火の宮さんの体験談 №6            .




同郷の兄さん



(6) さよならも言えず


(最終回)



  ラブホを出てから兄さんと食事をしたかどうかは覚えていない。

名残惜しいが、兄さんは家に帰らなければならない。

どうやって奥さんに言って家を出て来たの?

中学の同級生に逢うって言って出た

家に連れて来れば?って言われなかった?

()言われたけど、年の差あるやん無理やんか

 

兄さんは寂しく笑った。

 

大阪のどこをどう歩いたかももう覚えていない。

ただ、私は帰りたくは無かった。

なんだかんだで兄さんを引き留めていた記憶がある。

泊まるホテルも何も決めていなかった私に兄さんは呆れながらも、古

い連れ込み旅館のような場所を探して「ここに泊まって帰れ」と言っ

てくれた。

恐ろしく古い建物は廊下が斜めになっていた。

女将さんに断って兄さんは部屋までついて来た。

悲しくて泣きたくて兄さんに抱きついた。

暫く抱きしめあったが、もう終電に近い時間だった。

また…逢えるよな……

兄さんの言葉に黙って頷いた。

 

翌日どうやって家に帰ったかよく覚えていない。

久しぶりに大阪に来たのに、悲しくて新幹線に飛びのって帰ったんだ

と思います。

 

家に帰っても暫くは何も手につかなかった。

こちらから連絡することも出来ず、兄さんからの連絡を待つばかり。

仕事が変わった…今タクシーに乗ってるねん

次来たら連絡してや 乗せたるで

 

  兄さんと最後に交わした会話

 

その後、家族の不注意で兄さんからの電話が来なくなった。

ポッカリ胸に穴が開いた感覚が暫く消えなかった。

 

  その後漸く立ち直り、私も色々経験することになる。

しかし、兄さんの面影が消えることはなかった。

NT市には10年ほど前と昨年久しぶりに行くことができた。

夜ではなく、昼間でしたが…。

 

  少し変わったかな くらいのT

今でも駅裏の公園に人は来ているのだろうか。

 

また行ってみたい。今度は夜に。

夜の公園で兄さんが『話ししまへんか?』と声をかけてきてくれるか

もしれない。

 

  元気にしていればもう還暦は過ぎている。

 

どんな素敵な叔父様になっているんだろう

 

初体験は兄さんで本当に良かったよ。

逢いたいけれど、次に逢えるのはあの世だよね。

優しい兄さんが元気でいますように。

ありがとう。









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