想い出の新世界


                                         花栗 さん


その1



もう今はありません。

「三吉」というフケ専のスナックが路地の奥にありました。

小さな店で、カウンターに、詰めて10人座れたでしょうか。

20年ほど前のことです。

その頃は毎週、土曜日か日曜日に行っていました。

そこで見かけるようになったアベックがいました。

二人とも七十前後だったでしょう。

どちらも太目で、白髪の方は70キロ台。もう一人は80キロ台。

と云った二人で、どちらも温厚なおとなしい穏やかな性格のようでした。

その白髪の、少し小柄な方は、どうやらMの気があるようでした。

僕の隣に座ったとき、僕は二人の話の内容から、そういうことを感じたのです。

それは、僕が興味本位でキタにある「ロマン」というSMの店に何度か行ったこともあっ

たから、敏感にアンテナが反応したのでしょう。


「縄の跡がまだ残ってみたいよ。ごまかすのに汗かいちゃったワ」

「ハハハハ」


小声で話すそんな会話を僕は聞き逃さなかったのです。

ナヨナヨとはしていませんが、顔が女優の乙羽信子に似た可愛い爺さんでした。

色白な横顔を僕は、ビールを飲みながら覗くように襟足など見たりしていました。

すると、僕の膝に膝をくっけて来たのです!

初め、偶然に当たったんだと思って、ヒソヒソ話す二人の横顔をチラチラ見ていました

けど、それは偶然ではなく、ピタッと意識的にくっつけて来たのです。

僕はもうドキドキとしてきて、横目でお爺さんを見るように見ては、また乾いた喉にビ

ールを流して、動向を見守るような気持ちでした。

すると、お爺さんは顔は相手に向けて話していたのですが、カウンターの下、マスタ

ーや他の客に見えないように、左手をまさぐるようにして僕の膝に指を伸ばして来た

のです。

僕はもうどんどんドキドキが増して行きます。

摘まんだ玉子焼きを箸から「あっ!」と、滑らせてしまいました。

幸い、皿からは零れ落ちませんでしたが添えられていた大根おろしと薑が皿から飛び

上がりました。

醤油汁がカウンターに飛びましたが、マスターがすぐに拭いてくれておさまりました。

が、そのとき、お爺さんが反射的に引っ込めた手の動きを、相手が眼鏡の奥で見た

のです!


それからはスナックで出会うことがあって、並んで三人座るチャンスがあっても、僕と

遮るように眼鏡の太った方が、隣に座るようになりました。

僕が話しかけると、話はしてくれるものの、白髪のお爺さんとは話の邪魔をするのでし

た。

はっきりとではありません。何か奥歯に物の挟まったような話し方だったのです。


その、憎たらしい方が、その頃よく歌っていたのが、北島三郎の「雄松伝」です。

どうやら、二人で鳥取に旅行に行って来たようでした。

吉岡に泊まって酔うて、遊んだのでしょう。


絵は、そんな二人のイメージです。

歌もそんな二人を少し想像したところもあります。

よかったら聴いてください。


http://www.youtube.com/watch?v=oCirxj7fstg&feature=share&list=UUfyUyL7W_Q7uYhj7FuTW7hw


           

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