかっていた。まるで大きな波に襲われた小船のよ

うに、抵抗する術もなくそのまま後ろ向きに倒れこんだ。こぼさないようにグラスを幾

分持ち上げると、そこへこんどは並々とワインを注ぐのだ。

「さあ、飲め。ワインはいくらでもある」

「こぼれちゃいますよ」

僕は倒れたままの姿勢から、グラスに向き直って顔を近づけて、ビールを飲むように

ワインを含んだ。そして、伸びをしてARAHIさんの唇を奪い、含んだワインを少しづつ

流しはじめた。

 仰向けに倒れたARAHIさんは僕の口移しのワインを素直に飲み込んでいる。僕の

ひざにARAHIさんのペニスが当たっている。柔らかなままの感触が、もう何度したか

分からない欲情に火をつける。

 僕はワインを移し終えると、こぼれたARAHIさんの口元を舐める。あごを舐める。のど

元を舐める。胸元を舐める。乳首を舐める。そうこうするうちにまた気分が高揚してくる。

ゆらゆら揺れながら、再び底知れない熱い欲情がこみ上げる。ひざに触れるペニスも

次第に元気になってくる。僕のも熱くなっていく。


 どうしてこんなに狂ってしまったのか。どうしてこんなに業が深いのか。熱い頭の中で

どうして、どうしてと尽きない思いが身体中を駆け巡った。それでも口は止まらない。

 その時、くるくると回っていた揺れが突然大きくなった。突き上げるような、身体を突き

抜ける大地震に、僕は思わず口を押さえて、バスルームに走った。

 あふれる思いは途中で断ち切れ、酔いの嘔吐が便器にあふれ出た。

「すまん、俺の気遣いが足りなかった」

 ARAHIさんは裸のまますぐに僕を追いかけ、バスルームに現れた。そして、背中をさ

すりながら独り言のように何度も何度もわびた。

「こんな気持ちのいい飲み方は今までなかったからな。ついつい自分のペースでやっ

てしまった。お前のこと考えなかったな。ごめんよ。苦しいか」

 僕が吐き出すものがなくなって、涙と鼻水と嘔吐のカスでぐしゃぐしゃになった顔を向

けると、なんとARAHIさんも涙している。

「もう、出すものはないか」

「はい」

「口を開け、強制的に出してやる」

 後頭部を左手で抑えると、僕の口に人差し指と中指を入れてきた。やさしいのか乱

暴なのか分からない。酔いが僕のそんな判断を許さない。再びこみ上げる嘔吐に、僕

は涙と鼻水で情けなかった。

 背中をさすったり、ミネラルウォータを用意したり甲斐甲斐しい作業を終えると、裸の

まま僕を抱きしめた。

「今日はこのまま休もう」

 僕が汚れて、ぬれたガウンを脱ぐと、再び抱きしめ、キスをしてきた。嘔吐のにおいが

残っていないか、ふと思ったが、気にもしていないようであった。

 僕は促されるまま、横になった。ARAHIさんは冷えた僕の体をいたわるように背後か

ら抱きしめた。裸のぬくもりが僕の中に伝わってきた。

 薄明かりの中で、部屋中が音もなくゆっくりと回転していた。目を閉じても、回っている

感覚は、ずっと続いていた。奈落の底に落ちていくような気配だった。

                                                続 く 


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