想い出の新世界


                                         花栗 さん


その12




 ハレンチで好奇心いっぱいの僕ですが、好きになって行くと、相手しか

見えなくなって行くようです。

「それでは、もし理想の人とスナック等で出会い、モーションかけられた

らどうなの?」

そう訊かれたら、「今、相手がいるから浮気はしない。」と答えるでしょ

う。

けど、それはあくまでも相手も僕だけを愛してくれることでの気持です。

「相手が浮気しないかぎりは浮気はしない。」

「ずっとずっと、ふたり。いつまでもいつまでも」若い頃はそんな思いの

自分でした。

 

 ○上さんが事の後に言った「○クちゃんとは(再会してから)一回だけよ」

と言った言葉を僕は信じた。

嘘をついてる横顔では無かったから。嘘のヘタクソな人でした。

「菊ちゃんだけよ。こんなこと(ウケること)するの」と言ったことも本当

だと思いました。

詳しくは訊きませんでしたが、○クちゃんとは、いつも舐るかシックスナ

インだったようです。

元々お尻は感じるタイプでは無かったようです。

シックスナインが一番好きだった人です。

 僕は一度入れたから、もうシックスナインでは満足できず、その気持ち

をわかってくれました。

回数を重ねる毎に○上さんの家に行く日の期間が縮まりました。

○上さんは毎日のように大阪のスナックへ飲みに出かけていましたが、○

クちゃんと一緒ということで僕は安心していたのでしょう。諦めの気持ち

もありながら。

僕はピタリと「竹の家」に行くことをやめました。

それは、○上さんが今は○クちゃんとはセックス無しの付き合いで、僕と

だけだということがわかったから内緒で裏切るようなことは止めたのです。

けど、淋しい気持ちはありました。「竹の家」ではありません。

それは、いつも僕は一人で京都のスナックに出かけるしかなかったからで

す。

○クちゃんには、僕とは「もう会っていない」と伝えてる気がして、大阪

に出かけることは控えたのです。

「飲めば飲むほど逢いたくなって…」といった歌詞ではないけど、「マル

サン」「雅」「都」と梯子を重ね、とうとう○上さんの帰りを、○上さん

の家の近くの歩道橋の上から、帰って来るタクシーを待ったことを思い出

します。

大阪から最終で帰り、河原町からタクシーに乗ると、時刻は12時半を回

ってたと思います。冬の寒い日でした。けど、心はそれほど熱かったので

す。帰りが待ち遠しくワクワクしていたのです。

タクシーが食堂の前の電話ボックスの傍に止まると(あれだ!帰ってきた

)と胸を躍らせて、階段を靴音響かせて駆けるように降りて行きます。

気づかないままに家へ向かう丸めたコートの背に「お父さん」と呼びかけ

ました。

すぐさま振り向いた顔が今も胸のどこかに、二人だけの秘密のようにあり

ます。

「おおぅ、菊ちゃん。」

と、まさか僕が歩道橋で帰りを待ってたなんて思いもよらなかったのでし

ょう。

そんな驚きの表情にまだ酔いの残った頬を染めた顔が愛しく思えました。

「待っててくれたんか。寒かったやろ。家の中に入ってればいいのに。」

「うん。歩道橋から早く見たかったから。」

そんな返事をしたように思います。

合鍵は息子さんしか持っていませんでしたが、その頃はもう僕にも渡して

くれてました。

記憶の日が少し曖昧で前後してるかもわかりません。が、ずれていても、

そんなには違っていないはずです。

○クちゃんと再び付き合うようになった○上さんでしたが、そう長く続く

ことはなかったのです。

それは、○クちゃんが○上さんに内緒で、別に「お父さん」が居たという

のがバレたのです。そのショックが大きかったようです。それだけ○クち

ゃんを信じていたのでしょう。

どういう別れ方をして来たのかは二人でしかわかりませんが、こういうこ

とがありました。

それは、僕が「雅」で飲んでいたときでした。まだ早い時間帯なのに大阪

からの帰りの○上さんが入って来たのです。

ガラリと戸を開け、マスターの「○上さん、いらっしゃい」に、予想もし

ない驚きと嬉しさに振り向いた僕の顔を見ると、「菊ちゃん来てたの…」

と言った顔が、眼鏡の奥の目が、いつもと違って曇っていました。

 

「いらっしゃい、○上さん。今日は早いやないの。大阪へは行ってなかっ

たの?」

と訊くマスターとお父さんに「別れて来たんや。」と、いつになく淋しげ

な、そして、怒ってるような顔でもありました。

「どないしたの?」と訊くマスターに、「○クちゃんにお父さんが出来て

たんや。二股かけとったんや…」

「どうもおかしいなァとは、うすうす思ぅていたけど…。」

そう云うと、ため息つきながら差し出されたおしぼりで手を拭きました。

「またすぐ仲直りするんじゃないの?」

「いつもの慣れたこと」と云うようなニヤニヤした顔で見ています。

けど、「いや…!」と初めて見せる口を結んだ顔をしました。

マスターはそれでもまだ本気にしていない顔で見ています。

お父さんは話に相槌うちながらビールを注いで注がれていました。

隣の席に居た○本さんが、意味あり気に膝で『良かったね』と云うように

付けて離しました。それからマスターに「花と竜」をかけてもらって歌っ

ていました。

いつもそのフレーズのとこだけ気持ちを込めて歌うけど、そのときは、よ

り感情を込めてたようです。

「恋も未練も浪間に捨てる! それが男さ、それが男さ花と竜ぅ~~!」

 

いつになくションボリの○上さんの顔を見ていたマスターも、いつしかニ

ヤニヤ見ていた表情もおさまると、久々に自分でも歌いました。

「人妻椿」や「路傍の花」が持ち歌のようでした。

それから○上さんにも「カラオケでも歌ったら?」と勧めて、だんだんと

いつもの○上さんに戻りました。

相変わらずの、マイクを口の前で回しながらの歌唱です。

それを見てマスターが僕の方を見て、尺八する手つきをして笑わせます。

○上さんは、それが自分の歌唱のマネとは気づかず、○上さんもそれを見

て笑いました。

お父さんも1曲歌いました。十八番の、ぴんからの「女の旅路」です。

 

 明るさを取り戻したかに見えた横顔でしたが、やはり相当なショックだ

ったようです。

家に帰ると、急に思い出したかのように、愚痴とため息の交互でした。

「知らんうちに、ちゃんとお父さんを別にこしらえてからに…!」

「いつの間に出来たんやろ?」

僕に言うとなく、そんな独り言をネクタイを外しながら、また大きなため

息をついてはこぼしていました。

 寝間に入ってからも、何かいろんなことが頭の中でグルグルと回ってい

たのでしょう。

いきなりキスを求め、その合わさってる唇からまたため息が漏れました。

僕の要求通りに、その夜も、赤ちゃんのオムツ替えのように、白のデカパ

ンを引き脱がせると、両足を抱えたまま待っています。

僕があてがう枕を待って。

 

○上さんは、いわゆる「感じるタイプ」ではありませんでした。

もしそうなら、とうにウケの味を覚えていたでしょう。

初めは必至に苦痛をこらえていたようです。

「ちっともいいことあらへん。好きやから辛抱しとるんや。」

「雅」のお父さんと、同じように話が合うのか、二人でそんな話をしてた

のを傍で聞いてたことがあります。

 でも、こんなこと言ったことがあります。

「こんな味覚えさせてどうすんのよ」と。






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