想い出の新世界


                                         花栗 さん


その14




 正月は娘夫婦が隣県から車でやって来たが、挨拶を済ますと息子の住ん

でる下賀茂へと行ったようだ。

僕と初めて出会ったのに、まるで違和感を持たずに接してくれた。

ふつうは親子ほど歳が離れた客なら『誰だろう?』と思うはずだけど。

それはたぶん、○クちゃんで慣れていたのだろうが。父親の性癖をまるで

疑うことなど、これまで一度も無かったようだ。

それは親子の会話を見ていても、父親を信頼しきってることがわかる気が

した。

いつだったか、娘たちが来ていたときに電話がかかってきたことがあった。

「ああ、ヤマちゃんかいな。誰かと思った。」というのを聞いてて、大阪

のスナックで知り合った人だと思えた。

でも、こういう場合も何ら表情も声も変わらないのであった。

『そういえば、まるでオネエ言葉の無い人だなァ…』と改めて思ったこと

がある。

ビールを飲むときに、コップを持つ手の小指は立っているが。娘たちの前

でも、思い切りピンと。

息子も娘たちもまるでそういうことには興味もなく、無頓着であったのだ

ろう。

 

 こんなエピソードがあります。

あるとき、息子の嫁と娘が来ていて、「お父さん、いつも大阪のどんなと

ころに飲みに行ってるの?私たちも一度連れてってよ」とせがまれたそう

だ。

そんな時、ふつうは何処か梅田か千日前辺りの、スナックでなくとも、適

当な飲食店でごまかすだろう。

それを馬鹿正直に、新世界の行きつけのスナックへ連れて行ったそうだ。

日曜日の、開店したばかりの昼過ぎとはいえ、客もすでに数人いたようだ。

マスターも驚いただろうが客も気を使っただろう。

さすがにこのときは「困った。冷や汗かいたワ」と聞いたのを覚えている。

それは、息子の嫁の言った言葉にであった。

娘は特に何も言わなかったそうだが、息子の嫁が、店内の壁、様子などキ

ョロキョロと見まわして言った言葉。

「お父さん、ここ、何かちがうね?」

その言葉にはさすがにドキドキだったろう。マスターも。

 

 ○上さんは、スナックで心やすく打ち解けた話の出来る人と知り合うと、

すぐに名刺を渡す癖があったようだ。

それで、よく電話がかかってきていたようだ。渡した相手の顔も忘れてい

て。

軽い浮気はよくしてたのではないかと、後々いろいろ想像した。「あの人

ともあるだろな。」とか。

そんな一人に、「しぶ柿」で、あるときから手伝いをしてるのを見かける

ようになった鹿児島出身の六十代の人がいる。

Yちゃんが辞めたあと、急きょだったかもしれない。

○上さんから聞いたのだが、客がリンゴを周りの人に一切れずつ手渡して

たのに「わたしにだけくれない!」と、プイと店を飛び出たんだそうな。

その後に、タイミングよく手伝うようになったのかもしれない。

鹿児島に家族を残して働きに来ていると聞いたから、昼間はどこかで働い

ていたのだろう。

よそのスナックで見かけたことがない人だったから「しぶ柿」が初めてだ

ったのかも知れないし、何かのきっかけで、この道を覚えたのかも知れな

い。

そんな、まだ何もかも慣れきっていない感じに見えた。ビールを運ぶのも、

話し方も素朴な印象であった。

人柄も純朴そうで、まるで悪気のない田舎の人といった感じだった。いつ

Yちゃんのように着物姿であったけど、Yちゃんのように着こなし上手で

はなかった。

ガッチリさせた大泉逸郎に、野暮ったい和服姿。そんな風貌でした。

名前は忘れたけど、何故この人と遊んだことがあるように思えたかという

と、○上さんが「しぶ柿」で僕に言ったひとこと。

「ちんぽが大きいんよ。」

僕に手つきまでして見せた。うっかりであったろうけど。

でも、一つだけ欠点があった。

それは、飲んで酔ってくると、酒癖が悪くなるというものであった。

それがなかったら続いていたでしょう。

その後、新世界で見かけなくなりました。

田舎へ帰って行ったのかもしれません。

 

 ○上さんは親しい人に出会うと、背中を抱くようにしながら話す癖があ

ります。

しかも、話しながら「チョイ」と相手の股間を摩ったり、摘まむ仕草をし

ます。

人通りのある商店街であっても、周囲の目などまるでもう思いもしなかっ

たのでしょう。

 京都のサーちゃんと、寺町通りで出会ったときのことです。

向うから歩いて来るのを見つけると、「あ、サーちゃんや!」と、つかつ

かと近寄って行くと、手を握り腰を片手で抱くようにして話しかけました。

そして、すかさず「クイ」とズボンの上からですが、摘まんだのです。

サーちゃんはビックリして思わず腰を引きましたが、それをまた手を伸ば

して摘まもうとするのです。

そして例の調子で「ガハハハハ」と大きな声で笑います。

その笑い声に周囲の歩いてる人が見るけど、本人は何も気づかないようで

す。

僕は他人のふりして素早くその場を離れていたかもしれません。恥ずかし

すぎます。

サーちゃんも色白な顔が真っ赤になっていたようです。

 

「人がいっぱい歩いてるのに、ほんまかなわんわ!このお父は!」

と「マルサン」のお父さんにぼやいていたことがあります。

「まあ!いや~ねェ」

「ガハハハハ」

そんな光景を思い出します。

サーちゃんとはそれだけ気心知れた仲だからだったのでしょうね。

仕事の関係で手に入るのか、よく南座のチケットを○上さんにあげてまし

た。

僕も、歌舞伎や藤山寛美の芝居を一緒に観に行きました。(歌舞伎は寝てし

まったことが多かったけど
)

サーちゃんは若い子はダメで、お爺さん相手のウケだと聞いています。

もしかしたら一度くらいはあるのではないだろうかと、そんなこと思った

りします。

性格はアッサリした感じでしたが、浮気もんだったようです。

その頃、ゼンさんという、東山で何かお店をしてるという相手がいました。

サーちゃんよりも2つ3つ年上で、小太りなサーちゃんとは対照的な、ス

マートでスラリとしたお爺さんでした。

とてもお洒落なお爺さんで、仄かにコロンの良い香りをさせて、着る服装

も、いつもこだわりがあったようです。

あるとき、僕がちっともそのコートの良さに気がつかないものだから、じ

れったい気持ちになったのかもしれません。

「これカシミアよ。」と自慢げに教えてくれたことがあります。

が、当時の僕はカシミアがそんなに高価とも何も知らなかったし、初めて

聞く名前でした。

それで精一杯の賛辞のつもりで、「ふ~ん。テトロンみたいだね。」と言

ったかもしれません。

(むかしは、「テイジンテトロン」は学生服の高級地だったのです。それで

そう思ったわけです。
)

けど、ゼンさんは「ムッ」とした顔をされました。

 そんないつもお洒落なゼンさんであったが、サーちゃんの方がモテてい

たようです。

どうも、ウケよりもタチの方がヤキモチが多いような気がします。

あるとき、「マルサン」で一人淋しく飲んでるゼンさんに「サーちゃんは

?」と訊いたことがあります。

その頃は、「マルサン」でサーちゃんと二人待ち合わせしていたからです。

すると「知らない!サー子なんて!どうせ大阪で浮気してるのでしょ!」

と、吐き捨てるように言って、ぐびぐび飲んでいたことがあります。

よからぬ想像が、サーちゃんが見知らぬお爺さんに抱かれて善がってる姿

が、頭の中にグルグル浮かんで仕方ないといった様子でした。

目に涙が滲んでるのを見たこともあります。

「マルサン」のお父さんが慰めるのに大変そうでした。

「まったく、サーちゃんたら。ゼンさんが待ってるのにねェ」

そう、なだめるのでしたが、うっかり「あのコもモテるからねェ」と言っ

てしまいました。

もうゼンさんはヤケ酒です。

 

「色白」「小太り」「白髪」「ちょび髭」でウケとくれば、モテないはず

がありません。

ジェラシーがゼンさんのグラスにどんどん渦を巻いて行きます。

雰囲気を変えようと「マルサン」のお父さんは僕たちにマイクを差し出し

ます。

○上さんが「夢追い酒」を歌います。どこかにまだ○ちゃんに未練を残し

て。






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